母が死んだ
母が死んだ。
15年間連れ添ってきた母だ。
私は味のしないカレエスープを喉にかき込みながら、
母が死んだあの日のことを、思い出した。
具材も調味料も、お鍋もアイエッチコンロも、
レシピブックや街のショオウィンドオに見かけるような、家庭的なものだ。
ただ、手つくりのカレエスープは、
どうにもこうにも、味がしないのだ。
カレエルウを水で割った薄っぺらい味と、
緑のかがやきを完全に失ったしなびたピーマンの、
得も言えぬ味が、するだけだ。
ああ、私は。
私は、人を殺したのだ――
ガチャリ。
築30年の古いアパアトの玄関を開けて、
黒色のレベッカムのシューズを履いて、外に出た。
空は青く陽は眩しく。
光とはこんなにも眩かったのかと、私は毎朝散歩に家を出るたびに思う。
時刻は9時過ぎ。時候は3月も末。
道行くスーツ姿のサラリィマンたちとすれ違いながら、
精々10分の散歩のルーティーンを終える。
嗚呼、人はなんと愚かだ。
こんなに傍を、人殺しが歩いていても、
誰も気にしないものだな。
私は、玄関の戸を開けた。
私はいつか、大量殺人鬼に、なれるだろうか。