プロローグ
ただいま伯爵
斬擊は鋭く、誰かに師事したわけでもない我流ながら、その武技は至高の領域に近い。
大した才能だ。
「それだけできながら、何が不満なんだよ!」
ダレン・テゼルからしたら天童有紗の才能は羨ましい限りだ。
自分が望んでも手に入らないものを持っているくせにそれを望んでない、いらないなど言われては我慢ならない。
相手の姿こそが己の望む姿なのだ。それだけで、狂おしいほどに嫉妬するには十分だ。
「何もかもよ!」
有紗もまた同じだった。
放たれる魔法、都合十種。強化魔法と先ほどの幻覚魔法まで継続しようしているのなら、少なくとも十二種の魔法が同時に有紗の足止めに使われている。
まさしく日本一、いや世界一かもしれない技量と魔力だ。
それほど流麗に魔法を使い、有紗が認められなかった天童に認められている。
大した才能だ。
「何が不満なのよ!」
有紗からしたら羨ましい限りだ。
自分が望んでも手に入らないものを持っているくせにそれを望んでない、魔剣の方がほしいだとか羨ましいなど言われては我慢ならない。
相手の姿こそが己の望む姿なのだ。それだけで、狂おしいほどに嫉妬するには十分。
「何もかもだ!」
そう、何もかもだ。
相手が己の夢を掴んでいることも。
相手が己の夢をいらないと言っていることも。
己の夢を叶えることが出来ないことが何よりも不満で無様で狂おしいほどに腹立たしい!
「何でだよ! 真理を掴んで魔剣を抜いてるくせに何で魔法にこだわる!」
「それがないと誰も認めてくれない! 誰も生きて良いよって言ってくれない! 家畜でしかない! それに――」
吐き出した慟哭には血が滲んでいる。
自らの傷を抉り出すかのような絶叫が夜を引き裂いていく。
「あんたこそなんなのよ! 魔法が使えて、そんなに強くて天童にも認められているのに、何で魔剣に拘るのよ!」
「それがなきゃ誰も認めてくれない! 生きる居場所がどこにもないんだよ! 誰かに生かされる家畜でしかないんだよ! それに――」
腫れ物を扱われるような疎外感。
誰もが一歩引いて見ている。いや、見てすらいない。
価値などない路傍の石にすら劣るもの。生きる意味などどこにもない憐れな半死者。
だからこそ求める。
魔剣がなければ、魔法がければ。
「「――あいつらを見返せない!!」」
魔剣が使えないとバカにしたやつ。
魔法が使えないとバカにしたやつ。
俺を認めないやつ。
私を認めないやつ。
「俺の魔剣で認めさせてやる」
「私の魔法で認めさせてやる」
全部全員、この世全て――!