御神楽雪斗が消えた日
俺の名前は御神楽 雪斗 16歳
十六年前、都内の病院でごくありふれた両親の元、元気な男の子として生を受ける
特別だったことと言えば生まれた日が2月29日で、雪が降った日だったということぐらいだ
名前は父が「雪が降っていたから」という理由で名付けたそうだ
念願の子ども、一人息子だったため甘やかされて育てられることとなる
両親は共働きだったため幼いころから保育園に預けられることが多かった
それでも俺が寂しい思いをしないようにと休みの日にはよく遊園地などに連れて行ってくれた
普通に遊んで、普通に暮らす、ありがたいことに大きな病気になることはなく、大きな怪我をすることもなかった
幸せな何事もない日常を謳歌する日々
それからも俺は波の無い凪のような人生を送る
中学の時は部活に入ったりもした、恋人がいた時もある、それなりに友達もいて、帰り道には友達と話して帰ったりもした、部活も引退の季節になり受験勉強で悩んだりした
なんとなくで受けた家に一番近い高校に大した勉強もせず合格した、なんとなくでピアスを開けた、髪を染めてみたりして、自分にないキャラを演じてみたり、バイトを始めてみたり、部活には入らなかった、授業が終わりそのまま家に帰る日々
したいことはない、するべきことはない、こんなものだろう……と何かに見切りをつける
ただの平凡な高校生だ
そうだ、いつからだったろう……そんな日々を、退屈だと感じてしまうようになったのは
バイトがないから今日はテレビゲームをする
他にもできることがあることはわかっている
したいことがあるというわけでもない、しなければならないがあるというわけでもない
だが、何かをしなければならない、そんな危機感だけが押し寄せる
じゃあ、何ができる?
そう考えると何も考えられなくなる
想像すると怖くなったんだ
このままどこかしらの大学に入り、どこかしらの企業に就職し、家庭をもつかもしれない、子供が一人立ちし、老後の生活をおくり、何事もなければ最後は寿命で死んでいく
いや、きっとそうなる、そうなる予感がする
自分はこのまま平凡な人生を歩み、死の間際にこう言うのだ
「幸せだった」と……
誰かが言った、退屈は人を殺す病であると
なら…きっと、特別は人を殺せる凶器だ
人と違うことがしたくて、人と違うものを求めて、何かを求めて旅をしている
ああ、そうか……だとすると俺はいつからか蝕まれていたわけだ
このまま生きていけば特別を持たない俺は人の群れに埋もれて消えていく、だが特別を持っていたとしても人の声に殺されてしまう
それでも特別な何かを求めて旅を続ける
ただ普通に生きているだけなのに、救いを求めている
時計の針が午後の六時を回る、もう少しすると母親が返ってくる
今日の夕飯は……豪華にすると言っていたな
――――――――――――!
鈍い音が聞こえた、錆びた鉄と鉄が強く打ちつけられたような重く鈍い音が
そういえばもう六時だというのに外がやけに明るい、昼間とは違った明るさがある
突然だ、突然に目の前が白い光に包まれ視界が揺らぐ
めまい?地震?
その考えは手にしたコントローラーと目の前のテレビが光の粒に変わったことでかき消される
ジェットコースターに乗ったような体の浮遊感、めまいと相まって気が遠のきそうになる
朦朧とした意識の中、確かに声が聞こえた気がした
誰かが何かを話している……外が明るい、いつの間に外に出た……なぜこんなに煙がたっている……どこからか歓声が聞こえる……黒いローブの男……
疲労感と眠気が襲い掛かる、意識を保っていることができない
糸が切れたように後ろに倒れこむ
二月の二十九日
この日、都内の一般家庭から一人の少年が消えることとなる
このことはきっとニュースなどで取り上げられることになっただろう
しかし、俺はそのことを知ることはない
俺は世界から消えた
ほら、言っただろう……特別は人を殺してしまう
俺は自分が望んでやまなかった特別な何かに殺されてしまった
きっとこの時、俺の旅は終わった
――――――――――――【勇者】の称号を会得しました
もう一度言おう。
俺は平凡な高校生だった。