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魔王が生まれた日


 この世界に生まれ落ちたものは皆、何らかの職業を得る


 農家、鑑定士、剣士……種類は様々、すべて運命というものに決められていて自分が何者になれるかは生を受けた時から変わることがない

 

 誰が決めるのか、神様がいて一人一人にあった職業を与えてくれるのだと言う人間もいる


 だったら――――――――神は選択を間違えた。


 私は生まれた時から【賢者】だった。



 小さな村、裕福だとは言えない家、平凡な両親のもとに生まれた

 父は農家、母は裁縫士、何も特別な職業ではない


 ありふれた職業を持った両親、村駐在の治癒士、王都から派遣された鑑定士に見守られながらこの世界に生を受ける

 ただの平凡な新たな命の誕生

 少し違ったことは、世界で初めて【賢者】が生まれた……ただそれだけ


 噂はすぐに広まった

 当然だ、人の口には戸を立てることはできない

 翌日には王都の騎士たちが村に押し寄せた

 国としては未だ見ぬ職業、それを放置しておくことはできなかったのだろう

 両親は私を王家に差し出した、王に提示された莫大な富と引き換えに

 親に売られた賢者、そうして職業と悪名は王都中に広まることとなる

 生まれた時から運命だけでなく、人生までもが最初から決められていた

 親の顔も知らず、名前も知らない

 私に与えられたものは、【賢者】という称号だけだった

 

 農家の称号を持ったものは効率の良さを覚える、薬師は知識を、剣士は技術を、個々の能力を伸ばせるかは自らの努力次第

 王都に来てからは王城かかりつけの鑑定士に毎朝鑑定される毎日

 新しい魔法は憶えていないか、誰も知らぬ知識を得ていないか、国内で一番の鑑定士が調べる


 王城での暮らしは決して楽なものではなかった

 物心ついたころには教育という名の実験が始まった

 賢者とはいったいどういった称号なのか、何ができるのか、どこまで可能なのか

 学者たちは目を光らせた、教えたものはなんでも記憶し、未だ見ぬ魔法を行使する賢者に

 賢者はいつも只人の想像の一段上をいった


 そうなってくると次は周りから嫉妬や憎悪されることが多くなった

 王は私と家族のように接した

 今に思えば、反抗心を生み出させないためにそう演じていただけだったのかもしれない

 だがそれが新たな問題を引き起こすこととなる


 王には息子と娘がいた

 まず問題となったのは息子、つまりは王子の方だった

 王子の職業は【支配者】、根っからの権力者だ

 最初から気に入られていなかったのは知っている

 いつも平民が王城にいることを気に入らないと口にしていた

 幼いころには暴力を振るわれることがよくあった、酷いときには食事に毒を盛られていたこともある

 この問題は今でも解決しない


 歳が十二になるころ、姫との縁談の話が持ち上がる

 貴族の令嬢にとられないようにするための政略結婚だった

 王命だったため半ば強引に婚姻を結ばされそうだったところ、すんでのところで王子の強い反対意見と貴族たちの不満があり縁談の話はなくなる


 剣士や騎士などの職業を持つものが多く生まれた年、農家や漁師などの生産系の職業が減少した年

 世界は飢饉におそわれた

 多くの死者を出した年、聖職者が少なくなった年

 死霊が世界にあふれた

 そんな時代が続いた、世界に不満が満ちた時

 ある呪術師が言った


 ――――――――魔王が生まれた、と


 そんなある日、私は思い知らされることになる

 この世界は運命と言われるものに決められていて、そうでなくても人生なんてものは他人に左右されるもの

 愛などなく、情などない

 それでも、きっと神様というのはいるのだろう

 だとしたら、いったい私になにをさせようというのだ


「王よ、賢者が召喚の魔法を覚えました」


 数日中には国中の魔導士が集められ、何者かを召喚する儀式が行われた

 王座の前に頭に浮かんだ陣を描き、魔導士たちを定位置に配置する

 呪文を唱えた


 陣が光りだし辺りは閃光にのまれ、白い煙につつまれる

 周りに控えていた騎士は身構え、魔導士たちは陣の傍から急いで立ち去った


 煙が晴れる、中から現れたのは見慣れぬ服装、おかしな座り方をした黒髪の男

 鑑定士が近寄りすぐさま鑑定を行う

 男は首を一振りし目を閉じ

 「…夢か」そう言って倒れこむように眠りについた


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