黒9
婚約が正式に発表される少し前から、シャルロッテは王妃になるための教育を受けていた。
その先生という人物がまた素晴らしい性格をしていた。
どんなことに対しても、まず否定から入る教育スタイルを取っていた。挨拶時から、お辞儀の形と呼称を否定した。「先生と呼ぶように」と。
何かするにも否定、何もせずとも否定、立てば姿勢、話せば発音、頭のてっぺんから足の先まで、シャルロッテの全てを否定してゆく。シャルロッテは普通のご令嬢であれば、淑女としてのプライドが粉々になるだろうが、元々そんなものを持ち合わせていなかったシャルロッテからすると、おっしゃるとおりで、と内心思いながら指示に従う。
シャルロッテは比較的真面目に受講しているのだが、たまに「口答えをしている」と大変先生のご機嫌を損ねるようだった。突然激昂して職務放棄をしかける彼女に、世辞を交えて、言葉を尽くし、教えてくださいと乞う。少なくとも、ご婦人に対するお世辞の語彙を増やす訓練にはなっているようだとシャルロッテは思っていた。あと、精神力を鍛える訓練にも。
ある授業後に、ルフィールが「見てるだけで拷問だよー」と呟いていた。軍や騎士団での精神力を鍛える訓練はこれより厳しいだろうにと思い、ルフィールに問うと、「そんなのあったっけー」と笑顔で答える。何年か後にも、バウヒニア先生が夢に出てきて「いいえ!いいえ!シャルロッテ様違いますわ!」と言われうなされそうな気分であったシャルロッテからすると、羨ましい性格をしていると思った。
実際指導を受けてみてシャルロッテは思っていた。紹介時に有名な美姫や貴族の御子息ご令嬢の名をあげ「あの方もこの方もお育て致しました!」と輝かしい経歴を語っていたが、そのうちの何人に「もうあなたの顔など見たくないわ!」と叫ばれたのだろうと。
だが、確かに言う内容は正しいようで、段々とシャルロッテの所作は洗練されていった。ことに気が付くのはだいぶ後になるのだが。
ある日シャルロッテはバウヒニアが機嫌がいい時を見計らって問う。「王妃に必要なものとは何だと先生はお考えですか。」と。すると、彼女は、「品格、知性、家柄、血統、歴史…」とつらつらと並べていく。「全てをシャルロッテは持っているのか」と問うかのように。1つも持っていない人はいないが、全て持ち得る人もまた居るまい、と思いながらもシャルロッテは聴き続ける。そして最後に運と述べる。
その時の昏い目から、彼女もまた、王妃という夢に踊らされ、負けた者なのだとシャルロッテは知る。運だけがなかったのだと。教えられるということは学んだということ。バウヒニアもかつて、王妃の候補となり、教育まで受けたのだった。粉々になった夢を拾い集めて、努力した形が今の彼女のスタイルなのだろうということも。
しかし、運を調べるというのはどうすれば良いのだろう。そう思い、終わってから、傍らにいたルフィールに問うと数が書かれた多面体の石を2つ取り出す。「これ投げてみるといいよ!」
なぜ、こんなものを持ち歩いているのか、恐らく賭け事目的のようだが、とりあえず、シャルロッテは適当にポイと落としてみると、石はテーブルの上をコロコロと転がり最大値が2つ出る。だが、これは良い値なのか、悪い値なのか。ルフィールに問うと、少し考えてから「ルールによるし、場合によるよねー」と答える。
じゃあ、なぜ試させた! と一瞬言いかけたが、シャルロッテは思い当たった。資質もまたルールに拠るものではないかと。考えがなさすぎるのは問題であるが、一方で高すぎる知能はパートナーに疎まれることもあるという。
ルフィールが何かを願いながら石を投げ続けるのを見ながらシャルロッテは思っていた。
一部消し忘れを消しました(2019/3/13)
読んでいただきありがとうございました。
ちゃんと王妃になるために勉強してますよ! という回でした。
ここのところ新キャラ登場が多くてすみません。
☆.。.:*・現時点での登場人物.。.:*・☆
☆シャルロッテ=マーリン:試金石令嬢、アルフォート王子の婚約者
☆アルフォート(苗字まだ出てないけどブルーボーン):無情冷酷王子
☆ルフィール:シャルロッテの護衛、アルフォートの従弟、ワンコ騎士。
☆ノワーゼ:ルフィールの兄、アルフォートの従兄。溺愛兄。
☆コロナリナ=アネモネ:いじめっ子グループの1人。美人。単純。ポジティブ。手芸に詳しい。
【今回の新キャラ】
バウヒニア先生はハカマカズラ先生です。硬い 植物 でグーグル先生に聞いたところ出てきた名前です。とても綺麗な花なので、きっと美人なんだと思います。英名がバウヒニア ジャポニカなんだけど、名前ジャポニカかー…日本イメージが強すぎるなぁ って思っていて出せなかった……。きっと、あだ名がニカになるような名前だとなんだと思います。
一度(前王:アルの祖父の)王妃候補になったのですが、運が悪い出来事が起こって候補ではなくなり、以降、未婚のまま、教育係として生きてきました。なので、先生という敬称を使って欲しいのです。
実は、シャルロッテのことはかなり認めています。シャル真面目だし、根性あるので。突然激昂してみせたりするのも授業の一環です。そういう変な貴族の女性がいるのでしょう、この国には。それに対し、顔色変えずになだめて見せたシャルロッテに対してかなり評価をしているのです。(別に単なるヒステリック教師と思ってても良いんだけどね><;)
「王妃の素質」について問われた時、実は内心ドキッとしてて、シャルロッテに試されてるんだと思ってました。
長々と失礼しました。
設定とか考えてるの書いてみたくなっちゃうよね!