黒8
とりあえず、コロナリナの周りには勘違いをたしなめる人がいないということがわかった。
いやむしろ、それ以外の道の選択肢が彼女達には存在しないようだった。
残酷なことである。王妃に選ばれなければ負けと言われ、彼女なりに考えて見つけたものだったのだろう。それを滑稽と笑うには残酷すぎると、シャルロッテは同情的になっていた。それならば、必死にもなるし、選んだものを恨めないのであれば、選ばれたものへの視線も厳しくなるだろう、と。
ならば、むしろ努力の要素が高いものに努力を使えば良いのに、と思っていた。
コロナリナは己の王妃道を語り続け、少し疲れたのかお茶を飲み、口をふくのにハンカチを取り出す。それはとても繊細な刺繍が入っていた。
「綺麗ね。」
シャルロッテがいうと、
「そうなのよ! シャルロッテ様!」とコロナリナの語りにまた熱が入る。どうやら、コロナリナが刺したものらしかった。このような手芸にとても興味があり、自分でも制作するほどであるらしかった。
それならば、手芸に関わる領地ならものすごく重宝するだろうに、と考え、ある領地のことを思い出していた。その領地を治める者には、手芸に関するセンスが絶望的になかった。得意な者が家族もおらず、このまま衰退していくのだろうなと思っていた。幸い他の所で補えているので、切り捨てることも可能だった。
するとコロナリナは、「あれは、ものすごく貴重なものなのよ!」と訴える。分野に疎いシャルロッテにはあまりわからなかったが、どうやら、他にはない良さがあり、力添えできるなら何とかしたいと言う。
その時の表情は、王妃になると宣言したときよりも輝いていた。
とりあえず、シャルロッテがどうこうできる問題ではないが、紹介だけはしようと考えたが、そういえば、コロナリナのアネモネ家もまた交流があったような覚えがあった。そのように告げると、コロナリナは驚いていた。驚いていることにシャルロッテの方こそ驚いてた。自分の家の仕事を知らないのかと。淑女の間では、女性は仕事に口を出したりしないもので、家業のことなど知らないのが普通だったらしい。
コロナリナは「お父様に相談するわ!」と言い残し帰っていった。
しばらくして、コロナリナは王妃の夢をあっさり手放し、新たな道を歩み始めるのだが、それはまた別の話。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ここの展開、少し早すぎた感もあるけど、数日かけてもまどろっこしいので、スピード重視ということでお願いします。
あっ、結局シャルはリナって一回も呼んでない…。ま、まあリナも気付いていないので、気付かなかったことにしておきましょう。