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黒4


「状況を説明しろ。」

アルフォートはシャルロッテに短く告げる。

汚れを落として着替え、温かいお茶を飲み、ほっと一息ついたところであった。

シャルロッテは、坦々と、経緯を簡単に説明する。


「なるほど…そんな奴らだとは思わなかったな。」

シャルロッテも内心同意していた。集団で感情のままに行動するなんて淑女のすることではない、と。

ただ、シャルロッテにも非があったのではないかと己の言動を省みていたが、アルフォートは、一切そのような考えを持っていないようだったのでほっとしていた。

 今回の茶会が行われた本来の目的は、アルフォートの婚約者選びであったのだろうとシャルロッテは推測している。実際アルフォートは「もうそろそろ」といわれる年齢であった。

 だが、当のアルフォートはその気がないらしく、難攻不落な砦を果敢に攻めるような令嬢達の存在すら認識していないかのようであった。その態度もまた、多くのご令嬢達のプライドを傷つけ、お気を損ねていたようだった。

 その結果、全く色気も何もない国際情勢について話していただけのシャルロッテでも、どうやら激しい嫉妬の対象となってしまったらしい。

 と、あとからシャルロッテは分析する。

 男装していた頃はそのようなことがなかったので、服一枚でこんな変わるものかと少し面倒臭く思っていた。


 そのような事をアルフォートに告げると、

「話をするだけでこんな面倒なことになるとは…。」

アルフォートは、少し考えて、そんな振りをしてみせて、

「なあシャル、婚約しないか。」

それならば、自由に話すことくらい許されよう、と笑う。


 これまでも何度も言われた言葉であった。

 アルフォートにとって、自分は異性へ向けるような恋愛の対象ではないとシャルロッテは思っている。つまり、婚姻の対象にはなりえないと。

 そもそも、アルフォートにとって、女性とはあまり好ましい存在ではないようであった、あまり詳しく聞いたわけではなかったが。自分は、偶然女性という枠から外れたところから出会いが始まり今も続いているだけである、と。いわば、兄弟姉妹のような関係なのだろうと認識していた。

 シャルロッテにとって、アルフォートは、恐れ多い存在であった。本来であれば、話をするどころか、近づくことすら許されぬ御方だと。幼い頃から、父から「親しくしていただいているが、勘違いするな」と再三厳しく言われていた。友人と考えることすら恐れ多く、己が婚姻の対象と考えることすら不敬である、と。その一方で、どのように名付ければよいかわからぬ離れがたい情愛を持っていたことは確かであった。

 今回、()()()()()()()()()()ことで恩に報いたいという想いがシャルロッテにはあった。


いつも通り、「勿体無きお言葉恐れ入ります」と返す。が、この後に「私では力不足」と続けようと思ったが、少し迷っていた。


 シャルロッテは自分が王妃の器であるとは思えなかった。他の令嬢は、生まれてから淑女として教育を受けてきている。なので、自分のような付け焼刃とは到底かなわないものであると。


 だが今回の1件は王妃の器として相応しいと、少なくとも、身内からは認められた令嬢たちによる犯行であった。


 シャルロッテの迷いを感じ取り

「先程のことを考えているか。」

とアルフォートは問う。

シャルロッテはアルフォートの言葉に頷き

「このような現状、どのような方を婚約者に選んでも、同じような事件が起こり得るのでしょうね。」

「だからといって選ばない訳にもいかない。」

ため息をつきながらアルフォートは言う。


シャルロッテはアルフォートの複雑な心中を察して覚悟を決めた。

「それならば、わたくしを、仮の婚約者としていただけますでしょうか。」

「仮と…?」

不思議そうな顔をしている。シャルロッテは微笑み、

「わたくしを使って、真に王妃としてふさわしい人物を探されてはいかがでしょうか。」

と。言い切るシャルロッテの黒い目には久々に星が宿っていた。


 アルフレッドは面白いと笑って、

「その条件ならば受けると」

そして、少し考えてアルフレッドはにやりと笑って、

「それを言い訳に王妃教育となる務めを怠るつもりではないだろうな。」


アルフォートの軽い挑発に、シャルロッテはわざと乗り

「偽りであることを、どなたにも悟られぬよう、このシャルロッテ=マーリン、全力を尽くしましょう。国家のため、王家のため、アルフォート殿下のために」

と断言する。


 こうして、試金石令嬢の婚約ははじまったのであった。


 手続きはこちらで整えておく、詳細は追って伝えよう、とアルフォートは言って、別れる。


 一人になってシャルロッテはふと気が付く。婚約期間終了後のことについて何も話さなかったことに。

 まあ、それは自分ひとりが苦しむ話であった。

 王子から婚約破棄されるような女となれば、今度こそ本当に淑女として失格となるだろう。もしかすると、マーリン家からも出てゆく羽目にもなるだろうか。行く末はあまり愉快な想像にはならなそうであったが、国家のため王家のため何よりアルフォートのためとなるならこれ以上の誉はあるまいと自身を納得させた。



誤字修正)続毛用→つづけよう 何この誤字…。(2019/2/28)

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