黒31
「そして」言葉を切ってにやりと笑い告げる。「婚姻関係を結ぼう。」
一同は静まり返る。
あっけにとられたような旧家の面々に向かって
「なんだ、お前らの言うとおり、きちんと婚約は解消してやっただろう。文句があるなら申せ。」と笑顔で言う。
旧家のものたちが、
「なんという戯言を仰る!」
「婚姻など、認めるものか」
「罪人を妻にすると言うのか。」
と口々に言う。アルフォートがふっと笑ってから、
「罪人でないならば婚姻を認めるということだな。」
と言う。「では、シャルロッテ=マーリンの罪状を述べよ」
言うと、マーガレット=アルギランセマムを害した罪について述べる。他の者に命じて嫌がらせを行なった罪であった。暴言、暴行、所持品を破損など数々の罪を並び立てる。王家のこの有名な薔薇と池も入っていた。ひどく懐かしい気持ちになったが、もうこの際だから両方とも潰してしまえとアルフォートは心に決める。
「以上のことは真実か、偽りはないか」と問うと、
マーガレットの後ろに控える侍女が「本当にございます」と答える。
アルフォートは「証人を呼べ」とノワーゼに命じる。
重い扉が開き現れたのは、コロナリナ=アネモイであった。
コロナリナの登場にシャルロッテは少し驚く。
コロナリナが名乗り、真実を述べると証明した後、アルフォートは問う
「シャルロッテ=マーリンに脅されたというのは真実か。」と。
コロナリナは頷き答える。
「本当にございます。」
と。そして、王宮に呼ばれ、面談を行なった話をする。そして「シャルロッテ様は王家の権力を笠にきてわたしたちを脅していた」と訴える。
一同が騒めく。
「なんということだ」
「まだ婚約という立場でありながら」
と口々に喚くのを聴き終え、アルフォートは、紙の束を取り出す。
「王家の権力を盾に脅されていた、というのはこのことか。」
と誓約書を放る。
それは、彼女がかつて、自分の悪事を認め、二度としないと誓うものであった。
「そ、それは……」
「俺の命令によるものだが」少し考え込む素振りをみせ「そうすると、俺がこやつらを脅し、マーガレット嬢を害したことになるだろうか」
とわざとらしく問う。震えて答えぬ彼女に代わって、シャルロッテが
「恐れながら申し上げれば、そのように不敬なことを申すものはおらぬのではないかと愚考いたします」
と。
笑いながら「であろうな」と言う。「そもそも、誰に命じられぬとも、お前らはそのようなことをしておったのだろう」と。もう1つ書類を放った。
それは、彼女らに関するシャルの報告書であった。
容姿は美しく可憐でありながら、行いは幼稚で… などと書いてあるそれを本人に見せるとは! と内心冷や汗を流す。「我が婚約者、いや、元婚約者はこの国の行方を憂いていた。お前らがこのようなつまらぬ悪事を働けば、国家のためにならぬと思っておったのだ」
一同は静まり返っていた。
そのような大言を吐いたことはあっただろうかと冷や汗が出る「そして、実行した者に対し、己のしたことをわからせ、もう二度とこのような真似をしてはならぬと諭していたのだが脅しと取られるとは残念なことだ、なあ、シャルロッテ」
ニヤリと笑いながらアルフォートは言う。「俺は、そのような面倒をしなくとも、罰すればよかろうと言うたのだが、その際」首をかしげ「役立てよと言ったのだったか」
違う。「使いようである」と言ったのだとシャルロッテは心の中で訂正する。ものは言い様だ。
「それで、お前らは生き延びた訳だが」
じろりと視線を向ける。「さて、何か言うことはあるだろうか。」
しばらく俯き、コロナリナは震えながら
「申し訳ございませんでしたぁ、シャルロッテ様ぁ」と泣き出す。「そのように深い愛情を理解できず愚かでしたー」
と泣きながら反省の意を述べる。
「これでシャルロッテ=マーリンが犯行に関わっていないことが証明できただろうか。」
アルフォートが一同を見回す。
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これでは、このままでは、
女は焦る。
このままでは、シャルロッテ=マーリンが、アルフォート王子の正式な結婚相手になってしまう。
女は、覚悟を決めて得物に手をかけた瞬間、からんという音が部屋に響き、すぐ後に体に衝撃が起こる。
気がついたときには既に取り押さえられた後で身動き一つ取れなくなっていた。
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カランという音の方にシャルロッテが、目をやると、マーガレットの方から小さく騒ぎが起こっていた。
長身の兵士に取り押さえられながら、ひとりの女が叫ぶ。マーガレットの侍女であった。
「あなたなんて王子の相手に相応しくない! 相応しいのは」
とても懐かしい名前を聞いた。
いつも読んでいただきましてありがとうございます。
アルフォート様の独壇場です。
この辺もすっごい苦労して考えて最終的にこの形になった。
時間あってよかった…。
女さんは…




