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黒3

 アルフォートは、シャルロッテと初めて会った時のことを思い出す。


 第一印象は聡明な子、であった。当時、マーリン家では長いこと子どもに恵まれず、やっと生まれたのは女のシャルロッテであった。この国では、一番早く生まれた男子が家の後を継ぐ。だが、極稀に様々な要因で例外的に女子が後を継ぐことも認められる場合がある。が、そもそも、貴族の間では、女性が仕事をすることを忌避する傾向が根強く残っていた。


 マーリン家では、長いこと子どもに恵まれなかった。やっと生まれた子どもは女子のシャルロッテであった。男子の後継が生まれない可能性を危惧した当主のコージーは、早期から幼いシャルロッテに後継者として教育させていた。

 仕事にも男装させて連れて行き、「自分の()のシャル」と紹介をした。性別を表さないその言葉と愛称で、人々は見たままの姿で判断する。アルフォートもシャルを男の子だと信じていた。将来、自分の配下に欲しいほど優秀な人材であると。

 シャルは、大人の会話にはほとんど口を挟むことがなかったが、たまに意見を求められると大人顔負けの意見を出し、しかも、父親を立てることを忘れていなかった。時折褒められると、ほんの少し微笑みを浮かべる。

 そのうち、子ども同士で話すことも多かった。やがて親しくなりアルフォートの愛称の「アルと呼べ」と言うと、シャルは少し困った表情をして、その後、愛称と他の呼称を使い分けていた。

 話せば話すほど、よく勉強をしていると感じる。実際、書庫に通って、大人が読むような書を開いている姿を見たことがある。

 そういえば、遊んでいる姿はほとんど見たことがなかったとアルフォートは思い返す。

 数年前、シャルは、より一層マーリン家の仕事を担うようになり、姿は見かけても、話す機会はほとんどなくなっていた。

 

 それがある日突然ばったりとシャルの姿を見なくなった。

 病気か、怪我か、それとも何かしでかしたのだろうかとアルフォートは案じたが、そのような話は聞かなかった。


 そして、茶会の1年前のこと。

 この国では、15歳から成人として認められ、女子は淑女として社交界にデビューをする。その場にシャルが現れたのだった。デビュタントの白いドレスを着て。

 最後に見たときより成長していたが、アルフォートにはすぐわかった。この国では珍しくないが貴族としては珍しい黒い短めな髪、緊張も誇らしげな感じも一切ない無感情な表情、とにかくアルフォートにはシャルが一際目立って見えていた。「なぜ…」と心の中で呟く。

 

 伝統の長々とした面倒くさい儀式が終わって、すぐに、所在無げにしていた彼女の方へ行き、「シャルだろ」と話しかける。

 シャルロッテは完璧な淑女の礼をとり

「ご無沙汰しております、アルフォート殿下。」と返した。

アルと呼ばれた日がとても懐かしく感じた。

が、とりあえず、「ダンスは?」とアルフォートが聞くと「多少、付け焼刃ですが」とシャルロッテは嗤う。「結構」と呟き、フロアに連れ出すと会場が少しざわめく。が、二人共特に気にしていなかった。


 シャルロッテのダンスは自己申告よりも相当上手かった。さりげなく上級のステップを踊らせても難なくこなす。だが、ダンスしながら考える余裕はまだないようで、シャルロットは表情は顔色一つ変えず、取り済ました感じでいたが、肩で息をしながら恨みがましい目をアルフォートに向けていた。それでも、僅かに目に活力が戻りアルフォートは少し安心する。

 その後2,3曲踊ってから、こっそりと、人気のいない庭に出る。


遠くに護衛がいるのを確認しながらアルフォートは、

「何があった」と切り出す。

シャルロッテは少し迷ってから「弟が産まれました。」

と告げる。「それは…」おめでとうと反射的に言いかけてアルフォートは少し言葉の意味を考える。

男子が生まれたということは、つまり…。

「マーリン家の正式な後継が誕生しました。」

と。報告書を読み上げるような無感情な声でシャルロッテは言った。

 それで、会場では、父であるコージーは珍しくはしゃいだ様子で、一方でシャルが離れた場所にいたわけだ、と。最近シャルを見なかった事情も。


 しかし、よく考えれば、シャルにとっては酷な出来事ではないかと月明かりに照らされた無感情な白い顔を見ながら思う。

 これまで、後継者になれと教育されていたのに、男子が生まれたので、お前はもうよい、と言われるなんて、急に梯子を外されたようなものではないか、と。アルフォートは内心かなり憤っていた。

 しかし、シャルは、「全ては己の力が不足していたのでしょう。現実的に考えて。」と言った。「惜しいと思われなかった時点で勝敗は決していたのでしょう」と。


 そんなことはないとアルフォートは思った。マーリン家はなんという愚かな選択をしたのだろうと。このような逸材をあっさり手放し、新たに育てなおすなど、しかも、同じ血を引くからといって同じ環境であるからといって、必ずしも、優秀になるとは限らないというのに、と。


「これから、どうするのか。」

内心の怒りを抑え、静かな声で問う。

「今後は、マーリン家の令嬢として相応しく、釣り合いのとれた家へ嫁ぐのでしょう。」

「ならば、俺の手を取れ、シャル。」

これが、アルフォートの最初の求婚であった。

よく考えずに、思わずという感じで、口から出ていたが、アルフォートにとってはこれが最善の選択だと思えた。


 その言葉に、シャルロッテの目は一瞬とても驚いていたが即座に消え「難しいでしょう、現実的に考えて」と却下された。自分は王妃になるような器ではないと。そして、国家にとっても、王家にとっても、アルフォートにとっても、もっと相応しい人がいると。


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