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黒24

「ですから、シャルロッテ様」

何度目かの言葉を繰り返す。


 宰相はシャルロッテにアルフォート殿下との婚約を考え直していただけるよう申し上げていた。

 そもそも殿下が悪いのである! と宰相は心の中で憤る。旧家である三家の娘の中から選んでいただかなければならなかったのに! 今まで何が何でも結婚などせぬとようであったのに、急に翻され、このように、どこの馬かわからぬようなものから選んでしまわれて! しかも、こちらに話を通さずに、勝手に決めてしまわれた! 勝手が過ぎると申せば、「選べ選べと言うておったではないか」とあたかもこちらが悪いかのようにおっしゃる。

 あのような娘は、愛妾にでもなさればよかろう。アルフォート殿下には、旧家から選んでいただかねばならぬ。だが、ラティフォリア家がなくなった今、我がアルギランセマム家から選ぶしかないのだ。


 宰相である彼は、再びシャルロッテへ懇願する。

 アルフォート殿下との婚約の件についてお考え直しいただけぬかと。立場を考えて、シャルロッテの方から辞するべきであると。

 そして、旧家をまとめる我が立場を主張する。これは、陛下のためであり、殿下のためである、何より我が国のためである。賢明であられるシャルロッテ様ならおわかりでしょう、ご決断を。と。


 その言葉を、目の前の、我が娘よりも美しくない、生意気そうな娘は無表情で見下ろす。こんな娘ごときに! と内心かなり憤っていた。女ならば黙って従うべきだと、わが娘のようにと。


 反応を見せぬ彼女に舌打ちし、

「代わりといっては難だが、」と、破格の代案を提示する。「ルフィール殿との婚姻を認めよう」と。


 すると、シャルロッテの後ろに控えるルフィールの顔色がさーっと青ざめるが宰相は気がつかない。シャルロッテは笑いもせずに「面白い冗談ですこと」と言い捨てる。「ですが、お断り申し上げます。」と続ける。

「なぜです、ルフィール殿も立派なお方だ。」

容姿、能力、血統など美辞麗句を並び立てて、言い連ねる。

それを聞きながらシャルロッテはうんざりして、

「そんなに素晴らしいと思われるなら、貴方が結婚なさって」

と。もちろん、宰相には、嫋かで従順な奥方様がいらっしゃることを知っている上での冗談である。


 その言葉に宰相の怒りが頂点へと達する。

 何が不満か! お立場を考えよ! と。王家に類するものとの婚姻、本来であればそのように無下にできる立場ではなかろう! と。ついそう怒鳴ってしまう。


 そして、殿下もお人が悪い、このように現実的では有り得ぬ夢を見せるなど。


 と、くどくど言い続ける。


シャルロッテは「気高き薔薇の気持ちなど、蜂ごときにはわかりませぬゆえ」とつぶやき、「わたくしの一存では決めかねます」と言って退室を命じる。


☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・


 部屋を追い出されて、自分の執務室へ戻る。

 宰相はだんだんと怒りを込めて床を踏みつけながら、思う。

 小娘にあのように馬鹿にされるとは! と。あたかも、己を蜂に譬え、殿下の気持ちわらぬようにいいながら、殿下の気持ちなどお前にわかるかと言っていたのだと! 悪く言われることに関しては鋭いのであった。


 あのような小娘一喝すればすぐに済むと想っていたのに、と自分の執務室で、机の書類など色んなものに当り散らす。書類が舞い、インクが床に散るのを見ながら、彼は、昔のことを思い出していた。名は何といったか忘れたが、悪魔のような子のことを。


 その子どもは、天使のように愛らしい少年であった。こんな幼い者に何ができるかと舐めてかかって、気がつけば、こちらが諦めてサインするしかない状況となっていた。何という悪魔だ、と思って見た、相手の目は同じような夜闇の色をして星が瞬くように強い光を宿していた。

 その後、彼は、父親に呆れられ、相手がどのような姿をしておろうが、決して気を緩めてはならぬと説教され、反省したが、今はもう違う。と。周りのものに実力を認められ、相応の立場を得ることができた、と。


 彼は目に入っていなかったが、周りの者が、やれやれまたいつもの発作かと、書類を拾い集め整え、素早く床を掃除する。軽くインクの後は残っていたが、以前のもその前のも残っていてももう誰も気にしない。

 

いつも読んでいただきましてありがとうございます。

この先、視点の関係上、ちょっと時系列がごちゃごちゃしてしまうかもしれません。

今回は、宰相目線でした。

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