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黒22

※少々、死に関する表現などが入ります。暴力的な描写や直接的な表現はないです。

 ほのめかし程度であっても、どうしても避けたい方は目をつぶって、スクロールして後書きまでどうぞ。【ざっくりした内容】があります。

「シャルロッテ様、お久しゅうございますわね」

と、呼ばなかった本人がしれっとそのような言葉で出迎える。シャルロッテも何食わぬ顔で謝辞を述べながら、笑顔で、本日の茶会の面々を眺めると、カルミアを心酔するメンバー達が揃っていた。

そしていつものように、「皆様、楽しんでいかれてね」

とカルミアが微笑むと、他の者たちは意味ありげな微笑みを浮かべた。


 しばらくして、茶の準備をされた部屋へ向かう。

 ご令嬢たちは、近況などをちくりちくりと針で刺すような不快さを込めて話しかけてくる。全てまともに受けるのは馬鹿馬鹿しいので、適当に流しつつ、「皆様が羨ましゅうございますわ」と微笑む、つまらないことに割く時間が有り余っていらっしゃるようで、と心の中で付け加える。

 いつものように、琥珀色の液体が全てのカップに流れるのを待つ。カルミアが皆にカップを配り終える。ここでも揃いのカップを掲げ仲間の結託を見せつける。シャルロッテも色の違うカップを掲げ、皆と同様に、祈りの言葉を述べ、カルミアに感謝の意、それから、国家の繁栄と皆の健康を祈る。

 それぞれが茶を飲み、口々に「いつも通り素晴らしいですわ」とカルミアに感謝し、褒め称える。それから茶菓子へと興味が移っていった。

 シャルロッテはカップを傾け、嚥下した振りをしつつ、彼女らに倣う。

 彼女らは、楽しげに話を紡ぎ続ける。素敵なお菓子やさんの話など彼女らにとっては有用らしい話を楽しげにしていた、語尾に、「シャルロッテ様はご存知でいらっしゃらないと思うけれど、」とチクリチクリと刺して楽しんでいた。

 シャルロッテは「皆様、お詳しいのですね」と言いつつ、その場の空気が刺繍のようであれば、と考える。それは一見とても華やかに見えることだろうと。だが、裏側の()()はどうなっているのであろう、と。

 考えすぎだろうか。

 と、冷めた茶を口に含んだ瞬間、シャルロッテは違和感を覚える。

 吐き出すか、迷った末、口元を拭う振りをしてハンカチを取り出し、口内の液体を含ませる。が、口に含んだ時点では既に遅かったのだろう、体中に良くない汗が滲む。己の失敗を悟り、この場に留まるべきではないと思い、即座に、部屋を飛び出す。制止する声や追ってくる者の気配を感じたが振り切って外に飛び出す。見覚えのある馬車を見かける。その、あろうはずのない紋章に気が抜け、そこでシャルロッテの意識が途絶えた。


☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・


 あの日、薄暗く、雨がぽつりぽつりと地面を打つのを2人で眺めていた。

「花は放っておいてもいずれ散るのに、なぜ人はその命を求めるのだ」

と今よりも少し幼い声が問う。

「散っても姿や香りなどが記憶に残りましょう」

と自分は答える。白く大きな百合の花が雨粒を落とす。

「記憶などいらぬ、花などいらぬ」

散ってしまうなら、枯れてしまうならば、と。

亡くしたものを弔うためにつまれた花を眺めながらの会話であった。

とシャルロッテは少し迷って、

「花ならば望まれなくともただ散り、朽ちてゆきましょうが、わたくしは御身に報い、望まれて散りとうございます。」

と花の下で眠る死者を思う。「そして、そのように成し遂げたならば、ただ一言アルに言っていただきとう言葉がございます。」と。

 死んだ者も、死んだ後に、死んで欲しくはなかったと言われても、報われまい、という気持ちを込めて。

 その言葉を聞きながら、アルフォートの目が揺れてまた一つ地面に雨粒を増やす。


 死者に手向けた、小さく呟く、アルフォートのその言葉を聞きながらシャルロッテは


☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・


 じっと白い顔を見下ろしていた。無茶を、と何度も言いかける。うっすらと瞼が開き、夜闇にような美しい目が現れ、シャルロッテが意識を取り戻したことにアルフォートは気が付く。

「口を開くな」

と短く告げる。薬品によって喉が焼かれている可能性があるので、しばらく声を出さぬ方が良いという判断だった。

 様子を伺うと、気分は全く良好ではなさそうだったが、目覚めたことに対して、大きく安堵の息を漏らす。

 

 少し前にさかのぼる。

 目的の館から、シャルロッテが急に走ってきて停止していた馬車の方へ倒れ込んできた。その様子を見てアルフォートは驚いて馬車から飛び出す。

 ちょうど、良くない動きを察知し、ラティフォリア家へたどり着いたところであった。

 受け止めることはできなかったが、幸い、頭などは打たなかったようだった。が、内心冷や汗を流しながら、冷静に努めて、意識を失った要因を探す。

 流血などの外傷などはなかった、少なくともすぐわかるところには。そして、ふと気が付く。手に握り締めていたハンカチを。大きく変色したそれによって、薬物によるものだろうと判明した。薬品の特定は容易ではなかったが、幸か不幸かこの手の知識には詳しくなっていたため、症状などから、これだろうというものに見当をつける。すぐに死へ至らしめるものというよりは、じわりじわりと効いていき身動きを取れなくする作用の強いものだった。見た目や匂いなどは紛れてしまうが、味は誤魔化しきれず微かに変わる、とアルフォートは記憶を探る。このような薬を好んで使うものがいるというくらいにはポピュラーなものだった。そして、この薬には解毒剤の効果がある、と思い当たり、

 確か、シャルロッテは、何種類か解毒剤を用意していたと、彼女の所持品を探る。


 そのような一連の行動を、ノワーゼが驚きながらも無言で、周りの者を制しながら、手出しをせずに控えていた。

 目的のものを見つけ出す。薬包へ、几帳面に1つ1つどれに効くものであるかなどを書いてる字を眺め、ふっと笑って、シャルロッテに与えた。

 嚥下するシャルロッテを眺めながら苦々しい想いが残る。

 目覚めぬシャルロッテと共に馬車へ戻ってから、ノワーゼに「やれ」と一言命じてその場を離れる。


 そのような説明をもっと簡素にして話してやる。シャルロッテは何か考え込むように顔を背ける。揺れる馬車の中で、転がろうとする頭を押さえて、アルフォートは囁く、

「大儀であった」と。

その言葉に、シャルロッテは驚くように、アルフォートの目を見る。「などと言ってやるものか」と続けた。「知らぬところで勝手に散らすな」と。

シャルロッテの目が驚くように揺れて「御意」という形に唇が動く。


 馬車が城内へ入り、すぐに医師を呼ぶ手はずを整える。

 診断の結果、しばらくシャルロッテに休養を取らせることとなった。


 しばらくして、カルミア嬢並びに、その場にいた者たちに処分を下す。集団で、王家に類する者を殺害を謀った罪として裁いたので、罪はかなり重いものとなった。事件に関わった、貴族の子女は厳しい戒律で知られる修道院へ送られることとなり、その他のものは牢獄へ繋がれることとなった。

 ラティフォリア家は預かり知らぬことと容疑を否認し続けていたが、カルミア主催の茶会で起こったことということで逃れきることはできなかった。


☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・


 シャルロッテは事件について振り返っていた。

 まともに動けるようになった頃には、事件は片が付いていた。表向きには、ラティフォリア家が謀反を企てた罪のような形となっていた。


 体内へ吸収されたのが極少量であったことと、それから、すぐに適切な解毒剤を摂取できたらしいことなど、良い条件が揃っていたため、症状自体は重篤なものにはならずに済んだ。

 それよりも精神的なダメージが大きく、一時は、かなり落ち込んでいた。侍女達が「お可哀想」「お労しい」と言って慰めたが、何より大きかったのは、悔いや反省、己に対する失望であった。

 このような戦いにおいて、騙された、などと思うのは筋違いで、騙される方が愚かなのだと常々思っていた。が、今回の場合は、騙されるであろうと思っていて、まんまと騙されたのだから愚かにも程があると、シャルロッテは己を恥じていた。

 あの日()は誓ったのだった、冷たい雨に打たれながら。ただ散り、枯れ、朽ち果ててゆくだけの花になぞなるものかと。同じ、この気高く高貴な方を飾るものであるならば、花などではなく、割れても砕けてもなお、相手の身に鋭く刺さり御身を守るような硬い、貴方のいしとなって見せようと。マーリン家としての忠誠ではなく、シャルロッテ=マーリンとしての忠誠を。

 それなのに、なんと温い気持ちになっていたのだと、殿下に合わせる顔などないと、悔しくて眠れぬ思いでいたら、様子を見に来たアルフォートに「早く治せ」と笑われた。

 考えが足らぬと猛省せよと、怒鳴られ叱られて然るべきなのに、あのように、労わるかのように笑われるとかえって一層申し訳なく思い、悔しさを増すのであった。


 その様にしばらく悩むだけ悩み、己を責めるだけ責めて、気持ちを整えなおす。


 改めて考える。皆が信じているように、茶会のあの日、カルミアは自分を薬物で殺そうとしたのだろうか、と。

 茶を用意したのも彼女で、皆に配ったのも彼女であった。故に、それはできる、できないという話であれば可能だと思う。だが本当に? 本当に、そのような安易な方法を彼女は選ぶだろうか、と。彼女は聡明であった。少なくともシャルロッテにはそのように見えていた。口ではちくりちくりと言いながらも、シャルロッテの言動で周りがいきり立つのをむしろ制するように思えていた。

 一方で、やらぬ理由が千も万もあろうが、たった1つ、やってしまえという己の気持ちが生じたならば、事を成し得てしまえるということも知っていた、そう、散々身をもって知っていたではないか、これまでの方々とどう違うのであるかと。

 そして思い当たる。

 ああ、信じたかったのだろうと、カルミアが自分を殺さないことを。彼女が愛し、育てた花々と同様ではないとしても、近しいものに成れたと思いたかったのだと。己の内に密かに生じていた望みを。

 自分は、その一縷の望みに賭けて、身を滅ぼしかけたのだと。高い天井を眺めながら、全く愚かなことだと小さくシャルロッテはかすれた声で呟いた。

 読んでいただきましてありがとうございます。

 飛んできていただいた方も、お手数をおかけしました、ありがとうございます。


【ざっくりした内容】

 シャルロッテがカルミアの茶会に行った。

 茶に薬物入ってたが、通りすがりのアルフォートに助けられた。

 後日シャル超反省。


 以上です。 


 書いてない部分を深読みしたい方はご想像で存分に楽しんでいただきたく思っています。

 物語上の真相がどうであったかというのは、あんまり酷いことにならない要員でノワーゼ、ルフィールがいるので、そこまで酷いことにならなかったということを一応書いておきます。

 大丈夫です。ちゃんとルフィール仕事してました。


 それから、アルフォート殿下が深く触れずに流した場面あたりでも、楽しいご想像を提供できたらいいなーと思ってるのです。具体的には、馬車前、馬車の中らへん。


 さて、ライバルが退場してしまいました…、が…。

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