黒17
「本当に来てくださるとは思いませんでしたわ」
と笑顔でカルミアが言う。その言葉の中に数割の嘲笑の意味を読み取りながらも、「お誘いいただきましてありがとうございます」と笑顔でシャルロッテは茶会への招待に対する礼と共に装いや建物、調度品などを褒める。
絵画なども、説明もいらないほどの有名な画家のもので、わかりやすく高価なものばかりである。
建物も、王都の一等地で、広さや手の込んだ庭など、他に並ぶものはいないだろう、王家を除いてとシャルロッテは思っていた。
ラティフォリア家は古い歴史のある家柄で、かつては王家に並ぶほどの力を持っていたという。今は、そこまででもないが、当主であるカルミアの父はこのまま今の地位に甘んじるつもりはないようであった。
という自身の調査と準備をシャルロッテは思い出していた。
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「というわけでカルミア嬢との茶会の準備のため、許可をいただきたいのですが」
と夜会の報告する際、シャルロッテが申し出た。アルフォートはあっさりと許諾する。
回答を得た当日から、シャルロッテは、準備に奔走する。
準備と言っても、装いなどではなく、もちろんそれも必要なことではあったが、情報であった。
参加者と思われる人物の調査、彼女らの様々な行動履歴、過去数年分の物品の購入の履歴など。地位が高ければ高いほど、そういった情報は得やすいものであった。が全てを読み解く時間はなかったので、とりあえず、重要そうなものだけ頭に入れて、情報だけは集めて残しておく。
シャルロッテの身に万が一のことがあり、語れぬような状況になったとしても、アルフォートがきっと役立てるであろうと。
それから、解毒作用のある薬品を揃えてみた。その際、王宮の薬師に、「万能の解毒薬というものはないか」と尋ねると、薬師は「摂取しないことが全ての毒物に対する一番の特効薬です。」と言われる。至極当然の意見であった。
しかし、茶会で茶を断るという無作法は許されまい。
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などと、準備期間が短い中、いろんな方面から準備し、遺書まで書いた上、決死の覚悟で挑んだ割には、結論から言うと、恐れていたようなことは起こらなかった。
茶会の部屋へ案内されると、ご令嬢たちは、皆、服装が似たようなものを身につけている。やはりカルミアが一番上等な素材のものであった。と考えていると、
「あら…」と一人の令嬢が何か言いたげな様子で、他の者もクスクスと笑っていた。
どうやら、シャルロッテだけ違う装いであることに対するものらしい。特に気にしていなかったが、カルミアが含みのある笑顔で「ご紹介してさしあげますわ」と言う。
お断り申し上げても良かったが、主目的は波風を立てることではなかったので是非ともと答えようとすると、
「でも、シャルロッテ様にお似合いになるかしら」と困ったわーという感じで笑い出す。
その令嬢を名指しで、「ファッションに大変お詳しいのですね、羨ましいことですわ」と微笑むと、含むところを感じ取って黙る。
更に周りの令嬢にも「皆様とても仲良くていらっしゃるのね、お揃いのお召し物もよくお似合いですこと」と一人一人の顔を覚えるように笑いかける。
気が付けば、波風を立てない予定はどこかへ吹っ飛んでいた。
「シャルロッテ様は普段どのようなことなさってますの。」
と、剣呑な雰囲気を紛らわせるようにカルミアが話題を変える。
今は王妃になるための教育が主で、この場でそれをいうのは躊躇われた。
よろしければ楽器をなさってみませんかと。
なるほどそういう展開かと、シャルロッテは思った。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
カルミアのおうちは、ご先祖様が凄かった感じです。戦果をあげたとか、国興す時に関わったとかそんな感じ。
今は没落まではいってないけど、現王からの覚えはあまりめでたくない。だから、娘をアルフォート王子に嫁がせようと躍起になってるのでした。
もうしばらくお茶のシーンが一切出てこないお茶会が続きます。