黒14
ルフィールの話を聞いてノワーゼは思い出していた。
シャルと呼ばれた少年が今どうなっているか、知るものは誰もいないということを。死亡説が有力だったが、そのような手続きは出ていないようであった。
まさか。ノワーゼはある結論にたどり着いていた。
伝説では、鬼のようにも悪魔のようにも、一方で、天使のようにも神のようにも語られるその人が、アルフォートの婚約者、シャルロッテ=マーリン。
ありえない話ではなかった。もし、本当にそういう有能な人間であれば、アルフォートは絶対手元に置いておきたがるだろう。しかも、どんな姑息な手を使ってでも。
しかし、男性を女性と偽り婚約させるなどという恐ろしい手段を使うとは!
そのような手は思いつかなかったと、思うが、アルフォートならやりうると。ノワーゼは「シャルロッテ、男性説」で納得しかけていた。
そう話すと、ルフィールは、
「えー そうかなぁ」
とノワーゼの説に、少し違和感を持っていた。
男性のようには思えなかったが、稀に、女性の姿が似合う男性というのも存在することを知っていた。アルフォートはシャルロッテに対して、わかりやすい恋愛感情ではなさそうであったが、少なくとも何らかの情はあるように感じていた。「あー、でも、アルなら、性別にこだわりないもんねー。手に入れたい物はどんな手を使っても手に入れそう。」
ルフィールの言葉に、ノワーゼが少し驚き、
「アルは、男性を好むということか。」それならば、うちの天使のようにかわいい妹フロールに興味を示さないのも納得がいった。それよりもいま懸念すべきことは、「ルフィー、まさか、アルに何かされたことはないだろうね?」
「あるわけないよー」
あってたまるか、という目でノワーゼを見る。
「さすがに、血縁という禁忌は超えないか。」
とノワーゼは安堵するが、それ以前の問題だと思うとルフィールは思っていた。ノワーゼにはどのように見えているのかわからないが、ルフィールは普通に男性であり、身長もあるし、鍛えている。と思うのだが、ノワーゼはすぐ子ども扱いするのだった。
こういう状態の兄に何を言っても無駄だから放っておくことにする。
「誰かがお前を呼んでいるからとか、お菓子をくれるとか、言っていてもついていくな」とか「意思や信念に反するような、何かされたら絶対言うんだぞ。」と念を押す。
護衛する立場なのにー と思うが、口に出すと、護衛である前に家族だ、家族の心配をしてはいけない理由が存在するのか、などと何倍にもなって返ってくるので、もー、わかってるよー!という、半ば強めの了解の言葉をいう。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
というわけで、ノワーゼは多少ぶっ飛んだところがある人なのでした。
このシーンを書くチャンスをルフィール登場の頃から狙っていたのです。
本編が短いのでおまけ
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ルフィールは小さい頃は、それはそれは天使のような美少年で、でも、当のルフィールは「オレおとこだし!」って感じで、ノワーゼをはらはらさせていたのでした。
いかにも悪そうな大人が「おかしあげよう」とか「面白いところがあるよー」という言葉に、目をきらきらさせるのを、ノワーゼが引っ張っていったり、ああいうのは悪い人だからついていっては行けないと諭したりしたのでした。
その度にルフィールは「うん! わかったー!」と良い子のお返事をして、でも、次の瞬間には忘れて虫とか鳥とかを追いかけてる。
実は、あれらは訓練で、いかにも悪そうな大人は、実際は使用人とかで、本物の事件とかではなかったのだった。
が、ある日、少し遠くにいる人を見て、ルフィールが「あの人、変ー」とノワーゼにこっそり告げたことで、彼の危険を察知する才能が明らかになったのだった。それから、なんでわかったのか聞いても、「んー、なんとなくー」と説明できない類のものであるということも。