黒13
ノワーゼは、ノックなしで騒々しくやってきた時点でわかっていた。
こうやって弟がやってくる時はだいたい碌でもない話であることを。
そして、相手は大体面倒くさい相手であろうことを。
「どうした、何があった、ルフィー」
ノワーゼは弟をなだめながら事情を聞き出そうとするが「アルめっちゃ怒ってるー もうオレ死ぬー 死んじゃうー」 という全くの要領を得ない説明に頭を抱え、結局、一緒にアルフォートの部屋へ行くこととなった。
「で、何があったんですか。」
アルフォートの元へ訪ねていって、ノワーゼが問うと、アルフォートが機嫌悪そうに、
「それはこっちの質問だ。ルフィール、さきほどの件について報告しろ。」と命じる。ルフィールは少し顔を上げ、長身の上目遣いといういろんな意味で難易度の高いことをしながら
「殺さない?」
と問う。
「それは、お前の返答次第だな。」
アルフォートの低い声に、びくっとする。その様子を見ながらノワーゼが呆れて
「弟を脅さないでください。宥めるの大変なんですから。」
そして、ルフィールの方を向いて、「どうせ、殺すような事態だと思ってるなら事情を聞く前に殴ってるでしょう、アルフォート殿下ならば。」
というと、ルフィールが、あっ、確かに…という感じで、落ち着きを取り戻す。
アルフォートは
「落ち着いたならば早く報告しろ。」と促す。
そして、ルフィールは、先程のシャルロッテとのやり取りについて話す。
言えと強迫する割にさほど興味のなさげなアルフォートの態度に疑問を持ちつつも、なんとか、話し終える。それほど怒ってなさそうなアルフォートに、改めてルフィールはほっとしていた。本当に、不貞などを疑われてなくてよかったー! と。
その様子を見ていたアルフォートが「ありえん」と少し笑うが目は笑っていなかった。
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その後、ルフィールはあっさりと退室を命じられて、少し首をかしげる。
「なんかアルっぽくなかった気がする。」
と。普通だったら、こちらに非がひとつでもあろうことなら、いろんな角度からプレッシャーをかけてくるだろう。そして、二度はないぞと言われて釈放されるようなパターンだと思っていた。それでも軽い方で、重罪とされるようなこと、例えば、本当にシャルロッテ嬢にご無礼を働くようなことがあったりなんかした日には、恐ろしくて口にもできない事が起こっていただろうと想像する。
それが、今日はあっさり終わった。にーちゃんのおかげだろうか、とルフィールはノワーゼを見ると、
「ああ、珍しく落ち込んでたようだ、あの暴君が。」とノワーゼが少し笑いながら言う。
ルフィールがへーと思いながら、
「エリーゼ様にそんなに叱られたのかなぁ。」
と首をかしげつつつぶやく。あの時は、シャルロッテ嬢の言動にひやひやしすぎて、アルフォートの様子などあまり気にする余裕はなかった。
「それよりも、シャルロッテ嬢の方ではないだろうか。」
と少し考え込みながら言う。
「別に責めたりしてなかったけどなぁ…」と思い返す。むしろ傷つけてたのはアルフォートの方じゃないかーと。それなのに、落ち込むくらいならひどいこと言わなきゃいいのにー。とノワーゼにいうと、
「世の中皆ルフィーのようであったら、とても生きやすいのだろうね」
と苦笑しながらノワーゼは言う。色々と難しいものがあるのだろう、と。
ルフィールは知らなかったが、かつて、アルフォートと仲良くしていた者が突然事件になどに巻き込まれ居なくなったことが何度かあったのだという。それ以降、大事なものなどない方が良いのではないかと語ったことがあるそうだ。
「それでも、アルが手に入れたいと思う、シャルロッテ嬢とはどういう方なんだろうね。」
ノワーゼの言葉にルフィールは少し考える。色々考えて、出た結論は、「割とふつー」であった。
ルフィールの、とても容姿に優れ強烈な個性を持っている姉や妹と比べたらほとんどの人は割と普通なのだった。
他にも、目立たないとか真面目そー とかルフィールが明らかに興味がない人に対する表現をする。ちゃんと護衛しているのか心配するのは、自分の仕事ではないのでノワーゼは考えないことにする。
「あとはーなんか女の子っぽくない感じ。」
と言ってから、「あ、そういえば、にーちゃん、シャルって覚えてる?」
「ほらあの…」と説明されてようやく思い当たる。実際に会ったことはないが、噂ではよく聞いたことがあった。噂が一人歩き続けた結果、伝説化していた。気難しいある貴族との交渉を成功させたとか、国を救ったことがあるとか、本当かよくわからないものばっかりだった。実際に優秀であったようだが。
「ああ、アルがよく話してた子だったね。」
「あの子によく似てる。」
ルフィールの言葉に、ノワーゼはぴたりと足を止める。
「まさか」
と小さく呟く。
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