黒11
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誤字脱字すみません。こっそり修正しました。
閉まった王妃の部屋の扉を眺めながら、信じていた人からの、冷たい水の中へ突き落とされるような言葉にシャルロッテは暫し呆然としていた。
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「ご機嫌よう、アルフォート」
笑顔で迎える部屋の主、エリーゼに対して、どうみてもご機嫌麗しくないアルフォートは
「火急の用件とは何の御用か、母上」と挨拶をすっ飛ばして冷たい口調で返す。
エリーゼは微笑みを崩さないまま
「そうでもしないと来ないじゃない、貴方。」
と言う。
「シャルロッテ嬢を使うのはやめていただくよう申したはずだが。」
シャルも何かと忙しいので、とこういった呼び出しがあるたびに、再三言っていた。どうせ、「シャルはそう言わなかったわ」や「あなたたちのためなのよ」などと言って、聞いてくれはしないと思っていたが。
身振りで、勧められる椅子も茶も拒否をしつつ、答える。
「貴方の反応が面白くってつい」
とまるでアルフォートのせいのように悪びれもなく言いながら、優雅にお茶を飲む。
「それで、何を仰ったのです。」
良かれと思って相手に色々と吹き込んで事態を引っ掻き回すのが母上の得意技だった。
息子のその問いには答えずに、
「貴方、シャルを愛していて?」
と問いかける。アルフォートはそういう系統の話かと内心ため息をつく。
「母上には関係のない話だ。」
と答える。
「ええ、でも」微笑みを解き「シャルはそう思ってないみたい。」
と告げる。アルフォートは少しドキリとする。
この話は長くなる予感がしていた。
エリーゼは女の子とは、という話をアルフォートに延々としたがる。幼い頃からそうであった。女の子は愛が欲しいものなの。プレゼントだの、優しい言葉だの、確実な形を欲するものであると。
彼はもう少し大きくなって身を持って知ることとなる。身近な淑女であった従姉のレザンヌの思い出は特に強烈であった。アルフォートより少し年上のレザンヌは、彼女の弟であるノワーゼやルフィールと共に、女性に対して斯くあるべしと教え込む。
さらに、アルフォートに近寄りたがる淑女たちの、愛に対する想いの強さも恐ろしい程だった。時には傲慢で、時には非礼にも見えるそれらの行為を、周囲の大人たちは愛の強さ故と笑って許せと言った。
そして、これらの経験でアルフォートは思い知ったのだった。愛なんて、己の欲望を叶える道具であり、現実を覆い隠す幻想であると。
だがそういうアルフォートに対して、エリーゼは、愛とは素晴らしいもの、愛は全てを救うと解き続け、かつて、婚約者の候補にあがっていた数々の令嬢に対してつれない態度をするアルフォートをたしなめる。
そして最後にいつもこう言う。
「愛を大事になさい。」と。
「わかっております、母上。」とだけ答えた。
読んでいただきましてありがとうございます。
このシーンもう少し続きます。
やっとエリーゼ様が出てきて良かったです。
この話、エリーゼ様目線だときっと…
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(アルがシャルと婚約するとは…)
ふふふ、と笑いながらふたりの様子を眺めていた。
昔々、エリーゼの友人にやっと子どもが生まれた。望んでいた男の子ではなく、落ち込む彼女に、「女の子なんだから可愛がればいいわ」といってなぐさめた。
数年後、少し成長した彼女は男の子の格好で、王宮へ来ていた。
友人のメリーに話を聞くと、夫であるコージーの意向だということ。後継にしようと考えているらしかった。
幼いながらも真面目で勤勉な姿にエリーゼはきゅんとしていた。健気だわ! と。メリーの目が届かないところでは、自分が代わって見守るつもりで、シャルを可愛がっていた。
一方で、息子のアルフォートもシャルが気になっていることを知っていた。もしかして、恋? 愛? とわくわくしていたが、同性だと思っていたらしく、少し、しゅんとする。でも! ここから始まる愛もありではなくて!? と密かに心躍らせていた。
転機は数年前。メリーから、嬉しい知らせが届く。待望の男の子が生まれたとのこと。この子を後継にするか、でも、シャルは跡を継ぎたいと思っているか、と悩むメリーに、エリーゼは「シャルもきっと喜ぶわ」と弟を後継にすることを勧める。
そして! 二人とも、あんまり恋愛に興味ない風だったのに、気がついたら、アルフォートとシャルロッテは恋に落ちていた…… 訳じゃなくて、シャルが実際に落ちたのは池なのでした…。
ということは露知らず、知らないあいだに愛を深めていたのね、そうだったのね、と、とてもわくわくしていたエリーゼ様でございました。