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  作者: 亜桜 香音
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海のきれいな街

海が綺麗だ。それだけで私はこの街に住むことを決めた。ここに出張に来たのは、勤めている美術館の広報のためだった。学芸員という職に私は満足していた。


美術館に勤めていると言うと、多くの人は美しいものに囲まれるなんて素敵ね、と言う。確かにその通りで、展示されている資料の他にも収蔵庫には様々な絵画や彫刻など様々な芸術品が収められている。元々博物館や美術館が好きだった私は、学芸員に憧れて大学も学芸員資格を取得でき、更に就職にも強いという場所を選んだ。しかし、学芸員になることは並大抵ではなく、努力ではどうにもならないこともあるとそこでようやく気付いた。必死に努力をして、一般企業に務めた後も試験を受け続けようやく学芸員になれた時はかつてないほどに泣いた。嬉しかった。一生を学芸員として生きていくと決めた。

しかし、先日まで行われていた企画展で、美しいほどに残酷な絵を見た。フィンセント・ファン・ゴッホ作のセーヌ川の川岸という絵だ。ゴッホはその一生をテオドールという画商の弟の援助を受けながら、しかし当時の画壇に受け入れられることの無いまま終えた。自殺だと言われている。そのゴッホが生涯描き続けたのがセーヌ川だ。オランダに生まれ、弟のいる憧れのパリに出て、そこで画壇に認められなかった彼はどんな気持ちでセーヌ川を描き続けたのだろう。精神を患い療養のためにオーヴェルシュルオワージュでその短い生を自身で終えた時、彼は後悔したのだろうか。それとも満足したのだろうか。皮肉にも、彼の作品は死後に認められ、現在はルーヴルに展示されている。今、もしもタイムマシンがあって彼がルーヴルに展示されている自身の作品を見た時の心情を考えることは、一介の学芸員である私には計り知れない。そんなことを一瞬で考えた。そこで私はたまたま出張で来たこの街の海を見て、学芸員を辞めてこの海と生きていこうと思った。その海は、今まで見てきた芸術品よりも美しく写った。


続く


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