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素手の殺人
月が光々と照る夜。
「またか…」
佐々木警部は路上で溜息をついた。最近、埼玉県浦和市で起こっている連続殺人事件が今夜も起こったのだ。ある路地に倒れている死体は首の骨を折られている。他にはほとんど外傷のないその死体は、チンピラ風の男だ。
「これで三件目ですね」
佐々木の部下の谷口が、メモを取り終えて言った。
「やっぱり素手ですかね」
「だろうな。殴った跡がないんだから」
「なんちゅう怪力でしょうね」
「害者は凶器を持っている。それでもなお素手で勝つ奴だ。タダモノではない筈なんだが…」
そんな目立つ怪力男が浦和に現れたという証言はないのだ。いくら調べても、殺人は素手で行われたとしか思えなかった。それでも警察では半信半疑と言ったところだった。
「怪力を持っている男を捜せ。そいつはきっと力を隠しているんだ」