63、虫籠
都市ランギール中央広場
広場の中央には噴水が有り、普段は民衆の憩いの場となっているが、戦時中の為、人の往来は極少数である
そんな中、広場のベンチに、ぐったりと横たわる者と、その側に立つ者が一人いた
褐色の肌に、髪は灰色の女性が、力無くベンチに横たわる緑の髪をしたローブを纏う女性に声をかける
「リーリエ様、頑張って下さい、これから御客様を出迎えるんですから」
「嫌じゃ、もう働きたくない、既に我は頑張っておる」
「これでも飲んで、元気を出して下さい」
「嫌じゃ! もううんざりじゃ! 最近我は5kg太ったのじゃぞ!」
「まぁまぁ、そう言わず、はいリーリエ様、あーん」
リーリエはベンチの上で、子供の様にバタつき
「くそ! 鬼じゃ! ライラ、貴様も鬼じゃ! まな板鬼じゃ!」
その言葉に、ライラはニッコリと笑うと、強引にリーリエの顔を押さえ付け
「とっとと飲めやこら! 誰がまな板だっ!!」
都市ランギールが間近に迫った道を、一台の荷馬車が進む
荷馬車には、数人が乗っており、周りには傭兵らしき者達が馬に乗り、護衛に付いている
荷馬車に乗る一人、商人の格好をした男が、ローブですっぽりと全身を覆い隠し、頭にはフードを深く被る者に話しかける
「都市ランギールが見えて来た様です」
「何事も無く街へ入れたならば、予定通りにやる、いいな?」
「ハッ、私は兵を率いて、傭兵ギルドを先に潰します、その後住民をより多く殺しつつ施設、家屋等、できうる限りの被害を与え、離脱します」
「こちらは、この二人を連れ城を潰す、もしもの場合は、兵を散らし、各所で自爆をさせろ、兵は切り捨てても構わん、その隙にお前は離脱しろ」
「ハッ」
馬車内で、そんな物騒な話がされている時
「ドーーン、パーーーン、ドーーン、パーーーン」と都市の方から音が響いて来る
「何事だ?」とフードを被る者の問いに、男は落ち着いた様子で、外に確認を取ると
「この国を含め、近隣諸国では良くある事です、戦に際し、出陣時や、帰還時は勿論、戦時中は戦勝祈願の意を込めて、魔法を打ち上げるのが通例です」
「戦勝祈願か、、愚かだな、直ぐに街は戦地になるとも知らず」
一行は進み、街へと到着する、街への入り口では戦時中の為か、検問が引かれている
行き来する者達は少なく、直ぐに一行の番になる
数人の騎士達が、荷物の確認をする
一行の一人が書面を騎士の一人に手渡し、騎士はそれを確認する
「商人とその護衛か、書面、荷共に問題無いな、行ってよし、戦時中で物々しいが歓迎する、ようこそランギールへ、それと戦時中の為、馬と馬車は、そこの厩舎で預かる事になっている」
一行は指示に従い、馬と馬車を厩舎に預け、手続きを済ますと、街へと入る
「こうも容易く入れるとは、警備もザルですね」
「予定通りに行く、油断はするなよ」
「ハッ」フードを被った者と二人のお付きを残し、商人風の男は、傭兵風の男達を連れて、ギルドを目指した
商人と傭兵の一行、総勢20名がギルドへと進み、ギルドまで目前の所で、商人が口を開く
「人が少なすぎるな、、」
すれ違う住民は数十人程で、道中の店は全て閉まっている
「戦時中ですし、こんな物なのでは?」と傭兵の一人が答える
「確かにそうだが、ここまで開いている店が一つも無いのもな、、」
商人は違和感を覚えるが
「おい! そこの商人の旦那! 串焼き買ってくれよ!」
商人が声の方向を見ると、串焼きの屋台が有り、その店主がこちらに向けて、大声を張り上げている
その店主を見ると、年は30後半、髪は短く刈り上げ、巨漢、額には大きな傷がある、串焼き屋の店主というより、屈強な傭兵といった風体だった、商人は周囲を確認し、どう対応するかを考えていると
「おい! 聞いてんのか? 客が来なくて困ってんだよ、安くすっから買ってくれよ!!」
その店主の大声に反応して、数人の住民が足を止めて、商人一行に注目している
商人は一つ舌打ちをした後、小声で「ギルドは目前だ、私と数人で買うと見せ掛け、あの男を殺す、残りは周りの住民を始末しろ、片付いた所でギルドへ襲撃をかける」
商人と4人の傭兵が屋台に行く
「おっ買ってくれるのか!? サービスするぜ!!」
「20本貰おうか」
「あいよ! 直ぐに焼くんでまってくれ」
店主は後ろ向き、串焼きの準備を始める、商人は傭兵に目で合図を送ると、傭兵は音も無く剣を抜き、店主へと近寄る、店主は呑気に鼻歌を歌いながら準備を進めている
「おっそうだ、味付けを聞いてなかったな、まぁいいか、折角の御客様だ、取って置きの、」
店主がそう言った所で、傭兵は抜いた剣を店主に向けて、降り下ろす
「バキバキバキ、グシャーーン!!」
「戦斧味てのはどうだ?」
傭兵が剣を降り下ろすより早く、店主は巨大な戦斧を、振り向き様に、屋台の屋根を破壊しながら、傭兵の頭に降り下ろした
「ガ、カペ、、」と頭から胸にかけて、真っ二つにされた傭兵が絶命する
呆然としている商人に向けて、店主は斧を振るが、商人は咄嗟に飛び退き、これをかわす
「チッ、大人しく死にやがれ虫どもが!」
ここで漸く状況を理解した商人が
「クソッ、罠にかけられたか、予定を変更する、お前達は散れ! 出来うる限り被害を振り撒け、住民を殺し尽くせ、住民を盾にしろ、行け!」
商人の指示を受け、傭兵達は即座に散って行く
「きゃーーー!?」
散った傭兵の一人が、道を通る女性に斬りかかる、女性は無残に斬り殺される
ことは無く、切りかかった傭兵の腕と首が地面に落ちる
数人の傭兵も、周囲にいた住民を襲うが、全て返り討ちに合い、絶命している
「おや? 魔戦兵てのは、一般住民にも勝てねぇのか?」
商人は顔を歪めながら
「周囲の者も兵士か、、何故我々が侵入したと察知出来た、、? しかし我々を舐めすぎだ、多くは街へ散った、守りきれると思うなよ?」
「守りきる? なーに言ってやがんだよ、おめーは、この街に住民はいねえーよ、この街にいるのは、傭兵と騎士だけなんだよ、この街へ入る許可がおりるのは、てめぇ達だけなんだよ、てめえはこのガルバ様にドタマかちわられてしめーだ、散った虫も残らず駆除だ!」
「バカな!? ここに来るまでに少数だが往来もあった、なにより住民の全てを避難させたと言うのか? 戯れ言を言うな! そんな事が出来る訳あるまい!」
「信じるも信じねぇも、てめぇの勝手だ、どの道ここで、押っ死ぬてめぇらには関係ねぇ話だ」
ガルバの言う通り、この都市ランギールには、現在一般住民は一人もいない、住民には護衛300人を付けて、南にある砦へ避難をしている、この街に残っているのは騎士傭兵の200人のみである
ランギールは備蓄してある私財の全てを使い、進軍する兵と住民達に全てを割り振り、避難を実行していた
何故魔戦兵を探知出来たかと言うと、出兵の翌日から、超広範囲の探知魔法をリーリエが使い続けていたからである
本来不可能な、超広範囲探知魔法の連続使用を可能にしたのは、パワーレベリングにより大きく上昇した魔力に、レオンが渡した大量の魔力回復薬が、不可能を可能にしていた
因みに、魔戦兵を探知した合図が、魔法の打ち上げであり、それを合図に、街の内部は勿論、街の外の行き来した者達も、事前に待機していた騎士と傭兵が、偽装した者である
こうして都市ランギールの全てを使用した虫籠は完成し、今その虫が篭へと入ったのだった




