45、森の民
会場は黒い煙で覆われ、会場と客席の間の防壁は起動し、半透明の防壁には無数の亀裂が入っていた
客もその異常事態を感じ、パニックを起こしていた
ジギールは素早く指示を出し、実況に魔力の暴走による事故の発生とアナウンスさせ、係員、騎士達による避難誘導を迅速に行った
そんな中、爆心地ともいえる会場の中央
中々の魔法だ、受けた衝撃もかなりの物だ、俺は辺りを見渡す
黒い煙が蔓延し、踏みしめている地面は、魔法の衝撃でクレーターの様になっている
煙により視界が悪く、所々で炎の残り火だけが微かに見える
「良いぞ、次はどんな魔法だ? 遠慮せずにドンドン撃ち込んで来い」
そう挑発をするが、この煙は音の通りも悪い様だ、発した言葉がくぐもっており遠方まで声が届いている感じはしない
この視界と声の遮断と衝撃、自己を中心として相手の感覚を奪う阻害系の魔法、所謂範囲デバフだろう
俺は追撃を静かに待つ
静かに待つ、、、、
何時まで待っても追撃が来ない
成る程、視界の阻害や衝撃により、感じる時間まで狂っているということか、優秀なデバフ魔法だ
更に俺は待つ、感覚的には1時間程は待っただろうか?
すると周囲の黒煙が不自然に上空へ巻き上げられていく
いよいよ、追撃が来るか
黒煙が消え、会場の姿がハッキリと確認出来る、俺の目に写ったのは
誰もいない客席に、会場の端で何かの魔法を必死の形相で使用しているリーリエ、息を呑むように真剣な表情のジギールに、その周りを警戒している騎士達だった
騎士達の制止も聞かず、ジギールが鬼の形相で俺に駆け寄ってくる
何事だよ? 厳つい爺が鬼の形相で近付いて来るとか、ちょっとしたホラーなんだが
「御無事ですか!!」と両腕を掴まれるが、近い、顔近い、気持ち悪いし怖いよ爺さん
「ああ、無事だが、、何の用だ? 対戦中だぞ?」と俺は再度周りを確認すると、あの男の姿が見えない、デバフをかけただけで逃げたということか?
「それよりあの男はどうした? 逃げたのか?」
それを聞いたジギールは、ハハっと軽く笑い、気が抜けたのか、どかっと地に腰を降ろした
「何を言っておる! あれは魔力暴走を利用した自爆じゃ! 相手など木っ端微塵になっておるわ!」
と詰め寄るリーリエは、俺の周囲を見て回り、べたべたと俺に触れてくる
俺はリーリエの頭を押さえ遠ざけるが、「結界魔法か? どうして防げた?」としつこいことこの上ない
「つまりあの魔法は自爆魔法だったということか?」
「そうじゃ、あれほどの規模は我も初めて見たがの」
俺を狙った自爆か、、アニメでも漫画でも自爆で効果が上がる事など無いな、、いや有名な漫画で雑魚と侮り、倒した敵に自爆をくらい呆気なく死んだ間抜けなキャラもいたか、、などと考えているとジギールから声がかかる
「レオン様、取り敢えず城へ、ソフィア様への遣いも出してありますので」
こうして城へ戻る事にしたが、リーリエだけは調査をしたいと駄々を捏ねたが、現場はそのままとし翌日検証をさせるとの事で帰還することになった
闘技場を出て、城へと徒歩にて戻る、馬車は再度狙われた際、対処が遅れるのを加味し徒歩だ
その途中、道を二人の人影が遮る
一人は2戦目の小柄な男に、パーティーメンバーの巨漢の男の二人だ
護衛の騎士達に緊張が走り、騎士の一人が声をかける
「そこをどけ! ジギール領、領主ジギール侯爵様と知っての行動か!?」
その言葉に多少の驚きが有ったのか、二人は何か小声で軽く話し合うと、巨漢の男が一歩前へ出る
「領主一行とは知らなかった、領主に危害を加えるつもりは無い、そちらの男に話がある」
と俺に向けて指を指す
騎士達は警戒を強め各自抜刀し構えを取る、一触即発の中、俺は進み出る
「俺に何の用だ? 仲間の自爆で仕留め切れなかった後詰めか?」
すると小柄な男も前へ出て
「何を言っている! 我々をあの様な外法な術を使う者の仲間などと!」
「ほぅ、顔を隠し、あの自爆騒ぎの直後に現れたお前達を、仲間と疑うのは自然だと思うがな?」
ぐっ、と小柄な男は言葉に詰まり、巨漢の男の方を向くと大きく頷き、二人は深くかぶったフードを下ろす
フードの下は目出し帽を着けており、その目出し帽を脱ぐと
小柄な男は美しい銀髪をした糸目の女だった、巨漢の方は赤い髪の野性味溢れる男だった
それに加えて、この二人の頭には獣の耳らしき物が付いてる、俗に言う獣人というものか?
「で? 顔を見せた事と、自爆した者と繋がりが無い事に、関係があるのか?」
ポカーンとする二人組、するとジギールが説明をしてくれた
「レオン様、この者達は隣国トリベル国境南にある地域に住む、森の民と言われる獣種です」
「ほう、それでその森の民で有ることが何だと言うんだ?」
「森の民は古代の神を信仰し、自然との調和を望み、争いを好まぬ種族です、其が人を殺める為に自爆等という外法な事をするとは」
「争いを好まぬ者が闘技場で戦うのか? 神を信じず、自然との調和は望まず、争いを好む者達かも知れんぞ?」
「確かに、他国に干渉して来なかった森の民ですが、闘技場で戦っていたに加えて今回の騒ぎ、、」
そんな俺とジギールの話に慌てて銀髪の女が割って入る
「待って欲しい! 闘技場に来たのは理由がある、今回そこの男に聞きたかった事とも繋がる」
「言ってみろ」
「我ら森の民の住む、リーシアの森は豊かな森だった、しかし数年前に一人の男が現れた、その男は森の神木を枯らし去って行った、我らは抵抗したが数多くの同胞を殺された、族長であった私の父も殺された」
「その男が俺だと言う気じゃないだろうな?」
「そうでは無い、神木は枯れ、豊かな森の恵みは激減した、一族の為に私は食糧を得る為にこのジギールに来た」
成る程、出稼ぎの様な物か、しかし俺とどう繋がる?
「好ましくはないが、一族を餓えさせる訳にはいかぬ、しかし我等森の民が他国にて食糧を得るなど難しい、そこで闘技場で力を振るい、食料確保の資金を集めていたのだ」
「お前達がここにいる経緯は分かったが、俺とどう繋がるんだその話は?」
「御主は何者だ?」
俺は額に指を当てて考え込む仕草をすると
「俺が何者か、難しい問だが、割りとイケメンの心優しいお兄さんと言ったところか」
「ぶふぉー、ゲホッゲホッ」とリーリエが吹き出し、むせっている、貴様後で腹パンだ、ソフィアのな
横を見るとジギールは苦笑いをしている、お前もか
「そんな事を聞いている訳では無い!!」
冗談の通じん奴め
「何者でも良いだろう、貴様には関係が無いだろう? 敢えて付け加えるならば、貴様達よりもこの国においては遥かに信用があると思うが?どうだジギール?」
「勿論で御座います」
「だそうだ」
俺達のやり取りを、小馬鹿にしていると感じたのか、女は苛立ちながらも声を落とし、恐る恐るといった感じで聞いてくる
「人なのか? 私の術、力を受けて無傷など、人とは思えん」
「失礼な奴だな? 自分の力の未熟と捉えず、力及ばぬ相手を化物呼ばわりとは」
完全に化物じゃろうが、とリーリエの小声が聞こえる
「我等の力は神の御力を借りる物だ、確かに我等の力が及ばぬ人もいるだろう、しかし無防備で受けて無傷等あり得ない!」
「実際にあり得ただろうが、良い経験を積んだな、と言うことで俺達は忙しいんだ、通るぞ?」
と進もうとするが、女に遮られる、こいつも面倒臭い系か
「神木を枯らした男にも、我等の力は何一つ通じなかった!」
「まさかそんな事で、その男の仲間とでも言いたいのか?」
面倒だな、この国の民でも無い、ジギールに不都合もあるまい、斬るか、、
そう思い女に歩を進めると
「待って頂きたい、大変失礼をしました、直ぐに道を開けましょう」
と巨漢の男が、女を押さえ強引にどかすと道を開ける
「では戻るかジギール」
と二人組の横を抜け城へと急ぐその時、羽交い締めにされ、もがきながら女は
「はなせ! あの男に通じるかも知れんのだぞ! 我等同胞を殺めた化物、背に黒い翼を持つ悪魔に!!」
それを聞き、俺は足を止めた




