JD-096.「半島奪還作戦」
ルビーが仲間になって2か月が過ぎた。
その間、俺達は何人かに別れて依頼をこなすという日々を送っていた。
さすがに6人まとめて挑まないといけないような依頼はなかなかなく、であれば二手に分かれたほうが実入りがよさそうと思ったわけだ。
温泉付きのお宿がみんなのお気に入りになっていた、というのも大きいかな。
気が付けば、だんだんと温泉がますます恋しくなる冬が近づいてきている。
海に行くのが少し肌寒いかな、そんな気持ちになった時のことだ。
ギルドの建物内に、見覚えのない大きな依頼書らしきものが貼られていた。
その前にたくさんの冒険者が群がっている。
「ご主人様、見えないよ」
「俺が見てくるからみんなは座ってていいよ」
ぴょんぴょんと跳ねるジルちゃんたちというのは可愛いものであるけれど、さすがに他の邪魔になりかけないし、それは余計なトラブルを引き寄せる。
俺自身もそう背が高いわけじゃないけれど、中身を読むぐらいは出来そうだ。
読みやすさを考えたのか、大き目の文字で書かれたそれは大規模な討伐作戦の参加者募集だった。
リブカ半島の奪還作戦について、とある。募集主はスーテッジ国、つまりはこの街も含んだ国からの依頼ということだ。
「あの、あれって誰でも参加できるんですか?」
「リブカ半島のお話ですね? はい、物資の運搬なども含みますので誰でも参加可能ですよ。その分、報酬は後払いというか、貢献具合次第というか……そんなところです」
依頼書の貼られた壁から離れ、一人開いていた受付で聞いてみると半ば予想通りの答えが返って来た。
やはり、こういうことを国がやるけど、よかったら1枚嚙む?というわけだ。
国としても想定外の戦力が増えるほど本来の戦力の消耗が減るわけで歓迎ということだ。
まあ、その想定外の戦力が正しく働けば、だけども。
「参加される方は専用の腕章を巻いて行かれます。まあ、これなんですけど」
そうして差し出されるのは空を舞う鳥の刺繍された布地。腕章というより巻き付ける感じになるようだ。
そのまま6人分貰って、ジルちゃんたちの待つテーブルへと戻る。
「遅かったわね。で、どうだったの?」
「戦闘もそうじゃないのも含めた大規模な討伐作戦があるみたいだ。行くだけ行ってみようか」
「お揃い、やった」
腕章代わりの布地を手渡すと、ジルちゃんはひどく喜んで率先して腕に巻き付けている。こうしてみると運動会とか何かの集まりみたいに見えてくる。
そんな思いは俺だけじゃなかったようで、この後子供が大丈夫か?等と絡まれかけたがどうにかやり過ごして数日後。
リブカ半島の奪還作戦の目的地である場所まで俺達は歩いて進むことにした。
リブカ半島は正確には今いるスフォンとその周辺も含んだ場所であるという。
では何を奪還するのかというと、半島の根元付近にある元砦街らしい。
そこはスーテッジ国の陸路による交易の要衝の1つだったらしいのだが、ある日大規模なモンスターの襲撃に耐え切れずに陥落したのだという。
以後、スフォンとは海路のみとなるが海路に向かない物というのもあるし、ルートが限られるというのも良くない。
というわけで国土を増やす意味もあって奪還作戦が決まったのだそうだ。
「まずは前哨戦として、そこまでの進路の確保が作戦なのですわね?」
「ううー! 燃えてきたのです!」
「みんなぽーんって吹っ飛ばしちゃうよー!」
目的が近づき、それぞれにテンションが上がってきたようだ。近くには同じように参加する予定であろう冒険者が何組か同じ方向に歩いている。
この先に最初の目的地である簡易的な陣地があると聞いてるのだけど……。
「ちょっと待って。あれ、もう始まってない?」
「たぶん、おそわれてる」
俺の感覚にも、前の方で何か気配がいくつも動いているのを感じられた。
頷きあい、全員で駆け出す。周囲の冒険者も何事かを感じ取ったのか同じような物だ。
そうして見えてきた陣地は、既に戦場だった。
「まとまっていくよ!」
「げげっ、豚じゃない!」
その襲撃の正体がオークを中心としたモンスターであると見るや俺はさらに加速し、戦場に飛び込んだ。
トスタの町での襲撃を思い出すような規模で緑の巨体が道を進んできている。
それはまるで改札口を出入りする人々のような物で、決していい気分ではない。
対してこちらは防戦一方で、陣地から出ていくことが難しい状態だ。
だけど、これだけいるということは、だ。
「マスター、一気に行きますわよ!」
「前方には敵影のみ、まとめてやっちゃうのです!」
「えいっ!」
そう、言い換えれば巻き添えの心配が無いということだ。
俺達6人は一斉に手持ちの貴石術で出来るだけ範囲の広い物を次々と打ち込んだ。
俺は合間に聖剣を振るって魔刃も飛ばしていく。
カラフルな力の塊が上空を飛び、オークやゴブリンなどへと直撃していく。
それを見て勢いづいたのか、陣地の中からも術士によるものであろう貴石術が飛んでいく。
その数、強さ的にはジルちゃんたちに及ばないので5人の強さがわかろうという物だ。
目に見えて敵の数が減ると、陣地に集まっていた面々も声を上げて突撃し始めた。
俺達も巻き込みそうな貴石術による攻撃を止め、近接での戦闘へとシフトしていく。
そんな俺達に心配そうな声がかかるも、すぐにそれは止む。
「その手で触らないで!」
「これで決めっ!」
ルビーが機嫌の悪い猫のように叫びつつ灼熱した細剣で腕を貫き、フローラの風をまとった拳がゴブリンの頭を飛ばす。
「足元がお留守なのです。串刺しなのです!」
「死んで頭を冷やすのが良いですわ」
「ご飯のために……ばいばい」
竹やりのような岩が出たかと思えばそれを避けたオークの頭は凍り付き、ひるんだ周囲の個体もすべり込むような動きで近づいた透明な短剣の刃に崩れ落ちる。
このぐらいであれば余力はまだあるというのが正直なところだった。
俺は俺で、真正面から聖剣を使って切り込んでいた。
向かう先にはいつぞやの鉱山以来のコボルト。手には以前とは違い、輝きの残る刃物が握られている。
怒りにか顔をゆがめ、襲い掛かってくるコボルトをまとめて切り払う。
多少狙いがそれても当たれば勝ちだ。
何もすべての場面で技術を使う必要もないことをようやく学んだのだ。時に暴力は単純な解決手段であり、今回もまたそうだった。
「灰色? リーダー格か!」
コボルトたちを引き連れて走り込んでくる個体は二回りほど大きく、毛色も灰色というか鈍銀といったところ。
それでもまっすぐ突っ込んでくるあたりはただのモンスターである。
「ご主人様はやらせないっ」
「吹き飛びなさい!」
後ろから飛ぶみんなの援護はコボルトたちの突撃の勢いを殺すのに十分な物だった。
率いられてるとはいえ、ただのコボルトに貴石術は致命傷だ。仮に当たらなくても大きな衝撃を与えたに違いない。
ひるんだその隙に数歩踏み込み、コボルトリーダーを肩口から一気に斜めに切り裂いた。
やや硬い感触が刃先に伝わり、相手の石英ごと切ったんだろうなとわかった。
聖剣から伝わるその感覚に一人頷き、ジルちゃんたちと一度下がるべく場所を移動した。
周囲の戦闘もひと段落付いたようで、モンスターたちから毛皮を剥いだり、石英を集めたりといった動きに変わっていっているようだった。
「マスター……気になることが」
「わかってる。タイミングが良すぎる、そういうことでしょ?」
俺もなんだかんだとオタクだ。色んな作品やそれに関する書物なんかも覚えているかどうかは別として目を通したり、読んだりしたことがある。
お約束から言えば、この状況が示すのはただ1つ。
奪還先の砦街に集うモンスターにこの襲撃がある程度は読まれている。
どうやら……簡単にはいかないようだった。
「それでもみんなが一緒ならなんとかなるさ」
「ジル、頑張るよ!」
両手を上げて元気いっぱいをアピールするジルちゃんを抱き寄せつつ、
俺はオーク達がやってきたであろう方向を睨みつつ待機するのだった。
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R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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