JD-095.「赤い少女は思案中」
ルビー視点話。
目覚めることが出来るということはとても貴重な体験だ。
私は……それを今、痛感している。この感情が母である女神と……あまり認めたくはないけどあのご主人様の手によるものだとしても、ね。
長らく自意識の無い貴石の精霊だった私にとって、自分で考えて自分で判断する今の状況は全てが新鮮で、全てが……宝物。
「早く行くのです!」
「ちょっと、待ちなさいって!」
そんな私の感傷はどこへやら、ニーナが私の手を引っ張って外へと駆け出していく。
私も一緒に隠れていた岩場からこけそうになりながら走り出すのだ。
視線の先では小さな、私たちが両手でなら持てそうな大きさのウサギが数羽はねている。
依頼の目標である、ウェアラビットだ。
ご主人様……トールからもらった知識によれば危険性は少ないけど足が速いという獣と魔物の中間のような相手。
他の子との連携を試すにはいいんじゃないかと選んだ相手なのだ。
「ちゃんと倒さないと、今日の御飯がパンだけになっちゃうのです!」
「わかってるわよ! 追い込み行くわ!」
今日の相方、トパーズと琥珀を内包したニーナは一見地味な子だ。攻撃手段も色合いと見た目の問題からか目立つとは言いにくいけど、何かと活躍の場が多いのだとは思うのよね。
防ぐために盾を産むことも出来るし、かと思えば行き先をふさぐために今のように壁を作ることも出来る。
たかがウサギ数羽、先に壁が出来れば慌てて混乱の最中ってわけよ。
「赤光剣……せいっ!」
私の貴石ステージはまだ2。マナの量的にもあまり無理はできないし、炎を生み出してしまえばウサギが焼けてしまう。
そこで、サブ貴石に入っている白真珠の力である光を混ぜて赤い半透明の細剣を生み出した私は逃げ惑うウサギに容赦なく切り込んだ。
毛皮と肉の焼ける音と共に、私は命をその手で奪う。悪い事とも良い事とも思わない。アイツと、トールと一緒に生きていくのなら何度も行う行為だからだ。
この前も巨大なカニもどきだって仕留めた。なんてことはない、ないのよ。
「ふう……」
「ルビーは優しいのです。大事な考えだと思うのですよ」
トールとの付き合いが私より長いせいか、ニーナは私の考えはよくわかるとばかりに勝手に頷いている。
その手には血抜きを始めたウサギだったものが2羽。自分も相手のことを言えない姿だけど……トールの知識からすると、幼気な少女が首のないウサギを抱えてるってどうなのかしら? この世界だとそんなに変じゃないと思いたいわね。
「別に……そこまで立派なモンじゃないわよ。ただ……後悔するのも、あまり考え無しに狩るのもアイツのためにはならないのかなって」
「トール様はどの選択をとってもきっと優しいと思うのです」
微笑むニーナの考えはよくわかる。きっとアイツはそう言う子だ。例え、精霊としての年齢を考えると私たちの方がはるかに年上だとしても……私達に守られるのを良しとしない、そんな子だ。
子、って呼ぶにはずいぶん大きいかな?
それで思い出しちゃった。アイツ、そういう趣味だから私たちがこんな姿なんだって言ってたわよね。
こんな……我ながらちんちくりんな少女体。太ってないのは幸いだけど……胸はもう少し欲しかったかな……。
「自分、知ってるのです。もまれると大きくなるっていうですよ?」
「へ?……どうなのかしら。だったらニーナたちももっと大きいんじゃないの? だってその……アイツとそういう関係なんだし」
自分で言っておきながら勝手に恥ずかしくなってきた。思い出されるのは、憎らしくも放置されていた時に飛び込んできたとんでもない光景。
アイツやジル、ニーナたちが大きなベッドの上で……その……ねえ?
好き合ってるのなら別にいいと思うし、知識として知らないってわけじゃない。だけど……すごかった。
「? トール様とはまだ全然なのです。お願いしても真っ赤になって逃げちゃうのです」
「そ、そうなの? そうなんだ……」
私は意外な答えに、ほっとしたような、悔しいような気持ちを抱いていた。てっきり自分も近いうちにあんな風に求められてしまうのかという怖さと、自分にもしかしたら魅力が足りないのかなんていう疑問めいた感情。
それに思い至った時、慌てて首を振った。
「わぷっ、ひどいのです!」
「ごめん! さ、続きをやりましょ」
長めの私の髪が顔に当たってしまったことを謝りつつ、私はごまかしにかかった。
なんでかって……そりゃ、そうでしょうよ。ああいう関係になる日が早く来ないかって思ってるってことなんだもん。
別に嫌いじゃないのよ? むしろ、こうして解放してくれたんだし感謝もしてるし……その、愛情みたいなのが無いかと言えばウソだと思う。
でもやっぱり、ちょこっとだけ早いと思うの。まだお互いをもっと知ってから……って何を考えてるのよ私!
「あ、いたのです!」
「ええい、もう! ラーヴァブリット!」
叫んだ時にはもう手遅れだった。ガーネットがメインの私の火の力はどちらかというと溶岩のような大地の方面に近い。
燃え盛るというよりは粘り気を持って攻める、といった方面。
だから、そんな力のこもった炎弾は強力すぎた。赤く、濃い色のそれがウサギに迫ったかと思うと、そのお腹に直撃してこんがりを通り越して消し炭にしてしまった。
「ルビー……」
「悪かったわね! 次は気を付けるわ」
さすがにジト目で見られても仕方のない結果だと思う。あれでは毛皮も取れないし肉は言うまでもない。
内心の冷や汗を尻目に、ニーナはしばらく見つめてきたかと思うと急にニコッと笑顔になった。
「でも火力が増えたのは良い事なのです。トール様と一緒にいっぱい戦えるのです!」
「そ、そう……」
最初は素直な忠犬……な感じかと思っていたけど、この子もこの子でクセが強いのよね。
気を抜くとすぐに自分で殴りかかるから意外と手が早いのよ。
生き抜くにはそのぐらいの方がいいのかもしれないけど……。
その後は順調に数を稼ぎ、昼過ぎまでには私たちは20ほどのウェアラビットを仕留めることができた。
他にも依頼には適さないけど食べる場所は十分にある分を仕留めたのでこれで今日の食事には足りるでしょう。
「他は大丈夫なのかしら」
「川沿いで薬草採取と砂集めなのです。危険は少ないですし、トール様もいて4人なら大丈夫なのです!」
まあ、それもそうよね。オールラウンダーに戦えるジルに、冷静に支援をやれるラピス、突撃力が一番のフローラに全部が行けるアイツがいるんだもんね。
本人が気が付いてないのがある意味お笑いよね。あの剣……私達と同じ段階まで貴石術を使えるようになる媒体になってるのに本人は気が付いているのかいないのか、あるいは使いこなせていないのか。
ラピスにはそれとなくいった時には、自分で気が付いていかないと本来の力が出ないだろうから待つ、だって。
仮に今のままでも私たちがいればそこそこ行けますよね、とおまけに加わっては何も言えない。
「すべては力がそろってから、か」
「よくわからないけど、理不尽を覆せるぐらいにはみんなで強くなりたいのです」
それに関しては同感だわ。この先、どんな事件が待ってるにしてもどうにか出来るだけの力は手にしておきたい。
でもそうなると……早めにしないといけないのかしら……。
私も交えて一人のあいつに5人で群がる……体はともかく、世間体が持つのかしら?
そんなことを考える私は……ご主人様想いの子でいいわよね、きっと。
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