JD-094.「カニカニ合戦ファイナル ─ 決意するチョキ ─」
そもそも、ニッパとはどんなモンスターなのか?
気になった俺は出発前に改めて聞いてみた。今のところ、大きくても軽自動車ぐらいの大きさのニッパばかりだ。そいつらにも小さい頃はあるんだと思ったからだ。
聞いて分かったことは、ニッパは元々は手のひらぐらいの少し大きなカニらしい。
それが何らかの理由で大きく成長した個体同士が子供を作っていくことで今のような大きさとなり、子供も1週間しないうちに犬ぐらいには大きくなるとのこと。
そのため、見つけた時には大体繁殖と成長が終わっていることが多いらしい。
そう、事件は大体が手遅れになってから発覚するのだ。
「ここまで言えば懸命な諸君ならわかるだろう」
「? ご主人様、何言ってるの?」
「しーっ、お約束ってやつよ。私知ってるわ!」
ジルちゃんたち5人を前に、俺はそんな説明めいたことを言ってはみたものの、反応は薄い。フローラやニーナ、ラピスに至ってもハテナ顔で、唯一ルビーがそれらしい反応をしてくれたくらいだ。
いわゆる、外したってやつである。
気を取り直すべくわざと咳をするがルビーの言葉に何かのトリガーが入ったように俺を見つめてくるジルちゃんの瞳が痛かった。
「とーる、それよりアレどうするのー?」
「でっかいのです……」
「例の事件の生き残りがまだいたんですのね」
そう、温泉ニッパの討伐に来た俺達の視界に飛び込んできたのは、いい感じに温泉に浸かっている巨大なニッパだった。奥には洞穴か何かの穴が見える。
周辺は荒れ地なせいか街で利用したり、入りに来るには向かない場所だ。
その分、野生動物やモンスターがいつもいると言われている場所らしいのだが……。
「親の撃破ないし子供の出来るだけの討伐、か。そりゃそうなるか」
事前に、見間違いかもしれないなんて注意書きがあるわけである。
確かにあの大きさのがいた、なんて言ってもなかなか信じられない。この街であの事件があったからこそ依頼が成立しているようなものだ。
というわけで、温泉ニッパさん(路線バス)のご登場である。ほとんど動かないな……動けない理由があるのかな?
(食べごたえはあるな、間違いなく)
「ひとまず遠くから様子を見、避けて!」
叫んで俺は聖剣を切れ味の鈍い状態で力一杯振り抜いた。切れる状態だと逆にどこに飛んでいくかわからない気がしたからだ。
手から全身に突き抜ける大きな衝撃。しかし、足が多少地面をこすったもののそれに俺は耐えた。
俺の前に、大きな物体が転げ落ちる。ジルちゃんたちぐらいなら容易に挟み込めそうな大きなはさみ。そう、特大温泉ニッパの左のはさみが飛んできたのだ。
一度きりの切り札のような攻撃に思えるが、ニッパは口付近を泡だらけにしてブクブク言っているだけだ。
マナが巨体を中心にめぐるのがわかる。
「フローラ、雷撃! 一気に畳み込むよ!」
「ぴりってしびれろっ!」
ショートカットの緑の髪が逆立つように帯電したかと思うと、両手から青白い雷撃が瞬きの間に飛び……再びのニッパのはさみに直撃した。
なんということか、いつの間にか再生していたはさみがまた飛んできたのだ。
今度は避雷針代わりに使ったのか、やや上気味に投げるという方法で迎撃して見せた。
思わず足が止まる俺達。その間にもまたブクブクと泡をふき、気が付くとはさみが戻っていた。
地面には電撃でやや火の通ってしまったはさみだけが落ちている。
「カニさん、強い」
「あれは自分で貴石術を使ってますわね……」
自己再生する巨体という物は厄介だと相場が決まっている。どうにかしてその再生能力を奪うかがキモである。
とはいえ、今回の場合はそこまでする必要もなく一気に近づいて両断してしまおうか。
「ご主人様、はさみこのまま増やしてもいい?」
「おおー、無限にはさみを味わえるのです! ジルちゃん冴えてるのです!」
と思ったのだが、みんなの考えは俺の斜め上を言っていた。再生するならばその分食べる分を確保しよう、ということだ。
いや、いいんだけどね……最終的に依頼が達成できれば。
ジルちゃんたちがひたすらニッパのロケットはさみ……かな?を集める間、俺は依頼のために他の個体だとかが周囲にいないかを観察していた。
幸いにも、遠くにはいなかった。それどころか、特大温泉ニッパの後ろの洞穴に見え隠れするのがそうだった。この個体は洞穴の中の家族を守るべく前をどかないのだ。
となるとこの大きいのは、親の片方か……となれば。
「どっちがオスかわからないけど、そりゃ来るよね!」
近くの森の木々をなぎ倒すようにやってきたもう1匹の特大温泉ニッパ。
気のせいか、怒っているようにも感じる。相手にしてみれば俺達は襲い掛かって来た敵に間違いないもんな。そりゃ怒りもする。
新手の特大温泉ニッパは立ちふさがる俺を敵と認識したらしく、その巨体を恐ろしいほどの速度で操って迫りつつその巨大なはさみを振りかぶっている。一気に押しつぶすかねじ切ろうと思ったのだろう。
しかし、それは聖剣の前には無力に近い。相手にとっては俺は小さすぎる相手だ。だからこそ、両方のはさみを同時に突き立てるということができずに片方ずつとなる。
地面に突き刺さるような振り下ろしはその分、隙も大きい。
俺はそこを突いて避けると同時に聖剣を振り降ろし、切り取った。
慌てて再生しようと下がるところに追いすがり、予定通りにもう片方のはさみも両断。
後は泡をふいている部分から縦に切り開いて終わりだ。
さて……ジルちゃんたちは……は?
「何本あるの……?」
すでに地面を見るのが難しいほど、あちこちに巨大なはさみが転がっている。
洞穴から離れたくないニッパの考えを逆手に取った非情な戦法である。
これ以上稼いでも、そんなに特大がいたのかと驚かれること間違いない。
「もうそろそろ終わりだよ」
「もうちょっと、もうちょっとだけ!」
意外なことに、ルビーが乗り気だった。炎だけかと思ったら、手にしているのは赤い薙刀のような物。どうやらジルちゃんたちと同じく、実体化した武器を持つことも出来るらしい。
それで切り裂いているようだけど、切り口がいちいちいい匂いを出してるんだよね。
こっそり、フローラなんかはよだれが出ている。女の子としては少々はしたないかもしれないね。
「じゃあ次で終わりねー」
俺にブーイングを浴びせながらも、最後にはちゃんと終わらせて特大温泉ニッパは沈黙し、石英と食べられる部分、今回ははさみ以外の部分もほとんどが残った。
後は残ってる個体を倒すのみである。
「ねえ、トール。生きるって残酷なのね」
「だったら食べるのやめる?」
それとこれとは別よ!と叫んでルビーの炎が小さな状態のニッパをこんがりと焼ききる。同時にフローラによる風があったから火力はマシマシだな……。温泉ニッパの天然窯焼きの出来上がりである。
結局、持ち帰ったニッパの足は、後半になるほど味が薄いらしくあまり人気が出なかったことは記しておきたい。
そりゃ、回復と再生を繰り返してればスカスカだったり味も薄くなるよね……。
次のチャンスの時には本体だけ先に倒すことを決意する少女と幼女集団であった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




