JD-093.「赤いあの子は強気な子」
「そこよっ!」
気合のこもった声と共に、視界が赤く染まる。彼女の手から生み出された炎は砂浜ごと相手を飲み込み、一気に焼き払っていく。
焼け焦げ、力尽きたモンスターの体はどこかに溶け、後に残るのは石英のみ。
それは地球のそれより随分と綺麗な砂浜にあっても、目立つ輝きだった。
「おおおー」
「これは、すごいな」
構えを解いて、胸をはるルビーを眺めてしまう俺とジルちゃん。ラピスとフローラはその間にもさささっと石英を回収している。
ニーナは一応周囲の警戒を続けているけど、必要はなさそうだ。
「どんなもんよ! 私の火属性は攻撃がメインなのよ」
「確かに、この火力は魅力的だな」
「戦力のバランスが取れてきたのです。後は……範囲制御です?」
ニーナにそう言われ、「うっ」とばかりにウキウキした感じだった動きが止まってしまう。
ちなみに胸をはってもルビーのは……まあ、揺れない。揺れるのはニーナぐらいじゃなかろうか?
ラピスはまだちょっと足りないし、フローラもジルちゃんもまだまだ。
「あっ! アンタ、また変なことを考えてるでしょ! えっち!」
「ちちち、違うよ?」
視線をルビーやみんなの胸元に向けていたのがわかってしまったのだろう。ムキにというか、なんだか恥ずかしがってる様子で駆け寄ってくるルビーにたじろいでしまう。
何故だかだぼだぼな感じの服を呼び出しているので、そうするうちに胸元がチラチラと目に入るのだけど気が付いているんだろうか?
「まぁまぁ。マスターが私たちのことが大好きなのは当たり前なんですもの。
ルビーさんもすぐに慣れますわ」
「うん……ご主人様に撫でてもらうと気持ちいいよ?」
なんだか、2人の慰め方が……気のせいかな? ジルちゃんに至っては別の意味で言ってないだろうか?
ルビーとも仲良くしたいなというのはその通りなんだけれども……ね。
「それはそうだけど……外って恥ずかしいじゃない」
「? じゃあお宿ならいいです?」
そういうことじゃなーい!と叫ぶルビーはツンデレというよりは恥ずかしがり屋の強気ちゃんである。俺自身、確か手に入れた時にはツンデレとそっちで迷った記憶があるからね。
やはり他の石と違って手にしたばかりだから、色々と足りないんだろうか?
これからお互いに知っていけばいいことかもしれないね。
「それより、もっと倒していいんでしょ?」
「うん。しっかり稼ごう」
そう、お金を稼がないといけない。最近、出費ばかりかさんでるんだよね。
ジルちゃんたちがマナだけでいい体とは言え、食べないというのも少々寂しい話。
それに、俺だけ食べるというのはさすがにね。そういう訳で今のところ5人、じゃないやこれで6人の食費や生活費が必要になってくるのだ。
多少持ち合わせはあるとはいえ、買い物もあるし十分とは言えない。
そこで今日受けた依頼は近くの浜辺にすみついた半魚人の退治。流れ的にまたシーゴースト関連の増大なのかと思ったけど、どうも単純に住み着いただけの様。
近くに村もないし、街道を通る時に襲われないか心配、といった具合だった。
そんな半魚人も半分ぐらいは既に消し炭になってしまったわけで、残りを退治にいかないといけない。
みんなを引きつれて目的の砂浜へと歩いていくわけだけど……なんだかますます見た目の怪しさが増したような。
大の大人1人に少女5人。言い訳もそろそろ厳しい気がしないでもない。
そろそろ開き直るというか、堂々とすべきだろうか?
例えばそう、みんな俺の良い人です!……無いな。
視線を半魚人の良そうな砂浜に戻すと、残りの半魚人たちがたむろしているのが見えた。そんなに遠くない場所で暴れたと思うんだけど、仲間の間で何か気にしあうということは無いのかな?
こちらとしては戦うのが楽だからありがたいことである。
「ご飯のために……!」
「大人しく糧になるのです1」
俺が駆け出すより早く、みんなが飛び出して半魚人に襲い掛かる。正直、この数だと俺がすることがあまりない。
当然と言えば当然だけど、1匹2匹倒す間にみんなが倒すわけだから実際問題、全体の6分の1しか相手にしてないのだからそう感じるんだと思う。
近場の依頼の時にはチーム分けしてもいいかもしれないと思う。
そう時間もかからず、半魚人たちは壊滅し、多くの石英を残して消えていった。
念のためにジルちゃんのスキルへと切り替えておいたのが効いているようだ。
出かけてから気が付いたから、また物陰でジルちゃんに聖剣を挿し込んだのでそれを見て、ルビーが顔を赤くしていたのが印象的だった。
心配しなくても、ルビーにもこうやって外でする日がすぐにくるよ、とはなかなか言いにくい状況である。
予定より早く終わった依頼の報告のために戻る途中、ジルちゃんはチラチラと道端を気にしていた。
何か気になる物があるのかと思い、そちらを見てみるけど草があるばかり……なるほど。
「ジルちゃん、色々摘んでいこうか」
「うんっ」
どうやら俺にはわからないけど、いつの間にか勉強していたらしいジルちゃんの目には薬草の類があちこちにあるのでもったいないなあと思っていたそうだ。
彼女が摘んだ物をよく見てみると、確かに最初の頃に採取していたヨモギモドキ……じゃない、ギヨモに似た雰囲気だ。
同じではないだろうけど、似たようにポーションの材料となるのだろう。
人海戦術とまではいかないけど、みんなして採取を始める。その間、時折モンスターが近寄ってくるけど大体は獣のタイプで、個々に撃破されていく。
もし、血や死骸が残るような世界だったらもっとひどいことになってるな……。
「とーる、全部しまっちゃうと変じゃない?」
「そうなのです。少しは持って帰らないとなのです」
「確かに……、じゃあみんな持って帰ろうか」
最初はぽいぽいと便利に収納袋に全部入れていたけど、全員手ぶらというのは確かに見た目はよろしくない。
そこで、一度しまったものをまた出して頑張って取ってきましたよとわかるようにしてスフォンに戻ることにした。
「はい、これで大丈夫ですよ。依頼は全て達成です」
「やったね、ご主人様」
受付のお姉さんに依頼の木札と物品を渡して依頼完了。
受けてきたのは討伐だけだったけど、ギルドに戻った時に採取した薬草類の依頼があったので後受けとして処理してもらった。
よくあることらしいので、問題にはなる様子はなかった。
さてさて、次の討伐はどれを選ぼうかな……とそんな時だ。
「トール! これ受けましょう!」
勢いよくルビーが持ってきた依頼書は討伐が主の依頼。
ただし、中身がなんだかおもしろい。温泉ニッパの討伐とある。
温泉なのにゆだるような奴が出現してていいのだろうか?
まあ、多少ならいいのだろうけど……。
「カニさん……カニさん」
「あらあら、前のニッパとはどう違うんですの?」
俺一人、いつぞやの食事がニッパだけ事件を思い出し顔を青くしだしてるのだけど、みんなは乗り気だ。
俺が戸惑っている間に、ラピスが依頼書を持って受注に向かった。止める理由もなく、俺はそれを見送るしかなかった。
戦力も増え、食べる子も増えた状態でのニッパ系討伐。それはつまり……。
カニさん逃げて、そう思うしかない俺だった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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