JD-091.「自分で選ぶ物に価値がある」
直接書かずに何をしたかを伝える手段を取ってみました(手遅れ
「お兄さん、追加料金をお願いしますね?」
「は、はい……」
物理的なプレッシャーすら感じそうな空気が襲い掛かり、俺は素直に頭を下げながらそう答えるしかなかった。
ぎりぎり笑顔が保たれているけど、今にも爆発しそうな宿の女の子をこれ以上怒らせるわけにはいかないのだ。
せっかくの温泉のある宿だし、他の宿じゃ大人数で泊まれる部屋というのはなかなかないのだから。
「もう、言ってくれれば寝具も変えておきますから……でも、盛り上がっちゃったんですね?」
「その通りです、はい」
それなりにあることなのか、怒ってはいるけども女の子……ユンちゃんは顔を少し赤くしながらも対応策というか解決策を提示してくれる。
何かと言えば……洗濯が必須な状況になってしまった部屋のベッドたちの事である。
あれから、全員を相手にする覚悟を決め、結果として全員貴石ステージの上限を上げることに成功したのだ。
つまりはその……。
「とりあえず、下着なんかはこの辺で売ってますから。ぜひご利用くださいね!」
商魂たくましいというべきなのか、あるいはそうでもしないと恥ずかしいのか、ユンちゃんには着替えとかを買うのに便利な場所を教えてもらった。早速行くことにしようと思う。
「ありがとう。じゃ、これ追加分……」
「毎度ありがとうございます。それにしても……」
宿泊料金の半分ほどの金額を追加として支払い、交換をお願いしたのだがユンちゃんはそんな俺をじーっと見つめてくる。
思わず俺がたじろいでしまうような見つめられ方だった。
「な、何か?」
ジルちゃんたちはいつもの服に着替え、すぐそばの食事処にご飯を食べに行ってもらっている。
俺もそこに速めに合流したいところではあるのだが……。
こうも見つめられては立ち去るわけにもいかない。
「部屋でうっかり死んでしまわないでくださいね? しっかり宿賃払ってくださいね!」
「俺はそんなことじゃ死にません!」
からかい交じりのそんな言葉に、顔が赤くなる感覚を覚えながら俺は宿を飛び出した。
向かう先は皆のいる場所。
「あ、とーる。こっちこっち」
「お先に頂いているのです」
昨日というか今日まで一緒に体力を消耗していたはずなのにフローラは元より、他の3人も元気いっぱいであった。
でもよく考えてみれば、彼女たちには体力という概念が無く、マナがその代わりだったはずだ。
となると、マナの補充がされ続けていた昨夜の行為は……大した問題ではなかった?
俺が供給できる限り無限の体力ということから導き出される結果はそういうことだった。
「ははっ。軽く食べたら買い物に行こうか。良いお店を聞いたんだ」
「やった、お買い物。ご主人様とみんなと一緒にお買い物」
「あらあらジルちゃん。こぼれてますわよ」
4人がわいわいと食事をしている横で一人でいると、何やら4人の兄にでもなったような構図になっていることに気が付く。
ただ……そうじゃないんだよな。この世界にお巡りさんがいないのが幸いである。
多少周囲の視線を集めつつも、そのまま食事を終えて教えてもらった区画へと5人で歩く。
その区画に近づくほど、確かに教えられたとおりに古着だとかを扱う店が増えてきた。
新品というか仕立ててという服は高いのが相場で、やはり多くが古着を着まわすか補修して使うのだが、仕立て前の布も売っている店が点在することを考えるとそこそこ高級そうな感じだ。
古着を扱う店でも、見るからにボロという物が並んでいないことがその証拠だ。
「なるほど。つまり着替えを追加するのですね?」
「そうそう。なんていうか……ね」
さすがに面と向かって、みんなと触れ合ってると誰もが汗だくだから着替えが大変、等と通りを歩きながら言うのは難しい。
ただでさえ、男1人に女の子4人ということで時々視線がやってくるしね。
そうして、ユンちゃんに教えてもらった古着を扱う場所の中でも、下着をメインにしている店にたどり着いた。
確かに外から見える範囲でも色んなそれらしいものが目に入る。少々、俺にはハードルが高い場所ではないだろうか?
「さ、マスターも一緒にですわ」
「俺も!?」
俺が外で待ってると言おうとしたのに気が付いたのか、ラピスが逃がさないとばかりに腕を取り、ジルちゃんがそれに続く。
こうなっては逃げることも出来ずにフローラとニーナの先導を受けて一緒に店内に……。
すぐに場違い感満載な気持ちになった。
白やベージュなどが多いけど、他にもカラフルな布地が視界いっぱいに飛び込んできたのだ。
過去に来た人物が伝えたのだろうか? 簡易ながらも俺の知る女性下着のような物がいくつもある。簡単にいうといわゆるパンツとブラジャーなわけだが。
野暮ったい布を合わせる形だけでないのはその意味では幸いだけど、視覚的に厳しいのは比べるでもなく今の方だ。
現に、既に店内にいた女性陣の視線が突き刺さる。なんとか文句を言われていないのは、俺の手を取ったままのラピスたちのおかげなのだろう。
「さあ、どれがお好みですの?」
(……え?)
俺が……選ぶの?
真っ白になった思考が戻ってくる間に、周囲の視線や店員さんの態度が妙な物になった。
中には同情のような物も混じってきているような気がしたのだ。
なぜか店員さんの目はキラキラと輝いているのだが……。
「ジルも選んでほしいな」
「あ、ボクもー!」
「自分もいいのです?」
ラピスがとなれば当然、他の3人も同調してくる。俺に逃げ場は、無い。
ここでスケスケの物やきわどいもののどっちがいいか?と聞かれるよりましだと思いなおし、出来るだけ直視しないようにしながら店内を見て回った。
時折、他のお客さんの動きがこちらを意識したであろう物になった気がして泣きたくなった。
「ねえ、ラピス。俺が選ばないとだめ?」
「駄目ですわ。だって……」
最後の抵抗を試みた俺の耳元にラピスが顔を近づけてきたかと思うと、くすぐるようなささやきが耳に届いた。
─だって、マスターに脱がしていただく物なんですからちゃんと選んでくださいな
「そっかぁ……」
言われてみればその通りで、まさにぐうの音も出ない。覚悟を決め、色々と頭の外に追い出して選び直すことにした。
俺が選んだからというのがあるのだろうけど、4人とも喜んでくれたから良しとしよう。
周囲からの微妙な意味合いの視線を浴びつつ、俺達は店を出て……。
「あああ!」
「!? どうしたの、ご主人様」
急に叫んだ俺を4人が慌ててみてくるが、俺としてはそれどころではなかった。
なんということだろうか……すっかり忘れていた。
「ガーネット、解放してない」
「「「「あ……」」」」
慌てて5人そろって宿へと走る。部屋は確保してあるから、どこかにいってるということはないだろうけど、もし紛失とかなった時に誰がどうするのかといった面でも非常に面倒なことになる。
ユンちゃんにお礼を言いつつ、置きっぱなしだった他の荷物の事も聞いてみると、特に弄らず掃除だけしたそうだ。
と同時に、貴重品は置きっぱなしにしないでと怒られた。
「さて……呼び出すよ」
4人の見守る中、俺はそっとガーネットにキスをした。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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