JD-089.「幼女よ、燃え上がれ」
『私としては一度体勢を整えてからの方が良いと思うのだが……場所も良くない』
「でも次にこれよりマシな状況に出会えるとも限らないよな……」
サイズを大きくしたら怪獣大決戦と呼べそうな感じで3匹が争っている。
蛇が巻き付こうと竜もどきに迫れば、魚がその隙を突いて水鉄砲ならぬ溶岩鉄砲を撃つ。
竜もどきがそれに怒って魚めがけて……と変な三すくみのようになっている。
ただ、こうしていても他の魔物が寄ってくるかもしれないし、何より……暑い。
「自分としては、戦うなら蛇と魚よりあのトカゲなのです。
魚は溶岩の中ですし、蛇は巻き付きが非常に怖いのです」
「ボクたちが丸呑みされちゃいそうだしねえ」
みんなの額に漫画のようにたらりと大粒の汗が垂れてきたように感じた。
俺もそんな気がするからな……どうしたものか。
ただ、狙いは大体決まって来た。戦うなら竜もどきなトカゲだと。
よし、溶岩トカゲとでも呼ぼう。
『魚は引き寄せればこちらには来れないであろうから蛇の邪魔をした後、トカゲをおびき寄せるとしよう』
「わかりましたわ。マスター、その前に出し惜しみは無しということで全員貴石解放してくださいまし」
「確かに……そうだね。少し離れてやろうか」
時間を取れるのは確かに今ぐらいだ。マリルの目があるのが気になると言えば気になるけど、言いふらすような人じゃないのはこれまでの付き合いでわかっている。
3匹から少し離れた岩場に隠れ、初めてではあるが聖剣(短)を2本に増やした。
『不思議な力を感じるな。口外はしないつもりだ。興味深い……』
「フローラ、ニーナ」
「はーい」「はいなのです」
じっとこちらを見つめるマリルに苦笑を返しつつ、2人を呼んで前に立ってもらう。
差し込みやすいようにと服をたくし上げる2人の姿にマリルの目が驚きに開くのがわかる。
といっても元々大きくないからわかりにくい目だけどね。
最近、みんなの外でのたくし上げ方というかめくり方に個性を感じるようになった。
フローラは間違いなく深く考えずにがばっとめくるし、ニーナは大事な事だからと真面目な感じにしっかりと。
ラピスは……わかってて誘うように姿勢まで交えてめくり、ジルちゃんは……止めないとどこまでも脱ぎそうだね。
ともあれ、こうして一緒にとなると無駄に同時にやりたくなるのがこういう時の性というもの。
俺もその謎の気持ちに従って2人のお腹に聖剣(短)の先をすりすりとこすりつけつつ、つぷんと沈める。
「あふっ」
「少し冷たいのです……んんっ」
『この波動……障壁を張っておくぞ』
海辺でストームマンタをおびき寄せるために貴石解放を使ったことがある。
あの時は解放時にマナの波動が広がり、相手にとって光って見えるからだと知ったはずだった。
うっかり忘れていたそのことを、マリルは咄嗟に判断して薄い膜が俺達を覆う。
視線を向けて感謝に頷きつつ、手の中の聖剣をしっかりと押し込み、左にひねる。
2人の嬌声が小さいながらもしっかりと響き、無事に解放に成功する。
「ご主人様、早く早く」
「まあ、ジルちゃんったら。はしたないですわ」
待ちきれないのか、俺の腕を取ってぴょんぴょんと跳ねるジルちゃんをたしなめるように言うラピスもその瞳は俺を潤んだ状態で見つめている。
状況が違えばそういう本のシチュエーション以外の何物でもないよね、うん。
足を内またにして、腕も胸の前で合わせながら少しもじもじするというテクニックで俺の何かを打ち砕きに来るラピス。
出来ればそういうことは平和な時にしてほしい。
ジルちゃんはジルちゃんでがばっと脱ぐから小さなお椀が見えそうで見えないぐらいだ。
(おっとそんな場合ではなかった……早くやろう)
頭を振って思考を戻し、改めて2人のお腹に聖剣(短)を挿し入れ、左へかちりと。
『ほほう……これなら確かに。よし、行こうか』
幼い少女から10代後半の女の子へと変身した4人を前に、マリルは驚きに顔を染めながらも冷静だ。
あるいは、気にしてもしょうがないことだと割り切って考えることが出来るのかもしれない。
「ちょうどいい具合に蛇が攻められてるな」
全員で様子を伺い、たまたま蛇側に攻撃が集まった時を狙って俺達は岩場の上に飛び出した。
そのまま一斉に蛇に向けて貴石術による射撃と、俺自身は魔刃を放った。
乾いた音を立てて飛び出したそれらは、蛇の頭部へと連続して吸い込まれていく。
結果、それにダメージを受けたらしい蛇が硬直し、そこを溶岩トカゲに噛みつかれ……倒れた。
ギロリと、溶岩トカゲだけでなく魚の視線も集まった気がした。
溶岩トカゲはともかく、魚にそんな知能が……否定できないな。
「っとお!?」
「何か飛んできたのです!」
魚が向きを変えるなり、俺達の立っている岩場に向けて口をすぼめたかと思うと溶岩鉄砲を撃ちだしてきたのだ。
間一髪、全員が降りることでそれを回避するが射線には出たくないなと思った。
岩の向こうから何かが歩く音が聞こえる……恐らくは溶岩トカゲ。
『誘う手間が省けたという物よ……さあて、本番だな』
「まずは自分の岩壁で……! ああっ!」
叫びが響いたのには理由がある。
溶岩トカゲを閉じ込めようと展開した岩壁が飛ぶような溶岩トカゲのジャンプによって回避されたのだ。
鈍そうな動きをしていたのに、こんな動きも出来るなんて……。
コイツ、思ったより強い!
『来るぞ!』
着地し、赤い、燃え盛る炎を圧縮したような瞳が俺を見据え、溶岩トカゲが吠えた。
まだ距離があり、それはただの咆哮のはずが……口内に光を感じた。
(ブレス!?)
似たようなトカゲがしてきた攻撃を思い出して咄嗟に繰り出した透明な石壁。
でもそれが貫かれそうだということは俺にもわかった。
思考が追いつく前に、俺の前に白がすべり込む……ジルちゃんだ。
「ご主人様は……やらせないっ!」
両手を前に突き出し、俺の物とは比べ物にならない厚みの石壁、恐らくはジルコニア由来であろうそれが溶岩トカゲのブレスを受け止めた。
ジルコニアの融点は高く、地表に出てきた溶岩よりも高いような記憶がある。
現に、ジルちゃんの生み出した石壁はブレスを防いでいる……が、熱までは防げない。
石壁を迂回するようにその熱が迫り、ジルちゃんの腕を焼いた気がした。
「一気に冷やしますわよ!」
「突風だー!」
『何を呆けておる!』
そんな状況をひっくり返したのは氷と風だった。
熱気を全く感じないどころか、寒くなるほどの冷気が産まれ、それを風が運ぶ。
マリルのサポートを受けたその攻撃は周囲ごと溶岩トカゲを包み込み、その体に霜を降ろした。
「ニーナ!」
「はいなのです!」
その場にしゃがみこむジルちゃんを抱き留めたい感情を押し殺し、ニーナと二人で駆け出す。
明らかに動きの鈍い溶岩トカゲの首元に大きな岩の杭が上空から落下する。
まるで地面に縫いとめるかのようなその攻撃にさすがに溶岩トカゲが悲鳴を上げた。
俺はそのまま聖剣の切れ味を最大にして走り寄ると、横合いから首元へと勢いよく振り降ろし……首を地面ごと叩ききったのだった。
「マスター、ジルちゃんを」
「ジルちゃん!」
ラピスに言われ、俺はすぐさまジルちゃんの元へと駆け寄った。
まだ大きいままだけど、両手をかばうようにしゃがむ姿は痛々しい。
貴石解放後のジルちゃんがこんなになってしまうとは、相手の強さがうかがえる。
(いや……これは俺の怠慢ではないだろうか)
単純に、俺達の強さが足りていなかったのだ。
もし、もしもだがちゃんと貴石ステージが上昇できる状態にしておき、ステージを上げていればここまでのことにはならなかったかもしれない。
その後悔がせり上がり、俺はジルちゃんを抱きしめた。
「? ご主人様、どこか怪我した?」
「ううん、違うよ。ごめんね、ジルちゃん」
俺の頬を撫でようとするジルちゃんの手は火傷のように波打つ跡が残っている。
そのことにまた俺は衝撃を受け、変身してもまだ小柄な彼女の体を抱きしめ続けた。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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