JD-088.「煮え立つマグマの中で」
目覚めは妙な音のせいだった。
『トールよ』
「ああ。みんな、起きて!」
聖剣をひっつかみ、入り口付近に何かいないかをそっと探ってから俺は洞窟から外へと飛び出した。
足元にマリルが追いついてくるのを感じながら、周囲を見渡すがそばには何もいない……では今の音は?
「マスター、何事ですか?」
「敵はどこなのです!」
飛び出してきた2人を抱きかかえ、俺はそのまま洞窟そばの岩陰に身を隠した。
視界に入ったある物に気が付いたからだ。
敵がいるのだと真面目な顔になったニーナに対し、ラピスは何を期待しているのかほんのりと顔を赤くしている。
そんなことよりも……向こうに見えたあいつが問題だ。
「あれ、とーる。そんなところでどうしたの?」
「たぶん、敵さん。フローラも隠れる」
やや遅れて出てきた2人も一緒に、全員でとある方向を見る。
洞窟からさらに山頂の側、途中にある小高い丘の向こうに……赤い頭が見えた。
最初はただの岩かと思ったが、動いている。
─溶岩頭のゴーレムであった
「あの頭の大きさですと、マスターの5倍ぐらいはありそうですわね」
「下手な岩盾だときっと溶けちゃうから受け止めるのは大変なのです」
『どうする? どちらにせよ厄介そうではあるぞ』
放置する、という選択肢はとれそうにないのが現状だ。
貴石探しをするにも、出来るだけの障害は排除しないといけない。
改めて全員を見渡し、ラピスの貴石術を中心に挑むことを決めた。
威力といった面ではマリルは皆には届かないようなので支援に回ってもらうこととした。
まずは先手必勝の常に従い、俺達全員で遠距離での攻撃を試す。
様々な色の短剣が飛んでいき、溶岩ゴーレムに突き刺さる。
しかし、フローラとニーナの物は埋もれて溶けていく。
ジルちゃんの物と俺のだけはしばらく刺さっていたが、表面を流れているらしい溶岩と一緒にどろりと流れてしまう。
例外はラピスの放った物だ、それでも……。
「固まったけどまた戻ってるな……」
「次は全力で行きますわ!」
大したダメージにはなっていないはずだけど、溶岩ゴーレムはそれでもこちらに気が付いたらしくその巨体をゆっくりとこちらに向けるところだった。
そのまま歩いてくる足元に、水桶ほどの溶岩がぼとりぼとりと落ちては冷えていく。
(俺以外の接近戦は最初から無理、だな)
そう判断した俺はラピスに先手を任せ、溶けないことを祈りながら聖剣を構えた。
まずは魔刃からということで吹き始めたラピスの冷気に合わせ、刃を飛ばす。
後を追うようにジルちゃんたちの投擲も冷えて黒くなった場所へと迫り……しっかりと突き刺さった。
『緑の娘よ、私が打ち込む場所に合わせるがいい』
「ボク? よーし、いっくよー!」
後ろで待機していたマリルの頭上あたりから小さく、圧縮されたとわかる青い光が飛び出して溶岩ゴーレムの頭部へと直撃した。
見る間に黒くなった頭部へと迫るのは放電した風の塊……フローラによる雷球と呼ぶべき物だった。
爆発したかのような音を立て、ゴーレムの頭部は吹き飛ぶこととなった。
いつぞやの源泉に浸かっていたゴーレムとは違い、こちらは再生する気配がない。
「ラピス、首元へ! みんな、中を吹き飛ばすよ!」
大きな壺に物を投げ入れるかのようにゴーレムの頭のあった場所へと一斉に攻撃が集中し、2回、3回とそうするうちについには溶岩ゴーレムが崩れ落ちた。
動かなくなった溶岩ゴーレムを見ながら、ため息1つ。
たった一体相手にこの調子ではこの先どうしようかというところだ。
『カラードの石英、か。あのゴーレムは珍しい方ではないのかな?』
「さすがに同じ相手がたくさんいるとは考えたくないですわね」
「お湯を沸かすのに便利そう?」
結構大きな音を立ててしまったので、他の魔物に見つかる可能性を考えての移動中、手に入れた石英を見てみると赤みを帯びた物だった。
触っても熱くはないが、マナを込めるとすぐに発熱しそうな気配がある。
ひとまずと収納袋にほうりこんだ……中で燃えないよな、これ。
その後も警戒を続けながら探索を進める。
木々はほとんど姿を消し、草花が隅の方にひっそりと生えているぐらいになってきた。
と同時に、だんだんと熱を感じるような気がする。
「マリル、もしかして暑い?」
『もしかしなくても、やや暑いな。見よ』
小さく生み出された氷は地面に落ちてすぐに溶け始めている。
少なくとも、真夏に近い状態にはなってきているようだった。
地面に近い位置を動いているマリルには少々厳しくなりそうだ。
「ご主人様、変なのがあるよ」
「ぼこぼこってどろどろしてるー!」
先を歩いていた2人に誘われるままに行ってみると、赤い川があった。
ゆっくりとした狭い幅だが、溶岩の川。
(ここは街の反対側か……そうなると)
この火山がほとんど噴火していないのは、こうして常時流れ出ていくことで圧力が高まりにくい状態になっているのではないだろうか?
そう考えた俺は川の行き先が気になって隠れながら進むことにした。
疑問はすぐに解決……いや、正確には解決できなくなったかな。
「下に潜ってますわね」
『恐らくこのままどこか遠くまで流れていくのだろう』
視線の先にはぽっかりと開いた穴。
山に作られた車用のトンネルのような穴を溶岩が通っていく。
その先はどうなっているかわからないし、確かめるのも難しいだろう。
貴石探しに戻ろうと声をかけるべく振り返った時、大きな音が響いた。
「お魚さん……熱そう」
「見てください。蛇のような物もいますわ」
これまでにも色々な物にファンタジーを感じていたけど、今日のこれはとびきりだ。
溶岩の川の中を、鱗の目立つマグロのような見た目の魚が泳ぎ、そのそばには映画で見るような大きさの巨大な蛇が獲物を狙うように頭を上げていた。
先ほどの音は、蛇が魚を狙って首を突っ込んだときの音のようだ。
水面と呼ぶのが正しいかは置いておいて、水面を泳ぐ魚も魚だが、それを襲う蛇も蛇ですごすぎる。
見ている間にもまた蛇が魚を狙うも急加速した魚はそれを回避し、逆にはねたかと思うと尻尾の方で蛇の頭を打ちすえた。
『魚の方が優勢ではないか……ものすごいものだな』
「さすがに相手にしたくはないのです」
「すごいっ、すごいねー」
おおむね、他の皆も同じようでゆっくりと下がることで戦いを回避しようと試みる。
幸いにも魚と蛇には見つからず、岩陰にひっこむことに成功した。
背中に当たる岩も気のせいでなければやや熱い。
(今のところ貴石の持ち主はいないな……はずれか?)
『む……本命のお出ましだぞ』
「マスター! あの目!」
岩陰からのぞき込むと、そこにいたのはドラゴン。
いや……ちょっと違うな……でかいトカゲだろうか。なんとかオオトカゲという言葉が浮かぶ。
四つ脚で歩く巨大なトカゲというだけでドラゴンと思ってしまったが、ちょっと不思議な生物に収まってくれ……るかな?
ぱっと見は前に出会ったトカゲとよく似ているが、大きさとデザインが結構違う。
赤い体は他と変わらず、膨らんだ体には力を感じる。
その右の瞳には赤い光が1つ灯っており、左の瞳には変な場所はない。
感じる気配からも間違いなく、貴石がはまっている。
「あ、戦い始めちゃった」
「様子を見ようか……」
竜もどきが吠えると、既に争っていた魚と蛇へと突撃し始めた。
どうやらお互いが食事となる関係らしい。
増援に警戒しつつ、しばらく見守ることにした俺達だった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




