閑話休題【幼女といえば『はじめてのおつかい』】
お友達な由斐レギナ様より二次創作頂きました!
お話してて書きあうというノリが実現。
こんなことがあったかもしれない、優しい作品です。
掲載後、しばらくしたら該当付近に移動します。
ご主人様とお話し出来るようになって、ちょっとした頃。
ある日、ご主人様が動かくなったの。
「ジル……ちゃん、ごめん。今日はお仕事、お休みね?」
そう言うご主人様は、ベッドの中でブルブル震えてる。
顔もどこか赤くて、鼻からはずびーっと汁が出ている。呼吸も辛そうなの。
「ご主人様、どうしたの? 死んじゃうの?」
「死なないから。たぶん普通に風邪だから。てか、異世界チート体力あんのに風邪とかって。俺、情けなくね……?」
「ご主人様がどんなにダメダメでも、ジルが守るから大丈夫なの」
「……うん。ちょっと寝てればすぐに治るから……今日はジルちゃんもゆっくり……」
そう言いかけて、ご主人様が目を閉じちゃったの。
一瞬頭はふわーって何も考えられなくなったけど、ご主人様のすぴーって寝息聞いたら、すぐにホッとした。
ご主人様は、寝てればすぐに治る言ったの。
でも、すぐっていつ?
いつご主人様は元気になるの?
ご主人様は寝てて答えてくれないから、ジルは教えてくれる人を探しに行ったの。
♢ ♢ ♢
「おー、嬢ちゃん! トールは? 一人でどうしたんだい?」
部屋を出てすぐ、この宿のオヤジさんに声を掛けられたの。
いつもこの人の作るご飯を、ご主人様は美味しそうに食べてるの。
「ご主人様、具合が悪いの。寝てればよくなる言ってたけど、いつよくなるの?」
「あー、あいつ風邪引いたのかー。こんな可愛い子差し置いて風邪引くなんて、情けねェー奴だなぁ」
「ご主人様も言ってた。風邪ってなぁに?」
ジルの質問に、オヤジさんはジルの頭を撫でながら、答えてくれたの。
「風邪ってのはまぁ……薬飲んで大人しくしとけば、明日にはケロっと良くなるもんさ」
「薬? 薬草のこと?」
「まぁ、そんなもんだな。風邪に効くのだと、そーだなぁ……ヴァファリン草とかかなぁ」
頭撫でてもらっても、やっぱりご主人様じゃないと、気持ちよくない。
「それ、どこにあるの?」
「ここいらだと、西の丘の上にあるって噂だが、あの辺は――て、嬢ちゃん、どこへ行く!?」
西の丘なら、ご主人様とも途中まで行ったことあるの。
だから、ジルは急いで走ったの。
一人でどこかに行くのは初めて。
でも大丈夫、ジルは強い子なんだから。
♢ ♢ ♢
いつもご主人様と狩りをする森を抜けたら、西の丘に着いたの。
お日様がポカポカで、お花のいい香りがするの。
ご主人様が元気になったら、ここで今度ご飯が食べたいの。
お昼寝でもいいかな? そしたら、きっと楽しいの。
辺りを見渡して、ヴァファリン草を探すの。
ジルの記憶にあるから、あればどれだか見分けはつくの。
でも、見つからないの。
どれだけ探しても、どれだけ草花を掻き分けても、見つからないの。
ゴブリンが襲い掛かってきても、ジルならやっつけるのは簡単なの。
そんなのは怖くない。
だけど、お日様が傾いて来ても、オレンジにキラキラしだしても。
お薬が見つからないの。
ご主人様が待っているのに。
こうしている間に、ご主人様に何かあったら……。
そう考えていると、顔に力が入っちゃうの。目が熱くなるんだけど、視界がぼやけるから我慢するの。
余計なことに力を使っている場合じゃないのに。
そんな力があるなら、手を動かせ。
そんな力があるなら、足を動かせ。
そんな力があるなら、目を凝らせ。
ジルの力は、無限じゃない。
「ご主人様……」
もしも、ご主人様が二度と起きてくれなくなったら……。
ジルは、それが何よりも怖いの。
♢ ♢ ♢
空が真っ暗になったの。空気がとてもヒンヤリとしている。
今日はお月様がまんまるだった。ご主人様にも見せてあげたい。
その時なの。
ぽっと浮かび上がるように光る草があったの。
慌てて駆け寄ると、それはハートの形をした草があったの。
「あった……」
肩から力が抜けたの。
これが、ヴァファリン草なの。
それを空に掲げたら、お月様の光を反射してキラキラしているみたいなの。
そうだった。満月の夜に生える植物なこと、忘れていたの。
うっかりなの。
でも、きっと大丈夫なの。そんな気がするの。
だから、急いでご主人様の元へ帰ろうとするの。
「ぐるぅぅぅぅぅぅ」
そのうめき声に身を構えると、人狼ワーウルフが爪を立ててこっちを見てたの。
月夜の晩に変化する魔物で、通常のウルフより強いけど、いつものジルなら問題ないの。
けど、ジルの足はもうフラフラで。目がショボショボしていて。
マナが枯渇している。
宿に帰れる体力があるかどうかも、微妙なの。
だけど、人狼ワーウルフはそんなジルにはお構いなしで、飛び掛かって来るの。
避けようと思っても、足が動かない。
鋭い爪が、目の前にあって。
「ジルちゃんっ!」
けど、その爪先がジルの目の前を通り過ぎたの。
ジルは誰かに抱かれて、草の上に倒れた。
その腕が暖かくて、目から何かが零れたの。
「ご主人様……」
「とりあえず逃げるよ!」
パジャマ姿のご主人様の手に引かれて、ジルも一生懸命走ったの。
パジャマ姿のご主人様の後ろ姿は、あまりカッコよくはないの。
でも、手が大きくて、ぎゅっと手を握られてると安心するの。
ジルは、ご主人様が大好きなの。
♢ ♢ ♢
「どうして一人であんな所に行ったの!」
宿に戻ったら、ご主人様に怒られたの。
ご主人様、なんか元気そうなの。
本当に、ゆっくり寝たら治ったみたいなの。
「ごめん……なさい……」
「今日はお仕事お休みだって、言ったよね? ジルちゃん強いとはいえ、こんな遅くまで出歩いたら危ない――ジルちゃん、なに持ってるの?」
俯くジルに、ご主人様が首を傾げるの。
だから、ジルはキラキラ光るハートの葉っぱを差し出したの。
「これ……お薬。ヴァファリン草……」
そしたら、ご主人様の黒い目がぱちぱちして。
「この世界でも、半分は優しさってやつなのかな」
なぜかご主人様苦笑して、ジルの頭をポンポン撫でてくれたの。
由斐レギナ様もなろう内で連載中です。
作品は、
魔女的エクアージュ~失恋の腹いせに世界を破滅させる物語~
http://mypage.syosetu.com/921863/
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