JD-084.「雷雲を抜けて」
ちょっと書き方を変えています。
スフォンの街を出て2時間ほど歩いた先に俺達はいた。
街道から少し外れた、訪れる人はなかなかいないだろうなと思う場所だった。
雑草が生い茂っているが、元は何かの広間だったことがそれらを刈り取った結果わかった。
周囲には切り出された岩が規則的に転がっているように見える。
なんだかテレビで見た昔の遺跡みたいな印象を受けるんだよね。
『君たちはなぜか落雷が多い場所、というのを知っているか?』
「聞いたことはあるかな。こっちに来てから見かけたことはないけど」
「ジルも知ってるけど見たことない」
他の皆もジルちゃんと同じようで、知識としては知ってるけど……みたいな。
彼女たちの場合には、知識として知ってることの方が多い。
実際に見たことがあるのはこうして誕生してからの物になるのだから少なくて当然か……もっといろいろ見て回りたいな。
『私の記憶によれば、かつてはこのあたりには季節を巡る雷雲の話があった。
人とシルズはそれにより季節を感じたのだ。この場所はその中でも
雷雲を誘導するための専用の施設のような場所だ』
相変わらず謎の動き、水を生み出してホバーのように移動するマリル。
その短い手というかひれ先が差す先には、何かあったんだなと思わせる岩が転がっている。
「じゃあそこを自分が再現すればいいのですね!」
お任せくださいなのですと元気よく答えたニーナの手により、にょきにょきと植物が伸びるかのように岩が上に向かって伸びていき、あっという間に塔のような物が出来上がる。
見た感じは中に乗り込める避雷針、といった具合か。
『うむ。根元の陣にマナを注いでおけば完成だ。
後は雷雲が来るのを待とうではないか』
「問題はどうやって落雷を防ぐかだな。つっこめばこの塔?は役に立たないだろうし」
やり過ごすだけならこれでよさそうだけど、俺達の目的はその中身なのだ。
ここにゴムのスーツ、なんてものはないからなあ。
と、ジルちゃんが落ち込んだ顔をしているのが目に入った。
これはおやつのハチミツを却下された時より暗い顔だ。
「ジル―、どうしたの? お腹痛い?」
「ジルちゃん、少し休む?」
しかし、ジルちゃんは首をふるふると力なく横に振るだけだった。
それでいて、俺の方を潤んだ瞳で見上げてくる。
こういう姿も可愛くもあるけど、出来れば笑顔の方が良いよね、うん。
ラピスやニーナにも慰められ、何かを決心したようにジルちゃんが口を開いた。
「ごめんね、ジルが本物だったら楽なのに」
「本物だったら……? ああ、そういうことか」
ジルちゃんはジルコニアの化身だ。
本来は別物なのでおかしいのだが、ダイヤモンドの偽物とある意味扱われる。
そして、ダイヤモンドは絶縁体とまではいかなくても電気を通しにくい。
つまりはジルちゃんは自分がダイヤの貴石術を使えれば絶縁性の傘を作れたのに、と落ち込んでいたのだ。
俺はなんだか悲しくなってジルちゃんのほっぺたをむにむにと摘まんだ。
「ごしゅじんひゃま?」
やはり悲しいのでむにむにと続ける。いつの間にかラピスや他2人もジルちゃんを撫でたり、わしゃわしゃといじくりまわすのだ。
しばらくそうした後、俺もみんなも手を離す。
「うう、なんだかぼさぼさ……」
「ジルちゃん、ジルちゃんが何もできない女の子だったとしても、俺は見捨てないよ」
しゃがんで、目線を合わせて俺はそう言い切った。
そう、何かできるのは便利ではあるけど、それが一緒にいる理由のすべてという訳じゃあない。
笑い、泣き、一緒にいてくれるだけで、それだけで俺は幸せなのだ。
そりゃ、異世界ということでちょっとしんみりすることもないわけじゃあないけども。
そんなときもジルちゃんたちがいたから頑張れているのだ。
だから、別にジルちゃんが貴石術を使えるかどうかは一緒にいたいかどうか、とは関係が無いのだ。
「あのね、ジルね、ジルね」
「うん……」
ぶわあっと涙が出てきたジルちゃんはそれでも何かを口にしようとする。俺達はそれをそっと待った。
「ジル、みんなと一緒がいい」
「そうだね、一緒がいいね」
そっと抱き寄せ、その背中を幼子にするように撫でた。
見守るマリルの顔もなんだか優しいものになってる気がした。
『麗しきは友情か愛情か。それはともかく、そろそろ来そうだ。
内部から冷やせば十分電気も防ぐだろう。さあ、成すべきことを成すのだ』
「自分は足場を作るのです! フローラ、目的地まではお願いするですよ」
「もっちろん! とーるを抱えてひとっとび!」
こうして、ジルちゃんとラピスによる傘を中心に、一気に雷雲の中に突撃する案となった。
マリルは中で支援をする予定らしい。手伝ってくれるというだけでありがたいよね。
遠くの空に黒いものが見えてくる。間違いなく、雷雲だ。
ここに来る時にも見た不思議な光景。
『雷は雨を呼び、雷雲が過ぎ去った後は実りもいいのだ。
もっとも、随分と今回は強そうだな……心当たりは?』
「ある。あの中にあるであろう貴石が影響を与えてるんだと思う」
俺は入手する段階で強化されていたゴーレムなどの話を告げる。
何もなければ、あのスライムやゴーレムらも普通だっただろうからだ。
ひれを器用に使い、マリルはしばし考え込んだかと思うとこちらを真剣な面持ちで見る。
『だとすると最後は少々辛いかもしれんな。
つかむときにしびれるぐらいは覚悟しておくように』
「了解。まあ、そりゃそうだ」
少しからかいも混じった言葉に、俺も笑いで返す。
耳に届く雷鳴の音に、全員の顔が引き締まった。風はあまりない。嵐の様にはならなそうだ。
『来るぞ!』
響いていた雷鳴がわずかに収まったと思った瞬間、修復した塔の方ではなくこちらに落雷があった。
「ひゃっ!」
「防いだ……よ」
視界が真っ白になったが、見事にジルちゃんの生み出した傘は雷を防いだ。
周囲に独特の匂い、オゾン臭っていうのかな?が漂う。
すぐに消えてしまうその匂いはあまり良いものではない。
「冷却! 足場も伸ばして!」
「いくのです!」
ぐぐっと足元が浮くようになるのがわかる。ニーナが足場となる岩を一気に伸ばしたのだ。
見る間に高くなる視界、そしてそれは塔をあっという間に過ぎてどんどん上空へと伸びていく。
これが海上であったなら、もう少し風が強くて危なかったかもしれない。
何回も落雷がジルコニアの傘に落ちてくる。
その度にジルちゃんが呻くように声を上げ、ラピスが冷やしていくのを繰り返した。
『あれか。見えたようだぞ』
「小さい……よし、フローラお願い!」
「とんじゃえー!」
声と共に、一時的にだけどジルちゃんの傘が大きく広がり、網目状となって隙間を多く作った。
その間を縫うように俺をフローラが抱え、飛び上がる。
見えてきた小さな、小さな貴石らしきものを手にしてしっかりと握りしめた。
雷ではなく、マナの気配が手の中と周囲に漂い始め、俺を拒絶しようとしているかのように瞬いた。
「返してもらうよ。じゃあな!」
今度は逆に急降下する感覚に少し戸惑いながらも下にいる皆に合図。
そうして一気に土台は短くなり、俺達は地上に戻る。
雷雲がいつしか過ぎ去り、俺達と塔だけが残った。
『上手く行ったようだな』
「おかげさまでね。間違いない、俺が持ってたやつだ。
フローラの2つ目であろう、フローライト」
手のひらの中には、紫色の部分と緑の部分が同居した不思議な色合いの宝石が1粒。
この2色の感じが、女の子の2面性を表してるように思えて面白いと思ったんだよな。
「ジルちゃん、頑張ったね」
「役に……立てた?」
その疑問へは、俺だけではなくみんなしてジルちゃんに抱き付くことで答えた。
どんな子だって大切、そう思わせる出来事だった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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