JD-083.「人と人、出会いの街」
ちょっと書き方が変わってます。読みにくい部分が出てたらすいません。
海を抱き、山側に行けば大人しい方だが火山を抱える街、スフォン。
温泉の出る場所としても有名なようで、街のあちこちには温泉を使った施設も点在している。
どこにいても、なんとなく特有のにおいがするというほどだ。
すごく賑わっている温泉街、と呼ぶのがわかりやすいかもしれない。
トスタの街から始まり、スーテッジ国の領土は大体この街あたりまでというから、次に行く場所は別の国の領土となるんじゃないだろうか。
旅人や冒険者も入れ替わりが激しいのか、行き交う人も人種が多種多様な気がする。
自然と売買される物も多く、魔物が人類の生存域を脅かしつつあることをこの場所にいると感じない。
そんな活気ある市場が、今はいつもと違うざわめきに包まれていた。
何にと言えば、俺達が引き連れているシルズの1頭、マリルのせいなんだけど……。
「ご主人様、みんな見てる、ね」
「うん。人は自分と違う物に興味を惹かれるからね」
『歳の割に良く知っているではないか』
念のために俺を先頭にしてみんなに囲んでもらっている。
悪いことを考える奴がいないとも限らないからね。
ただ、そんな考えもある意味無駄だったかもしれない。
どこから聞こえるのかもわからないけど、マリルの声が近くの人に一緒に聞こえたのだから……。
喋った!?などとざわめきが段々と広がり、それは俺達がギルドの建物に入るまで続いたのだ。
気持ちはすごいよくわかるよ、うん。
「ええーっと、トールさん。そちらは?」
今回、海辺に怪しい大きな影を見たという場所の探索がそもそもの始まりであり、その報告も兼ねている。
だから依頼を受けたここに来たわけだけど、色々と耐性のありそうなギルドの人ですら、状況に目を瞬きさせている。
俺は足元のマリルに頷き、カウンターの上にその体を抱えて置く。
こうして触ると妙に触り心地が良いんだよね。全身ふわふわの毛だしさ。
特徴的な、どこかのスナイパーですか?と言いたいほどの眉毛が少しばかり威圧感を与えそうだけど、逆にすぐ下の瞳の可愛さとのマッチング具合が絶妙だと思う。
マリルは模様もあるし、馬鹿な考えを持った奴が毛皮に……なんて考えそうだけど彼らはただ狩られるような存在ではないのだ。
『お初にお目にかかる。海獣が1つシルズの代表、マリルだ。
こちらの人間が見たという影は恐らく我らの事だろう。
これまで隠れ住んでいたが……今後のためにも共存を図りたい。
良ければ話し合いの場を設けてはもらえないだろうか?』
「は、はいい! 少々お待ちくださいね!」
ぱたぱたと飛び出していく受付のお姉さん。
その顔には汗がにじんでいたのは無理もないことだ。
俺だったら疑うところを、まず話を通しに行くというのはすごいことだと思う。
でも、目の前でマリルが喋ったら信じもするか……。
『……手土産の1つでも持ってくるべきだったか?』
「いいんじゃないかな。マリルだけでも衝撃度特大だし」
さすがにこれで交易しましょう、と生魚を運びこむのはどうかと思うしね。
逆に嫌がらせに思われるかもしれない。
ギルドの建物内にいる冒険者や街の人達の視線は全部という訳じゃないけど、確実にこちらに集まっている。
「なんだか落ち着きませんわね」
「トール様、盾を出して隠れちゃだめです?」
そわそわしてる2人の手を握りつつ、立ったままでもしょうがないのでカウンター近くに座った。
テーブルの上にはマリルをででんと鎮座。
なんだかシュールというべきか、似合うというべきか。
『人はあまり変わらぬな。前もこうして生きる気力に満ちた人々が海に山に駆け、日々を生きていた』
「そうなんだ? まあ、人は人、ってことだろうか」
「あ、とーる。誰か来たよ」
フローラに言われ、気配を感じたほうを向けば忙しい様子で走ってくるお姉さんと、ちょっとおじいさんに片足突っ込んだような人。
多分町長かそのあたりじゃないかな?
建物に駆け込んでくると、きょろきょろと中を見渡し……俺達を見た。
「おお……本当に。ばば様に聞いた通りの姿だ。初めまして、この街の責任者です」
『よろしく頼む。こちらの要件はいたって単純だ。
我々もこのあたりに住むことを認めていただきたいことと、交易をしないかということだ』
ざわりと、周辺の冒険者たちの気配が変わった気がした。
それは即ち、正しくマリルの言葉を理解しているということだよね。
要は、ご飯の種が増えそうだぞ、と感じ取ったんだ。
町長らしき人はマリルの前に片膝をつくと、視線を合わせて語りだした。
見下ろす形になってることに気が付いたということは気配りの出来る人ということだと思う。
「話でしか聞いたことは無いですが、我々がこの地に住まう前よりいらっしゃったという海の賢人。
かつての人同士の愚かな戦争に巻き添えとなり、数を減じたと伝えられています。またお付き合いできるというのならぜひ」
『そうか、では前向きに語り合おう。海の色は繰り出さねばわからぬ……か。
トールと言ったな、感謝するぞ。有意義な話し合いが出来そうだ』
俺たちは連れてきただけですよ、とだけ言って話し合いのために移動するということで念のためについていく。
というか、マリルについてくるようにお願いされたからだけどね。
向かう先はすぐそこの大き目の建物。
多分、町長宅なんだろう。
そこでは事前に考えていた通りの内容で話が進んだ。
住む場所、互いの立場への取り扱い、小島が元住処であるがゆえに拠点化するということ。
そして、近くの漁場を使った交易をするというもの。
あるいは海中がお手の物のシルズによる海底探索等が決まった。
俺達はその間、会話を見守るだけであった。
そりゃそうだよね、うん。
スフォンの街にはこうして名物が1つ増えた。
海を警戒に泳ぐ大きな獣のような白い影。
しかし、それは獣ではなく、喋る存在だ。
姿かたちは人間のそれとは違うけれど、スフォンの街は彼らを人として扱っている。
貴石術により意外と素早く歩く彼らの姿に、よそから来た人々は驚き、混乱するがすぐにその中に詰まっている知識と経験に別の意味で驚くことだろう。
人の数倍の寿命を持つ彼らは、物語の収集家でもあったのだ。
海辺で、建物で、あるいは海の上で。
彼らとの語らいは非常に有意義な物となる。
『あの雷雲が来るぞ。4日後だ』
そんな中、マリルから告げられた内容は驚くほどはっきりと断言された未来の出来事だった。
「どうして4日後だと?」
『ばらばらなように見えて規則性があった。それによればちょうど4日後なのだよ』
説明を受けてもいまいちピンとこないけど、雷雲に出会えそうというのなら嬉しいことだ。
あの中には貴石の気配を感じているからね。
「雷は、ジルたちにお任せ……だよ」
つぶやきと共に生み出されるのは傘。
大き目で、すっぽりと大人も隠れる大きさだ。
ジルコニアは絶縁性あったっけか……融点はかなり高かったような。
逆にあれだね、生み出した物に雷を誘導させる感じなら行けるか。
『準備だけはしてくべきであろうな』
もきゅもきゅと魚をかじりながらしゃべるアザラシという謎だらけの空間。
そんな状況に面白さを感じながら、俺達は数日後を迎えることになる。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




