JD-079.「ぬらりんひょん」
私は大みそかになんて話を投稿しているのだろうか?と自問しました。
少なくない犠牲を払い、収まったかと思われた謎の温泉成分による巨大生物誕生の騒動。
だが、奴らは生き延びていた! 地上は奴らの楽園と化したのだ!
……などということもなく、臨時で討伐も出ていた巨大生物らの数も減っているようで、段々と討伐依頼や調査の依頼も減っているのがわかる。
少しきしんで音を立てる椅子に5人で座り、今日はどんな依頼をこなそうかと観察中だ。
こうしてみていると、本当に様々な人がいる。
古傷の多いベテラン風の人や、現在売り出し中と言わんばかりの若者の集団、街中の雑用で稼ごうというのか子供たちの集まり等。
特に依頼を受けるでもないのに座っているのは、子供達への依頼の紹介などをボランティアでやってる人だとこの前知った。
確かに、中には危険のある依頼も紛れ込むので子供たちが不用意に受けるのもどうかということだ。
大体は自己判断によるもので、受けることを拒否されることはない。
それでもわかり切ってる危険に飛び込ませることはするべきではないわけだね。
それを振り切った子供や若者は……まあ、大体予定通りというわけだ。
冒険者ギルドはあくまで仲介、紹介の場所であり何かの互助組織ではないのだ。
危険なのは間違いなく、命が無事でも体に欠損が出るなんてのはよくあること。
上手く生き残れば儲けは大きいが、常に自分の命を掛け金にギャンブルをするようなもの。
それが冒険者であり、人間が生存していくには無くてはならない職業。
だからこそ、今日も誰かが自分の命を賭けの天秤に乗せるのだ。
「とーる、あのおじいさん冒険者なのかなー?」
「ん? ああ、依頼者じゃないのか?」
さすがに杖をついて歩いてくる人がこなせる依頼はないんじゃないだろうか?
思った通り、おじいさんはカウンターに向けて何やら紙を差し出している。
受付のお姉さんはなぜか表情を少しばかりゆがめ、それでもすぐにいつもの表情へと戻して依頼書を張り出しに来た。
「ご主人様、どうしたんだろうね」
「見るだけ見てみるか」
困難な討伐なのか、あるいは……そんな思いを込めて覗き込んでみると、こんな内容だった。
・畑の作物採取手伝い
依頼報酬:作物利用の食事3日分
怪我の危険性無し
「現金の報酬がありませんのね」
「そんなにおいしいです?」
2人の言うように、大なり小なり命の危険がある依頼が多い中、危険性無しと言い切るところもすごいが、報酬として現金が一切ないというのも少し謎だ。
それだけ作物に自信があるのかな? だとしたら普通に人が集まりそうだけど……。
結局、気になったので受けることにした。
その際の受付の人らの俺を見る目が気になったが、深く聞くことはできなかった。
向かった先は源泉とは違う方面の森側にある村。
緑に囲まれ、村への街道が唯一の道だ。
ほのかに硫黄の匂いのする川が流れる、のどかな場所だ。
(硫黄の匂い? まさかな……)
ちらりと頭をよぎる様々な巨大シルエットを振り払い、依頼主であるおじいさんを背中から降ろす。
「悪いのう、若いの」
「全然大したことないよ。それより、さっそくやったほうがいいの?」
そう、依頼書を持ちこんだおじいさんは休憩してから帰る予定だったらしく、俺達が依頼を受けて外に出た時には、まだそばの食事処みたいな場所でお茶を飲んでいるところだったのだ。
となれば行き来する馬車も無いということで、行きと同じく、おじいさんと一緒に村に行こうということに決めたのだ。
当然、背負うのは俺だけど軽いからね、何の問題もない。
「そうじゃの。一声かけて後は採れるだけ採ってくれい。それにしても、若いのにいいのかのう?」
「大丈夫だって、若くたってやることはやるよ」
やっぱりみんなが小さいから気にしてるのかな?
振り向いて確認すると、4人ともしっかり頷いてくれるし、やる気は十分だ。
仮に命の危険がある討伐だったとしても頑張れると思う。
案内を受け、向かった畑には既に人影。見る限り、村の女性陣のようだ。
男性がいないのは危険性がないからかな?
「何か動いてる。きのこ?」
「うわっ、おおきいねー!」
果たして、そこにいたのは500mlなペットボトルほどの……ナメコ。
わかってはいた、わかってはいたんだ。
おじいさんから名前を聞いたら、ナメッコっていうから……。
でも、今までと比べるとそのまんまだし、もしかして違うのかな?って思ったんだよね。
残念ながら、大きさと動いてるのを除けばナメコそのものだ。
「ひとまず採取を始めよう。みんな、ぬめりけに気を付けるんだよ」
このテカリ、明らかにぬめぬめしている。となればこういう時のお約束は決まっている。
さすがにみんなに参加させないというのはどうかと思うけど、
そんなに4人のぬめっとなった姿が見たいのかと言われると……すいません、かなり見たいです。
面と向かっては言えないけど、なんとなく察していそうではある。
捕獲用の袋と返しのある串のような物を受け取って、俺達は畑へと繰り出す。
どんな速さや厄介さがあるかと思いきや、ナメッコは遅く、無抵抗に近かった。
ぶすぶすと挿しては多少痛んでも良いということで刺さった部分が崩れるのも構わずに袋に押し出して採取完了。
「これなら誰でもできそうなのです」
「そうですわね。少し手がぬめりますけど、余裕ですわね」
みんなもどんどんと採取を続けていっている。なんでこれで受付の人は顔をしかめたんだろうか。
そうして俺が何個目かのナメッコを突き刺した時の事である。
『オスッ!』
「……は?」
気のせいじゃなければ、コイツ……オスって言ったか?
何かの鳴き声かと思った時、その異常さに気が付いた。
出ているだけで何もしてこないと思った舌のようなヒラヒラ部分。
それがいつの間にか、よだれのように何かぬめる液体をたたえている。
まさかこうなると襲ってくるのか?
まずい、ジルちゃんたちを逃がさないと。
ああ、それより一緒に採取している村の女性を……?
なんで、村の人は俺を気の毒そうな顔で見る……?
その答えは、数秒後にやって来た。
『『『オスぅうううううう!』』』
にょきにょきと生えてきたナメッコが、俺だけに襲い掛かってきたのだ。
そのだらだらと流れるぬめる液をたたえたまま。
そう、ナメッコは男を襲う謎のきのこだったのだ。
ただし、被害という被害はない。ただひたすら、全身を舐められるだけ。
屈強な男だとしても、全身をくまなくぬるぬると舐められてはくすぐったさの1つでも覚えるという物。
慌てたジルちゃんたちがナメッコたちを採取完了することには、俺は下着までぐっしょりと、ナメッコになめ尽くされていたのだった。
……うう、なんということだ。
「なんだかまだぬめってる気がする」
あのまま依頼自体は成功となり、俺は失意のまま村で温泉に入っていた。
食事はひとまず後にしてもらい、少し早いが温泉タイム。
客人用の専用の場所らしく、一人になれる空間というわけだ。
といっても、先ほどからかけ湯や体を洗うようにお湯を被るだけで浴槽となる岩場には浸かっていない。
なんとなく、残ってる気がするのだ。
「まさかなあ……もう」
落ち込んでばかりなのもよくはないとは思うのだが、こればっかりは味わってみないとわからない感覚だと思う。
「ご主人様、ぬるぬる?」
「たぶんもういいと思うんだけど……?」
気が付けば、4人ともが後ろに佇んでいた。一応タオルは巻いてくれている。
建物の中なので誰かに見られるということはなさそうだけど……。
「落ちこんでるとーるにー! 良い事をしにきたよ!」
「トール様のためなのです」
何やら元気いっぱいの2人に戸惑い、答えをラピスに求めてそちらを見ると、何故だか頷かれた。
「マスターが心配していたこと、わかりますわ。
ナメッコが私達を襲うようなことがあれば、許せない。
そんなことは俺以外してはいけない、そういうことですわよね?」
「違うとは言えないけど、違うよ!?」
思わず叫ぶと、いつの間にかがしっと腕を掴まれていた……え?
「だから、みんなで舐める。そうしたらご主人様元気になるよね?」
「ぺろぺろしちゃうぞー」
「それ絶対何かちg、うひ!」
ぺろんと、小さな舌が背中を襲う。
その感覚に思わず力が抜けてしまった隙を突かれ、瞬く間に俺は4人に拘束されてしまう。
ノータッチとは言うけど、タッチされたほうならセーフだよな? な?
誰にでもなくそんなことを呟いた俺。
小柄な体格に見合った小さな舌や手。そんな何とも言えない刺激の元が俺の体中を這ってくる。
振り払う訳にもいかず、そのまま俺はあきらめの気持ちと異常なシチュエーションへのどきどきを抱えて身を任せてしまう。
そして、ぺろぺろと命の危険はないけれど、色々と舐めて削り取られた気のする日となったのだった。
え、トールのなめこが松茸になったのかって? 内緒です。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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