JD-078.「ビッグマウス、現る」
変なことを口にするべきではない。何故なら、言葉には力があるのだから。
それが例え、誰も聞いていないようなつぶやきだったとしても、だ。
どこかで聞いたようなそんな言葉を、俺は思い出していた。
たった1人、街の地下で、奴らと相対しながら……。
「病気は大丈夫と思っていても、こえええ!」
どこかに反響する俺自身の声を合図に、目の前にいる数匹の巨体が牙をむく。
短い四本の足、汚れていなければそこそこすべすべしていそうな毛皮、細い鞭のように長い尻尾、そして突き出た牙。
そう、いわゆるドブネズミである。ただし、大きさが柴犬ぐらいあるけどな!
俺とドブネズミだけがいる空間を照らすのは、街で買った灯り用の魔道具。
床に置いても光り続ける分、両手が空いているのが救いだ。
(ほんと、こっそり来るんじゃなかったかなあ)
1人でこんな場所に来た理由、それは些細な事だった。
「え、みんなだけで依頼を受けたい?」
「はいなのです!」
元気よく答えるニーナには普段以上にやる気があふれているように見える。
ちらりと見ると他3人も一緒だ。となると4人の総意ということになる。
「一応理由はあるんですのよ? いつもマスターと一緒なので、報告などもマスターがいないと認めてくれないのです。
そこで、私達もちゃんとやれますよとギルドに示しておきたいのですわ」
「受けたのはご主人様だから、ご主人様がいないとお金が渡せないっていわれたの」
なるほど、そういうことか。
普通の冒険者のパーティーであれば、大体誰もが相応の年齢だ。
あるいは弟子という関係かもしれないが、それでも俺とジルちゃんたちほどの関係はまず無いだろう。
ギルドの人らが、責任者として俺の同行を要求するのもわからないではない。
「街の中か、すぐそこの依頼だからいいでしょー、とーるー」
「わかったよ。俺はゆっくりしてるから行っておいで」
実績を積みたい、そのことを俺が否定することはできない。
あくまでも同列のメンバーだと知ってもらおうということになるのかな。
頑張ろうというのなら、それを応援するのみだ。
それに、ちょうどいいよね。自分も1人で動けるということだ。幸いにもこの街も大きい、ギルドの窓口だって何か所かあるのだ。
俺だけのお金という物も稼いでおきたかったんだ。
みんなに何かこっそりと買うにも共有財産からだとね、ちょっとね……。
そんんわけで、みんなを見送った後にこっそりと俺は別方向のギルドの窓口へ。
そこで受けたのは短時間で終わりそうな物。そりゃあね、長い時間使うことは出来ないし、護衛とかは無理。
そうなると近場のみんなが受けていなさそうな物になる。それでいて目立たない場所の物。
そう、下水の見回りさ。入ってすぐは何もなかった、当然だけれども。
そうしてしばらく進むうち、奴らが出てきたってわけだ。
声が聞いたことのあるやつだからってその意味では油断してたね。
状況的にこうなってるのはありえたのにさ。
「そんなに早くないのが救いか!」
叫び、聖剣を無造作に横なぎ。
作戦も何もなく、本能的に飛びかかってくるネズミはそれで十分だった。
2匹まとめて両断され、薄暗い空間に嫌な液体が飛び散る。獣扱いなのか、石英はかなり小さいようだ。
試しに1匹ほじくり返したけど豆ぐらいの大きさだ。
放っておくのも、かといって下水に投げ込むのもどうかと思ったので火の貴石術を使ってあらかた焼き、水で流した。
これで他の奴らに食べられるということも少ないだろうけど……。
(後どのぐらいいるんだ?)
依頼主からは、決まった時間いてくれればいいとは言われているが、異常があるのにこのまま時間を過ごして待機するという選択は取るべきではない。
心なしかネズミの血は嫌そうな輝きの聖剣を構えつつ進む。
腰には魔法の灯りの筒。いちいち手に持っているのも危なそうだったからだ。
温泉混じりの、何とも言えない匂いが鼻を突く。
雨が無くても、温泉や一部の川の水がここを通るらしいから、よどんでいるとはいえないけど……うーむ。
ため息の1つでも出ようという物だ。感じる気配は複数、弱いものだけどその数は多い。
つまりは、奴らがまだまだいる。
(一度脱出するか?)
常識的な考えが頭をよぎる。ただ、報酬額を考えると増員は見込めなさそうである。
それに、集まるのを待っていたらみんなが帰ってきてしまう。
「やりますかね」
足を滑らせないように気を付けつつ、少しでもドブネズミを倒すべく駆け出した。
自分としてはジョギング程度の速度だけど、女神様によるチートな肉体であればそれは普通に走っているのと同じぐらい。
多少の大きさは違ってもみんな同じ格好のドブネズミは、これまた同じように走り迫ってくるか、途中で飛んでくる。
随分と好戦的な物である。
何の本だったか、生き物は小さい物から大きくなるほど相手に襲い掛かるという点では活動的になり、一定の大きさを超えるとまた大人しくなるという。
目立つほど襲われやすいのでやられる前にやる、なんて話だったが眉唾だったな。
よく考えれば、一人での戦いというのは初めてなのではないだろうか。
「最初からジルちゃんが一緒だったもんな」
いつもそばにいて、俺を支援してくれる彼女たち。
今もそう、斬りかかる時の援護や増援へのけん制もごく当たり前にやってもらってるけど、それは非常に尊いものだ。
そのことを知ることができただけでも、この依頼を受けてよかったなと思えた。
事前に聞いていた予定の半分を通過した時には、ドブネズミの数は20を超えていた。
これが地上に出ていったらと思うとかなりの恐怖だ。
今のところ、前のままの習性か、外には出ていないようだけどこの先はわからない。
もっとも、その心配は杞憂かもしれない。
段々と、出会うネズミの大きさが小さくなっているからだ。
よくよく考えれば、例の源泉に異常が出たのは恐らくここ最近、そんなに前ではない。
つまりは、巨大化した相手は限られるということだ。
遺伝子のようなものに異常が無ければ、子供に引き継がれることも少ないだろう。
むしろ、そうであってほしいという願いの方が強い考えだけど、多分あってる……あっててほしいなあ。
そうして最後に向かう、行き止まりの場所。
この上には大雨の時に水を誘導する溝があるらしい。
積み重なったガラクタやごみの山。ゲームだとこういう場所に掘り出し物がたまったりするよね。
それを探して人が降りてくるんだ。そう、ああいう感じに……え?
「あれ、ご主人様?」
「えー? あ、ほんとだ。とーるー!」
光に影が差し、降りてきたのはジルちゃん達であった。
そのまま話を聞くと、落とし物を探してるということでここに落ちたのでは、と探しに来たらしい。
幸い、俺も参加して探すと、見事にガラクタの中からその指輪が出てきた。
ちょっと温泉くさいが洗って磨けば大丈夫だろう。
「やったのです! でもどうしてトール様がいたのです?」
「えーっと、それは……」
言いにくいよね、みんなへのお礼とかを買うのに自分だけのお金が欲しい、なんてさ。
「ほらほら、それより依頼の報告ですわ、マスター、また後で」
「あ、ああ……」
やや強引なラピスの誘導によりみんなの追及は終わり、ジルちゃんたちは駆け出していく。
「ラピス?」
「ふふっ、マスター。ありがとうございます。でも……みんな、マスターが褒めたり愛してくれるだけで満足なんですよ?」
そういってウィンク1つ、彼女は走り出して皆を追いかけた。
どうやらお見通しだったようである。頬をかりかりとかきながら、俺も自分自身の依頼の報告に向かうのだった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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