JD-077.「巨大ゴーレムの謎」
ゴーレムと言えば皆はどんな姿を想像するだろうか。
樽に手足が生えたような感じ?
武骨でブロックを組み合わせたような感じ?
あるいは、適当に岩がくっついた感じだろうか。
目の前のゴーレムは、そのどれとも違った。
見た目は温泉に入りに来た巨漢、そう表現するしかない姿だ。
例え、筋肉盛り過ぎだろと言わんばかりの姿だったとしても。
そして、気になった点がまだある。
「なんであんなにラインがきれいなんだよ……」
ひとまずは源泉から追い出すべく他の冒険者と同じく遠距離からの貴石術による攻撃を仕掛けている。
だから俺のつぶやきは誰も気にしていない。
胸に赤いコアを持つゴーレムは、マッチョな感じではあったが、ただ持ったという感じではなく無駄にシャープでスタイリッシュだった。
説明が雑で申し訳ないが、そうとしか言えないのだ。
重量級のロボを温泉に漬けるとこんな感じだろうか?
全身、どこかで見たようなラインをしているが、どう考えても自然にできたとは思えない。
俺と同じように別世界の記憶のある存在がいるのかと思わせる造形だ。
もしそうだとしたら、誰か意図をもってここにゴーレムを設置したことになるが、だとしたら放置しておく理由がわからない。
巨大生物の楽園を作る、という可能性もあるだろうけどそれにしては雑だ。
女神様の邪魔をする勢力ということが濃厚だけど、全く自然にできたという可能性もゼロではない。何もわからないって言ってしまえばそれまでなのだ。
そうしている間にもあちこちが砕かれ、ゴーレムは無残な姿をさらしていくが瞬きの間にどんどんと再生していく。
コアが脈動するたびに目に見えて再生していくのがわかる。
「ちくしょうが!」
誰かの叫びが響く中、ゴーレムがついに反撃の動きを見せる。
口に当たる部分がぱかっと開いたかと思うと、そこにマナの集中を感じた。
これは間違いない……大技の気配だ。
「横に回り込め!」
「わっわっ!」
たまたまそばにいたジルちゃんを抱え、横っ飛び。
幸いにも狙いは俺達ではなかったけど、正面に湯気を立てるお湯、多分温泉が元だと思う……が勢いよく噴出された。
地面がえぐれてるから、直撃してしまえばとんでもないことになるだろう。
「ラピス、とにかく冷やしてみてくれ!」
「了解……ですわ!」
今もなお湧いてくる源泉を前に、どこまで意味があるかはわからないけど普通に攻撃したのでは無意味そうだ。
熱エネルギーを電気に変える仕組みとか確かあったはずで、同じ様な仕組みでも使っていないかと思ったのだ。
冒険者の中にも氷系の貴石術を使える人がいたようで、ラピスに合わせるように周囲の気温が下がっていき……源泉部分に霜が降りた。
お湯の出ている部分は凍らず、湯気を立てている。見た目は真冬の露天風呂、といったところだな。
完全に凍ることはないであろう状況だが、上半身は出たままのゴーレムにとってはそれで十分だったらしい。
明らかに外に出ている部分の動きがおかしいのだ。
「よし、再生速度が鈍ってるぞ!」
「たたみこめええ!」
これをチャンスと見た数名が接近し、武器をそれぞれ振るう。
豪快な音を立て、ゴーレムが最初よりも激しく破損していく。
周囲にはゴーレムの体だったものが飛び散るほどだ。
「トール様、来ます!」
「……うわー……おおきいねえ」
浴槽から立ち上がるかのようにしぶきを上げ、ゴーレムがその体を起こし始めた。
そしてほのかに全身が光っている。本気を出した、ということか?
「ちっ、弾きやがるな。それでもいい、攻撃をし続けろ!」
誰かの叫び通り、ゴーレムのコアが明滅したかと思うと迫っていた弓や貴石術が当たっても先ほどの様には崩れない。何か障壁が展開されているようだ。
足音を立て、ゴーレムが源泉の脇を歩いて俺達に迫る。
源泉から出すという目的は達成したけれど、某巨大兵器群ほどの高さで見上げてしまう。
「大きい相手だろうと、トール様はお守りいたしますです!」
いわゆるタワーシールドと呼べる類の岩盾を生み出して、ニーナが丸太のようなゴーレムの腕による攻撃を見事に受け止める。
ずずっと地面に足が半ば埋まるのも当然の衝撃だ。
その間にも冒険者や俺達の攻撃は体に及んでいるのだが、思ったようには効果が得られていない。
腰から胸ぐらいにあるコアが笑うように明滅した気がした。
こうなれば……。
「フローラ、俺を抱えてコアへ! みんな、頼んだよ」
「りょーかい!」
「ご主人様の邪魔はさせない」
冒険者の狙いが足に集中され、動きの鈍ったゴーレムを見て俺は間合いを取りながらフローラへと依頼をする。目的は……コアそのもの。
ひしっと女の子が腰に抱き付いてくるという、シチュエーションだけなら味わいたいところだけど今は物騒なシチュエーションだ。
何でかっていえば、これから突っ込むわけだから。
「全力で飛ぶよ!」
「やってくれ!」
ぐっと全身でGを感じる勢いで一気に空へと舞い上がる。
ゴーレムもその狙いに気が付いたのか、迎撃しようとしてか腕が片方こちらに向くが、そううまくはいかない。
ジルちゃんたちの攻撃によりわずかにだけど腕が逸れる。
それで、十分だ。
聖剣の切れ味は当然最大。そして目論見通りに斜め上から聖剣がつきささ……ったけど止まった!?
先っちょだけが突き刺さるという謎の状況。だけどまだゴーレム的には致命傷ではないはずだ。
咄嗟に自分自身で足元に風を産み、フローラ毎離脱。
「もう一回!」
「おっけー!」
ゴーレム自身はコアに刺さった剣を抜こうとしているようだけど、笑えることに、ゴーレムの腕はコアの先端に届かない長さだった。
その間に俺達は再び空へ。皆の攻撃がゴーレムに突き刺さり、動きを止めている。
(蹴っても折れないよな? たぶん)
一抹の不安を胸に、再び上空から急降下。狙いは聖剣の柄、蹴り込むのだ。
向きが変わりそうになり、ヒヤッとした物の足裏には強い手ごたえ。
大きな音を立て、聖剣は柄までしっかり潜り込み……コアは砕け散った。
「ばっかだなー、兄ちゃん」
「そうそう、普通は足をもいでからやるもんだぞ?」
口々にそんなことを言われるのはスフォンのとある酒場。
既にお酒の入った先輩冒険者の面々に俺は背中を叩かれたり、その手を握られたりと忙しく絡まれている。
あの後、なんとかゴーレムを倒した俺は冒険者らと一緒に源泉の再確認、そして素材の回収に勤しんだ。
コアは砕けていても十分お金になるし、途中のあれこれも予想以上の稼ぎとなった。
そう、頭割りしても遊んで飲めるほどには。
そこで俺はゴーレムへの突撃を褒められつつも、弄られてるわけだ。
「せめて斧か槌を使わないと……長剣じゃ間違えれば折れてただろう」
「全くその通りで……ははっ」
それは俺も懸念していたので本当に反省するばかりだ。女神様からもらった聖剣は折れないと言われてると言っても角度によっては抜けてたのだろうから。
ジルちゃんたちはすぐそばで女性冒険者達に囲まれている。
あの人との関係は?とか、恋しちゃってるの?とか聞かれてるのが聞こえてくると落ち着かない。
時々、その冒険者達から「へー……」みたいな視線が来るのもちょっと怖い。
「ただまあ、思い切りは大事だ。無謀と思い切りの違いがもっと早くなると強くなれるさ。俺が言うのもなんだけどな」
「頑張りますよ、俺一人じゃないんで」
ちらりとジルちゃんたちを見てそういうと、男達の何かに触れたらしく、笑いながらまた背中を叩かれた。痛いんだけど、悪い気分ではなかった。
「それにしても、しばらくは巨大化した奴らの討伐が続くな」
「ですね。俺達もやれるだけはやりますよ」
そう、源泉のゴーレムは破壊したけれど、それでいきなり生き物が縮むわけではない。
ギルドにも証拠を提出したし、しばらくは巨大生物ブームなんだろうな。
一瞬、頭にはB級映画のような巨大生物パニック物が浮かんだけど、そうならないことを祈るばかりであった。
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