JD-076.「異世界イン異世界」
スフォンの街での依頼、今回は湯量の少なくなってきた温泉の引き込み経路の見回りという物だった。
そこで俺達が見つけたのは、異常に生い茂る草。それらにより穴だらけになった温泉を通す管であった。
温泉に何かが溶けだしているのではないかと考え、ギルドに報告、源泉の確認の許可を貰おうと考えたわけだが……。
結果として、思ったより大きな話となった。
1組のパーティーに任せるには探索場所が広く、全体に関わることということで呼びかけが行われた。集まった冒険者の数は結構な物。
危険はあるだろうけど、人数がいれば大体のことはなんとかなるであろうという良くある話だ。
それが仇とならないように気を付けないとね。
「火傷するぐらい熱くて、池のように深い……厄介ですわね」
「何かが底の方にあるとしたらそうだね」
ギルドで教えてもらった源泉の場所へと、他の冒険者と共に進む。
ラピスの言うように、源泉自体は手を突っ込む、中に入る、ということが難しいということだ。
「なあに、なんとかなるさ」
「そーなのー?」
近くを行く冒険者の1人が陽気に話しかけてくる。
比較的軽装に見えるけど、その分速さを売りにしているように感じた。
武器も長物じゃなく、ショートソードの類の様だしね。
「俺のじいさんが聞いたことがあるんだと。まあ、じいさんのじいさんの話だから怪しい部分もあるけどよ。そんときも適当に底をつついたら終わったって話だぜ」
そううまくいくといいのだが、何も情報がないよりはましだ。
それが本当かどうかは置いておいて、やろうとすることは同じだもんな。
源泉があるという山に近づくほど、特有のにおいが強くなってきた。
山から吹く風が運んでくる匂いだ。
今のところ、毒ガスだ!なんてことにはなってないけれども、そのあたりも警戒すべきだろうか?
ちらりと聖剣の柄を見ると、運よく最後に入れたのはラピスだったらしい。青い石がほのかに光っているのが分かった。
「うう、鼻が馬鹿になりそう。とーるは平気?」
「なんとかね。火山もあるんじゃ仕方がないよ」
ここ100年ほどは噴火したことはなく、その時にもぼこっと溶岩が少し出てきた程度だったらしい。
火山活動が大人しめの場所なのか、他に理由があるのか。この世界の火山の仕組みが俺の知ってる物と同じ保証はどこにもない。
警戒だけはしっかりしておかないとな。と、何かの気配が感じられた。
前の方、とだけはわかるがいったい何の気配なのか。
「何か来る! みんな気を付け……は?」
「なんだありゃあ!」
べきべきと音を立て、木々をなぎ倒す存在が俺達の視界に現れる。
突き出た2本の牙、地面を踏みしめる四本の足、手がそのまま突っ込めそうな1対の穴の鼻。
全身を剛毛というべきもので覆われた獣……猪だ。
ただし、そのサイズは森の主だろと言わんばかりの巨体。普通に俺が背中に乗っても余裕なほどで、小さいバスぐらいはある。
俺達の事を気にしていないのか、鼻息を荒くしながらも何かを掘っている。
「ねえねえ、ご主人様。あれ、牡丹鍋何人分ぐらい?」
ごくりと、その姿に誰もが息をのんだとき、ジルちゃんののんきな声が妙に響いた。
硬くなっていた体が、その言葉のおかげで力が抜けた気がした。この場合は、いい意味で、ね。
「ちげえねえ。食いごたえがありまくりだな。よっしゃ、いくぜ!」
「ここで仕留めとかないと後が怖いからな!」
冒険者は危険を潜り抜けてナンボの職業。それはこの場にいる男達も同様だった。
各々の得物を取り出し、先手必勝ということで巨大猪へと襲い掛かる。
その毛皮には攻撃の効果は薄いであろうことが誰にでも予想でき、結果として薄そうな部分や顔、足の付け根などに攻撃が集中した。
都合10人以上の攻撃を一斉に受け、生き残ることへの自信が故か、こちらを気にしていなかった猪はあっさりとその命を散らす。
「グズグズしてると自重で体が潰れちまうぜ。誰か水! とっとと洗いながら処理すっぞ!」
「僭越ながら私が……それ!」
何人かの冒険者は収納袋を持っているとのことで、必要そうな部位をどんどん切り分けていくことにした。
特に毛皮は相当な取引となるに違いなかった。と、そこまでは俺はあまりこの状況を深刻に考えていなかった。
何かあるとしても、これはただの偶然。まれにある特別に成長した個体なのだろうと。
ところがである。
「なんだあれ……キノコか?」
「だと思うけど、あんなキノコ見たことないわ」
ちょろちょろと森の中を流れるその小川の脇に、大きなペットボトルサイズのキノコが無数に生えていた。
俺は見たことがないが、そのうち冒険者の1人がキノコの前に立ち、ナイフで少し傷つけた後に匂いを嗅いだ。
「間違いない。アルミッタだぜ」
「馬鹿な! アルミッタっていやあ、こんな指ぐらいのだろう!?」
途端、冒険者の中に動揺が広がる。俺は食べたことがないが、元の大きさを考えると高級食材なのではないだろうか?
「おい、お前らが例の泥スライムを採取した奴らだったよな?」
「え、ええ」
皆と一緒に驚きに動きを止めていると、逆毛のいかつい顔をした冒険者に話しかけられた。
彼は俺の答えを聞くと、ガシガシと頭をかきながら顔をこちらに向ける。
「確認したい。スライムの強酸は核を潰して仕留めたら弱まった、これでいいな?」
「そうですね。だから回収できたんですよ」
そう、もしもあの強酸具合が体液そのものの状態だったら、どんな入れ物でも持って帰ることができなかっただろう。
(……ああ!)
「何かが原因で、この山の生き物がおかしいことになっている……」
「だろうな。おい、バラバラに動くな、死ぬぞ」
驚愕の事実と想像に、みんなの動きに緊張が満ちる。
ゆっくり進むとそれだけ周りの諸々を集めそうだと判断し、最短距離を駆け抜けることにした。
まるで不思議の世界に迷い込んだようだ。俺達はあの少女のような立場に追い込まれていた。
途中、いつもの数倍になっている動物や魔物、そして昆虫という恐ろしい敵をなんとか退け、一人も脱落なく……広い場所に出た。
「あっちだ、あっちに源泉が……あれ?」
「おいおい、まさか……ゴーレムか!?」
源泉の大きさは大体、田舎にある家の庭ぐらいだろうか。
バーベキューが出来そうなぐらい、と言えばわかるかな。
背後には岩山、その隙間からぼこぼこと音を立てて出てくるお湯。
それが本来の姿であったろう。
しかし、今はそこにはまるで彫像のように何かが鎮座していた。腰の半ばまでが源泉の泉に浸かっている。
丁度水面に半分ほど顔を出しているのは、赤黒く明滅する半透明の物。
恐らくはこのゴーレムのコア。ただし、それは人の頭より大きい。
そのコアが点滅するたびに、俺の目にも源泉に何かが溶けていくような感じがした。
「よくわからねえが、コイツが原因で間違いなさそうだな」
「そのままくたばっちまいな! おらあ!」
一人の冒険者の叫びと共に、その手には貴石術であろう光。
飛び出した光の槍はゴーレムの肌をあっさりと砕き、周囲に破片をまき散らした。
冒険者の間に歓声が広がり、そしてどよめきが広がった。
見る間に、ゴーレムが再生しだしたからだ。
「引きづりだすぞ!」
誰かの叫びを合図に、戦いが始まった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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