JD-073.「天然少女かけ流し」
「いらっしゃいませ。男性1名と……女の子4名ですか?」
「そうなんだけど……何かまずい?」
問い返しつつも、俺は何かあるんだろうなあということはわかっていた。
俺と誰か1人とかならともかく、ジルちゃんたちは4人だもんな。
物凄く好意的に解釈したとして、女の子4人をエスコートしている知り合いのお兄さん、と言ったところだろうか?
そして、普通に考えたら4人を俺がだましたりして連れて歩いていると思うよね……。
「いえ、お部屋を増やしますか? 一応、6人部屋があるのでそちらでいいですか?」
「1部屋で済むならそれで、3日分ぐらい先払いにしておくよ」
さすがに大部屋だけあって、金額は結構な額が提示された。また依頼を受けてしっかり稼がないといけない。
お金を支払い、宿泊証明にでもなりそうな木札を渡された際、カウンターの女の子、そう……受付は女の子だったのだけど、にじっと見られた。
「何……か?」
「お客様の自由ですけど、ここはそーゆー宿ではないので、色々と節度を保ってご利用いただけると助かります」
側に歓楽街があるからたまに乱暴に使う人がいるんですよーと苦笑する女の子に、俺も苦笑で返すしかなかった。
騒ぐようなことはしない予定だけどそれ以外は……正直ちょっとわからない。
「そういえば、部屋に温泉があるって聞いたんだけど」
「あ、はい。この1階の部屋は全部温泉を引いてきてますよ。
それが売りというか、お父さんがそれがやりたいがために建てたというか……」
説明によると、この宿は3階建て、1階に6部屋、2階3階には8部屋ということらしい。
そのうち、1階の部屋には石造りの風呂場が付いており、そこに温泉が1日中流しっぱなしなんだとか。
2階3階も必要であれば木桶で運んでくれるというなかなかのサービス具合だ。
ちなみにジルちゃんたちはこの間も、受付スペースの横を流れる温泉に興味津々だ。
ここまで来ると温くなっているのか、湯気もほとんど出ていないけどね。
鍵を受け取ってみんなと一緒に部屋へと向かう。
温泉かけ流しということで湿気が心配だったのだが、部屋に入ってすぐにそのことに気が付いた。
意外と、乾いているのだ。
「とーる、ボクここね!」
「襲撃に備えて外側か扉側か……悩むのです」
さっそくベッドを占拠しにかかるフローラとニーナ。
ジルちゃんとラピスはきょろきょろと部屋を見渡している。
俺も、この乾いている理由を探して部屋を見渡す。
部屋の奥、扉1つ向こうはお風呂らしいけど、それだけでこの乾き具合が説明できるのだろうか?
(どういうことだ? ……ん?)
よく見ると、部屋の隅に何かの箱があるのがわかる。
下に何かを……これ石英を使う道具かな?
ボタンがあるんだが押しても特に音はない。
「ラピス、これなんだかわかる?」
「はい? えーっと……あ、少し水が持ってかれる感じがありますわ。マスターの知識でいう乾燥機みたいなものでは?」
「こっちにお風呂の後に押してくださいって書いてあるよ」
どうやら乾燥機ということで間違いないようだ。
結構高そうだけど、無造作に置いてあるということはそうでもないのかな?
あるいは、受付の子がいっていた様子から言うと、父親のこだわりで置いているのだろうか?
このおかげで、湿気が部屋に充満するということもなさそうだ。
「今日はゆっくりしましょうか。マスター、お先にどうぞ」
「いいの? じゃあそうしようかな」
女の子には女の子なりの時間の使い方があるのか、見れば4人とも頷いてくれた。
実は早く温泉に入りたくてうずうずしてたんだよね、ありがたい。
いそいそと扉をくぐると脱衣場があり、さらにその奥には湯気を立てる浴槽と、洗い場。
和風ではないのが残念だけど、この光景にはどこか懐かしさを感じる。浴槽も木だったらいいのにとは思うけど、贅沢は言えない。
桶が金属を使っていない木桶というだけでも十分じゃないだろうか?
「ふいー……」
お湯の中に色々と溶けだしていくような感覚に天井を見上げる。
あ、ちゃんとかけ湯もしたからな。
洗ってから入るか、入ってから洗うかは難しい問題だけれども。
音や声が反響するあたり、造りはしっかりしている。
こんな温泉に入れるなんて、思っても見なかった。
しばらく温まろうと脱力し、声にならない声を上げながら上を向いていると……人影。
視界ギリギリなので誰かはまだわからないが、ぼんやりと照らされた姿はなだらかですべすべで、触り心地がよさそうな白い……ってええ!?
「ジルちゃん!?」
「お背中、ながします……よ?」
固まっている間に、ピタピタと音を立て、俺の目の前まで歩いてきたジルちゃん。
その手には洗うためであろうタオルのような物を持っているけど、それ以外には何も持っていない。
つまり……その、俺の前には隠れてないあれこれが広がっていた。
慌てて体を起こし、そのまま振り返るが、やはり目の錯覚ではなかったようで前を隠していないジルちゃんがいた。
いつの間にかラピスたちも同様に入ってきていたのだった。
「みんな、前ぐらい隠して、ね?」
「こうですの?」
わかっているのかいないのか、ラピスはタオルではなく、両手で上下を隠して見せてきた。
逆にそういう隠し方をされると色々とその……厳しい。
「違うって、タオルでさあ」
「とーる、でも湯船に入れちゃいけないんだよね?」
「わかったのです! 上だけ隠して下は温泉に入ればいいのです!」
いや……入る時に取ってくれればいいからね、うん。
温泉の温かさのためか、それともみんながほとんど裸ということにどうしようもない感情を抱いているのかははっきりさせたくないけど、どうも顔が熱いような気がする。
「とりあえず、みんなは入っててよ。ジルちゃんにお願いしようかな」
「わーい、座って座って」
大人しくかけ湯の後に浴槽に入っていく3人を見送りつつ、洗い場に座ってジルちゃんに背中を向ける。
「ご主人様の背中、おっきいね」
「そうかな?」
背中にかかるジルちゃんの声がくすぐったく感じた。随分と、近い。
そういえば石鹸あったかな?と思い、近くを見渡してみるがそれらしいものはない。
「よいしょ、よいしょ」
そのためか、ジルちゃんは木桶に温泉を汲み、そのままで俺の背中をこすり始める。
しばらくすると、温泉の成分のせいなのか石鹸もないのに若干ぬるっとした感じを受ける。
言われるままに手をあげてあちこちをこすられていくとなんだか変な気分になる物である。
一人で洗うのが当たり前だったしね。
「ふー……後ろおわった」
「ありがとう、ジルちゃん」
この辺で終わりかなと思い、立ち上がろうとすると腕を掴まれた。え?と見てみると、椅子をポンポンと叩くジルちゃん。
「前、まだ」
「前はいいよ」
前にもあったようなやり取り。
実際、ジルちゃんと向かい合いながらやられては色々と抑えておく自身が無い。
タオルを巻いてくれてはいるけど、貼りついたその姿が逆に扇情的だ。
ほのかに上気した顔も妙に可愛い。押し切られそうになる自分を感じた。
「やっぱりジルちゃんだけはずるいのです!」
浴室に響くニーナの声。一瞬、助かったかと思いきや内容がおかしかった。
だけ、ずるい?
「そうですわね。みんなで一緒ですわ」
「ふふーん、ボクもあらってあげるよー」
そうして俺は、4人の半裸の少女(というか幼女か?)に全身洗われるというか拭かれるという我慢大会にもほどがある状況に追い込まれるのだった。
暴発はしなかったけど、それ以外は……隠しきれなかったとだけ。
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