JD-067.「進化した聖剣(笑)と新たなる波乱」
見た目は深く考えたら負けです(何のだ
「マスター、いましたわ!」
「よし、せいっ!」
ラピスが見つけてくれた相手、海辺の林の中にいる鳥らしい物に向かって離れた場所から聖剣を一閃。別に素振りという訳じゃない。
「おー」
「あれを防ぐには結構な防御力がいるのです」
「ボクもやりたいなあ……」
ジルちゃんたちの感想を背中に聞きつつ、俺は手ごたえを感じていた。
手の中の聖剣が産んだ、魔刃と呼べそうな不可視の刃の力に。
シーゴースト討伐の宴ですっかり忘れていたけど、今回女神様から色々情報を受け取ったんだよね。
1つがこの、遠距離攻撃の増加。弱くマナを込めればちょっと草を刈るぐらいのが。
しっかり込めるとそれなりの物が。そんな便利な刃。
もう1つは、具体的な場所はともかく残った宝石娘のいそうな場所。まあ、予想通り火山かそういった場所、っていうことなんだけども。
この世界で俺達が今行けそうな範囲の火山地帯の情報が頭に入ってきているので今後目指すべき場所はすんなり決まりそうだった。
その他には大きな情報は……無いと言いたいが、実際にはある。
なんと、聖剣(短)を2本に出来るという物だ。
これまでそのまま長くしたり短くしたり、というところだったけど同じような物が2本に。
もっとも、武器として使う時には合体するようになって1本になるのでジルちゃんたちに挿し込むとき用、だ。
しかし、だ。
なんでわざわざ表面をソフトタッチにしてみました、とかやったのだろうか?
感触は柔らかく、でも中は硬いからしっかり入りますよって馬鹿じゃないんだろうか?
質感も相まって、ますますアレにしか見えない。
1人だけじゃなくて2人同時に可愛がってねってか?
「ご主人様、どうしたの?」
「はっ、ありがとう、ジルちゃん。危ないところだった」
横に横にとそれていった俺の思考をジルちゃんの声が現実に戻してくれる。
そうだ、今はそんなことより依頼である。数羽まとめて刃に当たってくれた相手を回収すべく、近づく。
大き目の犬ほどの大きさのそれは……鳥。口元には剥いだばかりの木の皮が挟まれている。
防風林として植えられている木々をついばむという魔物に近い状態の鳥を退治する依頼だ。
残念ながら、石英は小さいサイズが多いらしいけど、その肉は消えないので食料としても人気。
風に負けずに空を飛ぶから引き締まってるらしい。
「とりさんとりさん、から揚げになーれー」
「卵とかどこかにありそうですわね」
探すと思ったより数が多く、ジルちゃんの透明な短剣やラピスの氷柱が乱射同然に撃ち放たれてはいくつかを貫いて仕留めていく。
なるほど、依頼の数が10羽単位なわけである。普通にやっても10羽ぐらいなら何とかつかまりそうな数がいる。
みんなは罠とかを使うらしいけど、今日は特訓がてら、直接討伐だ。
見た目は……スズメが大きくなった感じだからちょっとかわいそうな気もするんだけどね。
今日も生き残るためだ、ごめんよ。
「トール様、これはつみれが美味しい気がするのです」
「おにくー、おにくだー!」
少しばかり気分が落ち込みそうになった俺の後ろで、既に仕留めたその鳥たちを順調にさばいている2人。
まあ、このぐらいがいいんだよね、本当はさ……。
屋台で食べられる肉もこういう討伐ものが多いのだろうか?と思いながらそのまま討伐を続けていく。
昼過ぎには結構な数が仕留められたと思う。俺達の感覚で結構な量、なのできっと驚きの量だと感じた。
そしてそれは正しく、ギルドに持って帰ったらそんなに消費しきれるかと怒られてしまった。
それでも彼らとしては多めに買い取ってくれたのは、もう何日か放っておいたら、木々は丸裸というか中身だけのようになっていただろうからだと思う。
害虫退治みたいなものだね。
「残りは収納袋に入れつつ……おじいさんたちに持って行こうか」
「うん。おばあちゃんとお話もしたい」
そういえば特訓も途中だった。まだまだ教わることも多いはずなので、ちょうどいい。
いつものように騒々しい街中を抜け、風の吹く小高い丘の上の灯台へ。
見える畑の作物も日々、大きくなっているのがわかる。
そういえばここは結界の範囲内なのだろうか?
おじいさんたちが暮らせてるのだからそうだとは思うけど……。
気のせいか、ここ数日なんとなくだけど結界の感じが薄い時がある気がする。
街の外と中を頻繁に出入りしてるせいかもしれないな。
「こんにちは」
「あらあら……今日はあの人は中にいますよ。さあ、おあがりなさい」
最初に出会った時のように、畑にしゃがみこんでいたおばあさんは俺達を笑顔で迎えてくれる。
「お邪魔します」
ジルちゃんたちの高い声が俺に続き、中で座っていたおじいさんの顔がほころぶ。
「いらっしゃい。お嬢さんたちも。これからだと特訓の時間はあまりないだろう? 気にせず行ってくるといいよ」
「おばーちゃん、はやく」
「はいはい、そうしましょうね」
よほどおばあさんの特訓は面白いのか、飛び跳ねるジルちゃんと手をつなぎながらみんなは外に出ていった。
残るのは俺とおじいさんなのだが、おじいさんも椅子から立ち上がると壁に立てかけてあった木剣を手にこちらに向かって来た。
「これでも若い頃は貴石術も近接もこなすぐらいはやれたんだよ。
少しは手助けができるかもしれないからね、やれるだけのことはやろう」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
俺はまだまだ、女神様にもらった体を活かしきれていない。
これは間違いない。少しでも動きが良くなるなら大歓迎だ。夕暮れまでの時間を有効に使わないと。
そう思いながら外に出た時、また違和感を感じた。
「あれ……?」
今度は確実な物だ。背筋を、何かの感覚が走る。
一度だけ味わったことのある感覚だ……。
「おっと、これは困ったね」
いいながらおじいさんが見るのは、街。
この高台からだと大きなルシースも一応全部視界に入る。
そんな中にある目立つ建物。そこから煙が上がってるのが見えた。
「まさか、あれ!」
「ああ、結界の装置だ。予備機材があるからすぐに切り替わると思うけど、その間はちょっと面倒なことになるね。ここから海辺に走っていくぐらいならこのままここにいたほうが早いね」
「早い……? あっ!」
街道の向こう側から、街道沿いにいるタイプの奴らが既に数匹街道に出始めているのが見えた。
街の冒険者が異変に気が付き、対策が取られるまでの時間。
その間にも魔物は遠慮はしてくれない。
「これはもう戦うのは無理とか言っていられないね。合流して何とかしのごうか」
「はいっ!」
とんだ実戦の訓練になりそうだけど、やれることをやるしかないのだ。
「マスター!」
「トール様、いっぱい来るのです!」
すぐそばにいたみんながすぐに駆け寄ってくることで俺達は一塊になることができた。
とはいえ、おじいさんおばあさんを前線に出すようでは後で叱られるどころじゃあ済まないだろう。
「フローラ、ひとまず走ってギルドにこっちの状況を伝えてきてくれる?」
「わかったよ。まっかせて!」
1番足の速いフローラに伝言を任せ、数を増やした街道沿いの影を睨む。
「今のうちに数を減らしつつ、牽制しようか。さ、準備だ」
戸惑いがあるのか、まっすぐこちらには近づいてこずにまだ遠くにいる魔物へと、俺達の先制攻撃とばかりにおじいさんの指示に従って貴石術が飛んでいくのだった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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