JD-066.「知らぬが……なんとかとは言うけれど」
さらに筆が滑りました。ご想像にお任せします!
浮上してきた意識が感じたのは息苦しさだった。
まるでぴったりしたマスクを着けて寝ていた時のような……。
でもなんだかくすぐったいような風を感じる。いや、これって……。
「!?」
温かさと水音、そしてぬるりとした何かを舌先に感じ、慌てて目を開くとそこには誰かの顔がアップがあった。
「あう……」
咄嗟に上半身を起こすと、妙に近くにいたジルちゃんがころんとあおむけになるようにして転がった。
状況的に、寝ている俺に跨るようにしてジルちゃんが覆いかぶさりながらキスをしていたことになる……え?
「ジルちゃん?」
「おはよう、ご主人様。むう、もうちょっとしてたかった」
2人の口元から透明な何かが糸のように伸びていたのはきっと気のせい……無理か。
半ば呆然と周囲を見渡すと、俺が寝ているのは既に何泊もしているいつもの宿の部屋。
大きなベッドにどんと寝ており、ジルちゃんだけでなくラピスやニーナ、そしてフローラもいる。
……あれ。
「フローラ?」
「あ、とーる。はー……キスってすごいんだね」
魂が抜けかかったような顔を赤くし、天井とも違うどこかをぼんやり眺めつつフローラが呟く。
ぎぎぃっと音がしそうな動きでニーナを見るが、こちらは言葉なく自分の口元を何度も指で撫でてはニヘラニヘラと笑っている。
そしてラピスを見ると、ぺろんと自分の唇を舐めてにっこり。
これは……もしかしなくても。
「ジルちゃん、もしかしてジルちゃんが最後だった?」
「うん。女神様がご主人様とキスをして伝言を受け取ってって」
犯人は女神様だった。なんでも順番に寝ている俺にキスをしては色々と受け取っていたらしい。
しかもジルちゃんの様子からして、みんな小鳥のような物ではないのだろう。
気のせいか、顔の周りがべとべとしている気がする。
「そっかぁ……」
体を起こしたまま、どこか寂しい俺がいた。
近々そうなるかなあとは思っていたけど、美少女4人のキスを覚えていないとは、不覚!
……だって、そうだよね? もう少しさあ、ムードというかなんというか。
「? ご主人様はキスは嫌?」
「嫌じゃないよ、大丈夫」
うるっと見つめられて否定的なことが言えるはずもなく。
結構な時間、みんなとキスをしていたかと思うと覚えていなくてもなんだか興奮してき……てない?
それどころか、妙にすっきりしているようないないような。
(……はっ!?)
「ねえ、ラピス」
「なんでしょう、マスター」
問いかけつつも、俺は確信を持っていた。
この状況は、キスに気が付かなかったなんてレベルじゃない。
もっと俺の色々が失われてる的な何かだ。
でもそれははっきりさせないといけないことなのだろうか?
「なんで、こんなに香水みたいなにおいがするのかな?」
そう、部屋は少しきつくないかなと思うぐらいに女の子が使うような香りに満ちていた。
まるで何かをかき消すような。真実を知ることが必ずしも正しい事とは限らない。
そんな感情が揺らめく。
「昨晩はお酒を多く飲んでいらっしゃったので、お部屋がお酒臭かったんですよ」
「そうかぁ……」
確かに、昨晩は皆で騒いだもんな。そういうことに……しておいた方が良いのかなあ。
「ご主人様」
「ん、なんだい。ジルちゃん」
ぼんやりしていた俺の服をジルちゃんが引っ張り、そちらを向くと何かを楽しみにしてるような笑顔のジルちゃん。
「えっとね、またご主人様の一杯出してほしいな」
そう言いながら、視線が向くのはこの状況でも静かなままの俺の……。
(どっちだ!?)
視線の先には聖剣(短)も置かれていた。マナ液を出したのか、そうじゃない物だったのか。
その事実を確認するのはなんだか怖い。
どうする、どうする!と悩むところで騒動は皆のお腹が鳴いてしまうことで終わりとなり、俺はもったいないやら悲しいやらよくわからない感情のまま、1日が始まる。
「続いて、トールさんと術士4人のチーム分です。おめでとうございます。ぶっちぎりの1位ですよ」
「奢りが確定なのに喜んだ方が良いんですかね?」
周囲からの冷やかしのような声を浴びながら、受付のお姉さんからシーゴーストでの収集品の鑑定結果を受け取る。
やっぱり収納袋は偉大ということで、持って帰れた量自体が全然違ったらしい。
扱いにくい装飾品などを優先して処分してもらうことにして、俺は大体のお店の手配なんかをギルドに丸投げした。
実際、それはよくあることのようで嫌な顔1つせずに職員らしき人たちが駆けていく。
前金で全部払ったのが効いたのかもね。
宴に参加する人間の集計をまず始めた受付さんは大変そうだけど、どこか楽しそうだ。
お祭りとかって、なんでか準備の時が一番楽しいとかいうよね。
「おめでとう、頑張ったようだね」
「あ、来てくださったんですね」
気の早い冒険者が騒ぎ始めている中、声をかけてきたのはおじいさん。
今日はおばあさんはいないようだ。と思ったら別の場所でジルちゃんたちと歓談中だった。
「今回は若い子達が頑張ったって聞いてね。そうだろうと思って来たのさ。大した怪我もなく、乗り切ったようだね、よかった」
「おかげさまで。お二人も参加してくれるんですか?」
時折声をかけてくる他の冒険者たちに笑顔で答えつつ、手近な椅子に座って向かい合う。
ここに来てくれたということは、俺達の奢りの騒ぎに参加してくれるのかな。
「そのつもりさ。それに、君たちには伝えたいこともある」
重要な、というわけじゃないけれどと前置きしておじいさんは語り始めた。
このあたりの注意すべき場所や、用意しておいた方が良いような物資等だ。
少し行ったところでは毒が多いと言った情報は非常に役に立つ。
俺達が病気になるかは別として、ね。
それによれば、普段からこの街の周辺には討伐に関する依頼も多いらしく、経験を積むにはいいのではないかということがわかった。
海辺だけでなく、山側にも村などは点在しており、よかったらそっちにもいってみてはどうか、ということだ。
俺としても色んな依頼を通じて世界を救うために魔物から石英をどんどん採取していく必要を感じている。
なので、自然と聞く姿勢にも真剣みが増すという物だ。
気が付けば、ジルちゃんたちも一緒に街に出て、色々と買い込みながらの会話となっていた。
「そろそろ戻るとするよ。では、また宴の時に」
おじいさんたちを見送り、俺達も一度宿に戻った。
そうして1日は過ぎていき、街は騒ぎに包まれる。
街中の冒険者が参加しているかのような騒ぎだ。
勿論、依頼自体がなくなるわけではないので、順番にということになるわけだが……。
今回の稼ぎはこれまでにない額だったらしく、適当に提供した分だけで相当なお金が動いた、と後から聞いた。
たまにはいいよね、うん。
あんな若い子4人も侍らせてやるなあ!といったやっかみのような、称賛のような言葉も幾つもかけられたのにはちょっと困ったけれども、おおむね高評価だったようで、ギルドに顔を出した俺達に手を振る冒険者が一気に増えたのは間違いなかった。
シーゴーストがいなくなり、日常を取り戻した港町ルシース。
おじいさんに聞いた通り、街が大きければそれに伴う冒険者向けの依頼も数多く、それは特別な事情などなくてもかなりの物だった。
俺達はしばらくの間、ルシースを拠点として依頼をこなしていくことに決め、日々を過ごしていく。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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