JD-064.「骨を倒すとどうなる? 骨が出てきます」
「とーるが、ボクの中に入ってくるよ……」
小刻みな吐息が戦いの音の間にも俺の耳に届く。
本当は優しくしてあげたいところだけど、ジルちゃんたちは今もボスであろう骨船長の攻撃をしのいでいる。
これまでのように怪我を抑える、というわけにはなかなかいかないだろう。
「ボクは大丈夫。やろう、とーる」
「わかった」
顔を赤らめながらも、覚悟を決めた瞳で見つめてくるフローラの気持ちに応えるべく、聖剣を押し込んでひねりこむ。
「ふぁぁあああ!!」
普段は元気でボーイッシュな発言が多いフローラの口から、女の子を感じさせる嬌声が響き渡る。
と同時に緑色の光が船内に溢れる。
新緑の木漏れ日のような、あるいはカクテルライトのような光まで。
それが収まった先には、どこかの歌劇団のような凛々しい女性が立っていた。
胸元は比較的ささやかだけど、ふくらみは十分女性だとわかる。どことなくアジアを感じる服装で、スリットがあちこちにありちらりと魅力的な肌が覗く。
男装の麗人と、女性らしさが同居するある種ミスマッチな姿。
全部色々とお任せしてしまいそうな感じもあるけど、鳴かせて見せて?等と言われたら我慢できなそうな……おっと。
瞬きの間にそこまで考えてしまう自分の頭に色々とツッコミは入れたいけれどそうもいかない。
そのぐらい余裕があったほうがいいかもしれないけど、今は目の前の相手をなんとかしないと。
『ヒトツガフタツ、フタツガヨッツ、ハイハイハイ!』
「腕が……増えた!?」
駆け寄ろうとする俺達の前で、ジルちゃんたちへと骨船長が4本に増えた腕で襲い掛かる。
いつの間にかその瞳の片方には、白い光を放つナニカ。
明らかに力を感じる、特別な物だ。
「そう簡単に! なのです!」
激しい動きで2本は確実に防ぎにかかるニーナ。
その服の下では皆より大きな膨らみが揺れているだろうけど今はそれを味わうどころではない。
残りの攻撃をラピス、ジルちゃんがそれぞれ防ごうとするもなかなかに鋭い。
熟練した戦士の姿がそこにはあった。
『ハチノヒトサシ、イタインダヨ!』
「そうは……させないっ!」
ぎりぎりで俺の飛び込みが間に合い、ラピスに振り降ろされていたシミターを半ばほどで切断した。
構えながらも、乱入はしてこないフローラ。
彼女には言ってあるのだ、細かく戦うといつ戻ってしまうかわからない、と。
だからこそ、そのための出番を作るのは俺達の役目だ。
「フローラ、俺達が隙を作ったら後は頼む!」
「まっかせてよ、とーる!」
声と口調は小さいまま。聞いてるだけで元気の出てきそうな明るい声。
きっと戦いでなければフローラは飛び跳ねていることだろう。
その想像と、今の凛々しさすら感じる姿とのギャップにどこか笑ってしまいそうになりながら、聖剣を構えてジルちゃんの横に立つ。
「ご主人様、コイツ……めんどくさい」
「斬っても斬っても……どこから伸びてくるんですの?」
既に両手の指の数ほどには相手のシミターや腕を砕いてるのだが、いつのまにか元に戻っているのだ。
『オアソビハ、ココカラダ!』
カタカタと音を立て、片方の瞳を光らせながら骨船長は再び襲い掛かってくる。
俺としては復活してくる腕よりも、この戦い方の方が厄介に思う。
表情やテンポ、呼吸のような物を感じない戦いがこれほど厄介だとは思わなかった。
筋肉もなく、関節さえある程度無視した動きの骨船長は思いもよらない向きからの攻撃をしかけてくるからだ。
「マスター!」
「っとお!? あぶなっ」
今もまた、肘が折れてるよな、それ!と言わんばかりに逆向きになった腕の剣先が頬のそばを通り過ぎる。かすった場所からじんわりと痛み。
「トール様、ごめんなさいなのです」
防ぎきれなかった、そう謝罪してくるニーナに首を振って答える。
なんてことはない、戦うというのはそういうことだとみんなが教えてくれたのだ。
骨船長を自由に動かせたらマズイ。そう感じた俺は聖剣と、女神様のくれた体を信じることにした。
「正面から惹きつける。フォローよろしくね」
「わかりました……ご武運を」
「ご主人様、頑張って」
ニーナは俺が危険に飛び込むことを了承したくはないようだけど、俺が前に1歩出ると頷きを返すしかない。
(ごめんな、今度活躍してもらうから)
声もなく迫る攻撃を必死に捌き、1本、2本と切り取るもまるで手品でカードがいつの間にか増えるかのように瞬きの間に腕が元に戻り、シミターも元の姿を取り戻している。
普通に戦ったのではどうにもならなそうだった。
「無限という訳じゃないだろ!」
そう願望を叫び、足を止めて聖剣をがむしゃらに振るう。
正直、剣道の授業を受けた程度の俺に剣の腕なんてあるわけがない。
それでも、だ。だからといって何もできないわけじゃない。
「させませんわ!」
横合いから青い髪をなびかせてラピスの手から伸びる氷の力が。
「いい加減、終わる」
フルコースのディナーに出てくるフォークたちのような姿でジルちゃんの生み出す短剣が踊り、骨船長の動きを阻害する。
「後ろには抜かせないのです!」
待機しているフローラへと投げられる剣はニーナが防ぎ、俺はそれを確認しながら姿勢を低くして飛び込んだ。
『ムボウモヨクボウノウチ!』
よくわからない声を響かせる骨船長の首を跳ね上げるようにして切り取り、返す刃で斜めに体に切り込みを入れた。
だが、気配が消える様子はない。
その証拠に、切り抜いた絵が立ち上がるようにどこからか骨船長の体がやってきて重なる。
元に戻ろうというのだ。だけど、その時間は先ほどまでより長い。
つまりは……。
「ようやく出番! いっくよー! バキューメント!」
瞬間、狭い船内を風が吹き荒れる。
その風に乗り、フローラが骨船長の背後に降り立ったかと思うとその右手を大きく振りかぶり、そして振り降ろした。
だけどそれは骨船長を砕く物ではなく、空を切った。
え、と声を上げるより早く、周囲のすべてがそこに吸い寄せられる。
真空を生み出した。そのことに気が付いたのは骨船長があっさりとその場所に引き寄せられた時だった。
『カカ!?』
何が起きたのかを理解していないらしい骨船長の戸惑いの声。
同時に踏ん張りがきかないのか、バランスを崩したのがわかる。
「続けていくよー! ボーテックス……キューブ!」
どこで覚えたのか、あるいは俺から持って行った知識なのか。
必殺技めいた言葉を叫び、フローラの手から暴風が荒れ狂う。
船内を吹き飛ばして回るかと思ったソレは、風の檻となって骨船長を包み込み、封じていく。
風の音に混じって、何かの声とビキビキと砕ける音がする。
「再生しようが……逃がさない……」
真剣な表情のフローラが力を籠め、風の檻が段々と小さくなり、それは一抱えほどの何かとなった。
「これで!」
はじけるような音と共に風は一気に散り、後に残ったのはバレーボールほどの骨色の塊。
「とーる!」
「おう!」
駆け寄り、聖剣を一閃。確実な手ごたえと共に、見えていなかった何かを砕いた気がした。
そうして、周囲に漂っていた気配が、消えた。
残るのはさらさらとした骨色の粉と、その中に埋もれるような白い1粒の真珠。
「終わったー!」
ポムっと音を立てていつもの幼女に戻るフローラ。
額には汗、激しい運動直後だもんな、仕方がない。
そっと真珠を拾い上げると、なんとなくコレクションの1つだという実感があった。
でも、何か今までと違う。
「この中にはいないみたいですわ」
「お留守……だよ」
本体は別の貴石に宿っているということなのだろうか?
これまではそのまま呼び出せたので意外な気がしたけど、そういうこともあるようだ。
大事な物として仕舞い込み、いざ本番。
船長のため込んだお宝とのご対面の時間である。
俺達は奥にある扉の前に立ち、警戒しつつもそれを開くのだった。
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増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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