JD-063.「骸骨船長の淡い夢」
「ほらほら、急げ急げ!」
「よーし、ボクにつかまって! いっくよー!」
シーゴースト、正確にはその船部分は非常に大きかった。
TVで見るような豪華客船かと思うような大きさの船体に対し、俺達が乗り込んだ船はまさに小舟。
遠くに見えていたビルに近づいたときの見上げてしまう感じに近い。
これでも港を出るまでは大きく感じたんだけどね。
近くまで来たところで、せかすように先輩冒険者、ベーラさんが叫んでくる。
本人はピックのような物を使ってどんどんと昇っていき、俺達はフローラのスキルである飛翔によって一気に舞い上がる。
それを呆然と見上げていた船に残った数名の水夫が慌ててシーゴーストから離れるべく船を操作しているのが眼下に見える。
何でも近すぎると巻き込まれるし、最悪の場合取り込まれるそうだ。
それは船上に降り立った俺達も同じかもしれない。
濃い潮の香り、あちこちについたよくわからない貝たち。
マストには何故だか海藻まで絡んでいる。
甲板には大小の穴が開いており、まさしく幽霊船といった感じだ。
船の上には同じく降り立ったたくさんの冒険者がいる。
そして、俺達を狙うシーゴーストの一部である骨の水夫たちも……。
「こいつらは石英も持ってねえ。下手に時間かけるんなよ!
約束したのは連れてくるまでだ、自分の分は自分で確保しな!」
「了解! みんな、広い場所だと大変だからどこかに飛び込むよ!」
遠目には弓らしきものを構えたやつまでいるみたいだから、どこかに入って限られた相手と戦うぐらいがちょうどよさそうだ。
その大きさゆえか、ほとんど揺れない甲板を走り抜ける。
狙うは……なんとなくわかる一番重要そうな部分。
そう、船長室の下あたりだ。
「マスター、なんでこっちなんですの?」
「カンだよ、カン。自分から遠い場所にお宝ため込むことは無いと思ってね!」
後ろからの声にそれだけを言って飛んでくる矢をニーナほどではないけど岩の盾を生み出してそらす。受けるには貫通が怖かったのだ。
「ふっとべっ、なのです!」
近いところにあった入り口から通路に飛び降りると、予想が当たったのか、明らかに甲板にいたのとは違う装備の骨、骨。
幸いにもみんな近接武器だった。前後にいるうちの前側へとニーナの生み出した通路一杯の岩の盾が衝撃を生み出した。
その間に後ろ側へと向かいながら作戦を立てる。
「ラピスはニーナの支援、足止めでいいからね。安全第一だ」
「了解しましたわっ!」
筋肉が無いような骨であっても凍れば動きは鈍る。
それをラピスが証明し、ニーナがそんな骨をあしらうことで時間が稼げるはずだ。
「フローラ、矢が飛んできてもいいように見張っててくれる?」
「うー、本当はボクも蹴りたいけど、とーるがそういうなら……」
狭い場所でのフローラの突撃は魅力的ではあるけど、どこから増援が来るかわからない状態では孤立はさせたくない。
無言で短剣を構えるジルちゃんは接近して来た1体の骨の攻撃をまともに受け止めようとして、避けた。
「ご主人様、これでいいの?」
「うん。出来れば怪我はない方が良いな」
応えながらも手加減なしの、聖剣切れ味最大でちょっと豪華そうな骨の剣を真っ二つ。
こんな海の上に出てくる相手の割に錆び1つ無いというのが謎すぎる。
上手く彼らの装備を集めるだけでも一財産になりそうだけど、今の目的は別にあるので適当に拾うぐらいにしておくことにした。
甲板よりは限られたスペースに定期的にやってくる骨の水夫たち。
直接斬り合うことはやめて、皆には出来るだけ貴石術での戦闘をお願いしてみた。
中には弓を扱いそうな個体もいるけど、曲がってすぐに撃ってくるような相手はほぼいなかったためだ。
最初に術を食らい、ひるんだところで安全に近接戦闘を仕掛ける。
多少時間は食うけれど、逆に安全に進んでいくので最終的な時間はこちらの方が速そうだった。
誰が何が出来て、どう動くといいのか。
短いながらも教わったことを意識しながら進んでいく。
骨の出てきた小部屋の中にも探せばお宝はありそうだけど、取りに行っている余裕がないのが実情だ。
すぐ別の通路でも冒険者たちが戦っている音と声がする。
どこからこれだけの骨が湧き出てくるのかは疑問だけど、ゲームのように何もないところからだとしても驚きはない。と、視線の先にやや豪華さの違う水夫らしい骨が1体。
この辺のリーダーというところだろうか?
カタカタと顎を打ち鳴らしながら、水夫リーダーがいわゆるシミターを突き付けるようにこちらに向けてくる。
「ラピス、凍結!」
「お任せですわ!」
周囲から骨が集まってくる前に、多分木製であろう床にラピスの貴石術。
真冬の早朝のようにうっすらと霜が降りたのがここからでもわかる。
「あと2回ぐらいかな……飛ぶよー、みんな」
フローラに3人が抱き付き、彼女が俺を抱えてふわりというよりびゅんという感じで前に飛ぶ。
表情が読めないのでわからないが、骨たちが驚いた気がした。
それは指示を出していたリーダー格も例外ではなく、どうしたらいいか戸惑っているようだ。
「悪いな。ここが目的地じゃないんだ」
それだけを言って、首を飛ばし、念のために腰骨あたりでも切っておく。
号令の無い状態の骨であれば今までと何ら変わらない。
「骨さん、しつこい」
「攻撃も軽めなのです……でも油断は無しなのです!」
あちこちで冒険者の物らしい歓声が聞こえるあたり、攻略は順調に思えた。
俺達もそろそろ大きな物を見つけたいところだけど……。
「とーる、アレ!」
「マスターついてますわね」
何度かの骨の攻撃を退けた先にある大き目の金属製の扉。
なぜか半開きになっているそれの前には10体ほどの骨。
強そうな相手は……いない。奥に見えるのは何かの光に照らされる金銀財宝。
ごくりと、冒険者ならば喉が鳴りそうな光景だ。
「きらきら……いっぱい」
「おおおー! すごいね、とーる!」
目を輝かせているジルちゃんやフローラは元より、ラピスやニーナすら視線が奥の方に向いている。だけど、ね。
「……マスター?」
「みんな、あの扉と奥に向かってなんでもいいから貴石術を打ち込んで」
威嚇するばかりで自分からは襲い掛かってこない扉前の骨たち。
半開きとはいえ、なぜか開いている扉。状況は示している。
お宝が目の前だ、つっこめ? いいや、違う。
「ご主人様?」
「いいから、早く!」
俺がジルちゃんのような透明な短剣を生み出し、投擲するのを見て4人とも慌ててそれぞれの属性の貴石術で遠距離攻撃を始める。
すると、だ。
「扉が……動いたのです」
「罠ですか……なるほど」
思った通り、ぐにょりと音がしそうな状態で扉や奥に見えていた光景、そして前にいた骨たちすら巻き込んで目の前で異形がうごめく。
そうして残ったのは、明らかに船長のような帽子をかぶった大き目の骨だった。
一体この体のどこにあれだけのものが詰まっているというのか。もしかしたら幻覚を見せる貴石術だったのだろうか。
『ゴメイサツ! メイタンテイニハ……ヤイバノゴホウビダ!』
マイクでも仕込んであるかのような声で、その骨が両手にシミターを構えてポーズをとった。
骨船長とでも呼ぶとして、正面から戦ってたまるか!
「フローラ以外の3人で無理のない範囲で時間を稼いで!
フローラ、解放……こんな場所でごめんだけど、やるよ」
そういって飛びかかろうとしたフローラの腰を掴んで引き寄せる。
その間にも、いつも通りにニーナは前に立ち、不動の構えだ。
「ガードはお任せくださいなのです!」
「ジルも、頑張る」
「どこまで冷気に耐えられるか……お試しですわ」
貴石術の光が通路を照らし、船長と3人の声が響く中、なぜか増援に来ない骨たち。
そのことに首を傾げつつ、都合が良い事ではあるのでフローラの前に立つ。
「とーる、こう?」
「ああ。全部俺に任せて」
これから起こることにか、期待と不安に頬が赤いフローラに微笑みかけ、俺は短くした聖剣を自らたくし上げて丸見えになったフローラのお腹に沈めていく。
4人目の、貴石解放が今、始まる。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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