JD-062.「幽霊船を目指して」
街を駆け抜け、ギルドへと飛び込むが今のところは普通の様子だった。
まだ、例の船は目撃されていないらしい。
「あら、どうされましたってお久しぶりですね」
受付のお姉さんが見るのは俺達の後に飛び込んでくる形となったおじいさんたち。
というか、2人とも足が結構速い。
「すぐに沖の確認を。キャプテンが出ましたよ」
おじいさんのその発言にギルドの受付達は固まり、ガタガタと背後で椅子から立ち上がる音が重なる。
「おやっさん。アンタの言葉を疑うわけじゃねえが、まじかよ」
「ついさっき灯台から見えましたからね。間違いないでしょう」
途端、歓声がギルドに満ちる。弱い敵、というわけじゃないだろうけどもその割にこの騒ぎようは……?
俺達が戸惑っている間に、外に出ていく冒険者や建物の中で何やら会議を始める面々。
俺は答えを求めて一番知っていそうなおじいさんに顔を向けると、無言で頷かれた。
「何が何だかって顔だね。無理もない。シーゴーストは……いわゆる幽霊船の一種なのさ。
上陸する場所を探して手先として半魚人を従える。つまり……」
「今回の妙に多い半魚人はそれが原因……」
そうさ、とおじいさんは頷いておばあさんと一緒に空いた椅子に座って待機の状態だ。
「お二人はどうしますの?」
「おじいちゃんたちも、戦う?」
ラピスとジルちゃんの問いかけに、二人は笑いながら首を振るのだった。
どうやら不参加ということらしい。
「さすがに戦いにはついていけないね。君たちは行ってみるといい。
もちろん、命の危険はあるけどね……さあ、どうする?」
「自分はどこへでもお供するのですっ」
「海賊船かー。楽しそうだね」
元気なニーナたちの声を背中に聞きつつ。俺はおじいさんの言葉に咄嗟には返事を返さなかった。
そう、そういうことだよ、とおじいさんの瞳が語っている気がした。
即断即決、それが大事な時もあればまずはワンテンポおいて考えることも重要だと。
「なんでこんなにみんな、喜んだ感じなのかを聞いても?」
「うん、そうだね。どこからか奪ったのか、自然とそういう物を作り出すのかはわからないけど、シーゴーストは船内に色々ため込んでるのさ。だから、危険もあるけど旨みも大きい」
そのまんま海賊船とそのお宝、ということだろうか。
中にはシーゴーストじゃないと手に入らないような加工品の類も手に入るらしく、貴重な扱いを受けているそうだ。
「どの船倉部分にあるかは結構バラバラだからね。
運が良ければ結構手に入るよ。そうでなくても銀貨金貨はあちこちに仕舞われてるからみんな必死なのさ。みんなで乗り込むからこっそりというのも難しいしね」
俺はその言葉を聞いて、少し怖い気がした。
人間、欲望という物にはやはり、弱いものだ。
それはお金であり、権力であり、地位や名誉。
そして……女性など人が相手ということもある。
シーゴーストの財宝は人を誘い込むための罠なのではないか、なんてこと思ってしまうのだ。
「まあ、何事にも裏表はあるだろうね。大事なのは何を優先するか、さ」
そんな俺の心を見透かしたような言葉に、顔が赤くなるのを感じた。
俺は俺のできることを、何を優先するのかをしっかりと決めないといけない。
「ご主人様、浮き輪もってこう?」
「ううっ、確かに海にドボンってなったらしっかり泳げないのです……」
幸いにも、俺にはこうして4人がいる。一人では足りなくても、みんなで考えよう。
「シーゴーストは上陸可能な場所を見つけるまで沖合で待機するからね。
今のうちに準備はしておくといいよ。そのうち、ギルドから緊急の依頼も出るだろうから」
それまでの間、自分たちはここにいるよ、とおじいさんたちが笑ってくれる。
俺達はそれに頷き、既に準備のために騒がしくなっているであろう街へと出た。
やはりというかなんというか、街のあちこちでシーゴーストの話題が出ていた。
曰く、港が埋まりそうなぐらい大きい。
曰く、でかい帽子をかぶったやつがキャプテンと呼ばれている。
曰く、日が沈むとなぜか沖に逃げる。
等の真偽の不明な話ばかりだった。
武具を扱う場所は非常に混んでいたけど、俺達が最初に確保しようとした浮き輪や浮くための物は今さらという感じなのかあまり人がいなかった。
「これなら邪魔にならないねっ」
「ぷかぷか……浮ける」
「私には必要ないかもしれませんわね……」
くるりと回転するフローラ、楽しそうなジルちゃん、いざとなったら泳ぐ予定のラピス。
3人は大丈夫そうだけど……。
ちらりと、浮き輪を持ったまま固まるニーナに視線を向ける。
「だだ、大丈夫なのです! いざとなったらトール様に抱き付く……のはやめておくのです」
「危なくなったらそのぐらいの方がいいかな、うん」
息が出来なくてってことはみんなにはなさそうだけど、だからといって放っておくと言うことはできないしね。
その他にも一通り、海賊船に乗り込むために必要そうなもの、を買い込んだ俺達は再びギルドへ。
熱気は増しており、チームを組むための話し合い等が活発に行われている。
おじいさんたちは色々な人から話しかけられては丁寧にそれらに応対している。
俺達が思っている以上に、二人はすごい人のようだ。
でも二人が灯台そばで暮らしているというのには何か理由がありそうだ。
「皆さん、注目です!」
受付のお姉さんの声に、中にいた全員の顔がそちらに向く。
そのそろった動きにジルちゃんたちがびくっとなって一緒に固まってしまう。
俺は彼女らのそんな緊張をほぐすように4人の間に入り込むとこっそりと服を掴んできた。
みんな可愛いなあと思ってるうちに説明が続く。
相手は予定通りシーゴースト。
現在、一部の海岸の半魚人を敢えて倒さずにいるのでそこに明日には上陸してくるだろうとのこと。
例年通り、遠距離からの攻撃は逃げる元なので禁止。乗り込んでの直接の制圧を行うように強く言われた。
(あのストームマンタの時のような奴が使えないということか)
あれが使えたら固定が楽そうだったのだけど、使えないのなら仕方がない。
財宝に関しては、お互い様なので喧嘩するなとは言わないが、以前それでシーゴーストに逃げられたこともあるので気を付けるように、とのこと。
「最後に、一番儲けた人は一晩おごりが待ってますから、拾いすぎには注意ですよー」
からかう様なお姉さんの言葉に、どっとギルドの中が沸く。
「ふふ、前の時には儲けもすごかったが出費もすごくてね。
結局、2番目に拾った冒険者の方が手に入れた財宝量は多かったぐらいさ。
その分、ひがみも減るからどっちもどっちかな」
その話に、なるほどと思った。
人間、ぼろもうけしたような人を見ると妬みといったものがどうしても出てきてしまう。
それを、みんなにおごることで発散させようというわけだ。
それがあるまで、きっと結構な事件はあったんだろうなと思わせた。
「お、来たね」
「アンタの呼びかけじゃ仕方ねえ。ん、なんだ坊主たちじゃねえか」
おじいさんが声をかけた先にいたのは、俺達にストームマンタの事を教えてくれた先輩冒険者。
ガハハハと笑う声が妙に似合う海の男の風貌だ。
「私の知っている中で一番お勧めできる経験者が彼さ。見込みのある子達だ、一緒に連れてってくれないかい?」
おじいさんの心遣いに気がつき、慌てて4人も一緒に頭を下げる。
すると、下げた状態の俺の肩をバンバンと叩いてくる。
「任せとけ! なあに、あれだけストームマンタで拾ってきたやつらだ。
今度も大丈夫だろうさ。よし、早速行くぞ」
陣取る場所も決めるのだ、という先輩冒険者についていくべく席を立つ。
「シーゴーストにはコアがある。そこを叩くとすぐに消えちゃうからね。
叩くときには十分気を付けるんだよ」
「ありがとうございます」
手を振り、騒がしさの残るギルドを出て俺達は導かれるままにシーゴーストを待ち受けるための場所へと向かう。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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