JD-061.渚のあれこれ、青年教わる!
何やらごそごそと部屋の棚をあさっているおじいさん。
その間、改めて部屋を見渡すと2人きりの部屋にこのテーブルは妙に大きいように見える。
「広いだろう? あれがお客が来た時にお出迎えが出来るぐらいがいい、と言ってね」
おじいさんは何やらよくわからない物をいくつかテーブルに乗せ、コーヒーのような苦みのある飲み物のお替りを入れてくれる。
「中に入った時に広いので驚きましたよ」
俺もまた、口調が丁寧になってしまうが、なんとなく、そう……なんとなくそうしたくなる相手なのだ。
「頑張った甲斐はあるよ。ありがとう。さて、まずはこれを握ってみたまえ」
「これは……あ、光った」
地球でいう子供が遊ぶゴムボールのような球体に手をやると、覚えのある色で順番に光り出した。
このパターンは、使える貴石術の確認だろうか?
「貴石術の適性がわかるんですか?」
「そのはずだよ。3色……いや、無色があるのか。めったにないことだね」
ボールの光り方を見つつ、髭を撫でるようにするおじいさんはそれだけで絵になる。
「見た時に感じてはいたが、貴石人というのはすごいものだね。君の中に彼女たちを感じるよ。良い絆だ」
「ありがとうございます。俺にはもったいないぐらいの子達ですよ」
思わぬ称賛に、気恥ずかしくなって頭をぽりぽりとかく。
本当に、ジルちゃんたちは掛け替えのない女の子たちだ。
一緒にいてほっとするし、ドキドキもする。
「ふふ。一方的な絆という物は長続きしない。彼女たちを見る限り、そうはならなそうだね。
真っすぐすぎて怖くもあり、恥じない自分になりたい、そういうことだろう?」
「……はい」
女神様にもらったチートな聖剣と体の事は言っていないのに、もう色々と見透かされてしまっている。
そのことに驚きつつも、どこか安心していた。
俺だけが抱える感情ではなかったのだ、という気持ちだ。
「すぐにどうこうできるものではないからね。私もあれと連れ合ってからは毎日自問していたよ。彼女に相応しい夫でいられているかとね」
時には無理もしたし、無茶な現場に飛び込むこともした。
そういっておじいさんは笑い、別の道具を手に取る。
「使える貴石術が多いというのは有利にもなるが、不利にもなる。
とっさに何をどうするか、を鍛えておかないといけないからね。
貴石術の申し子となれる彼女たちと違い、君の場合は何が出来て何ができないのか。
しっかりと覚え込む必要がある」
「自分の物にする、ということですね」
そうだ、と頷いておじいさんが手に取った道具、地球でよく見た懐中電灯のような形をしている。
ボタンらしきものもあるし、なんだろうなこれ。
「石英を燃料にして色々な道具があるのは知っているだろう?
これは使う人間のマナを燃料に動くものさ。対応した属性の光が放たれる。強く注げばより光る。
威力があるとかじゃなく、それだけだけどね」
「なるほど……」
くるりと持ち手側を渡され、おじいさんの意図を悟る。
もっと無意識レベルで、属性を切り替えたり、力を使うことを覚えていくことが必要だということだ。
「この部屋をよく見てみるといいよ」
「え?」
じっと懐中電灯もどきをいじっていた俺にかけられた声。
その声に従って周囲をよく見ていく。よく見てと言っても何を……。
(んん? あれ、もしかして?)
どことなく違和感。あるはずの物がない、そんな感じ。
ふらりと立ち上がり、部屋の隅にあるランプへと歩み寄る。
「あっ!」
「そう、この部屋の道具には石英の入れる場所が無いか、何も入ってないのさ。意味がわかるかい?」
途端、俺の目にはおじいさんが最初とは違う意味で老人には見えなくなった。
この人は、いや、夫婦はこうした道具を自分のマナと貴石術の力だけで動かしている。
お店で聞いた話によれば、石英を使わないと調整が大変だったり、ひどい時には力がそそがれ過ぎて爆発するのだという。
それなのに、ここにある物は全部自力が必要になる。
「何かの形に貴石術を使うのは結構簡単だ。火、氷、あるいは天の雷。
そこに在る物、あるいは見た物というお手本があるからね。
ただ、こういった道具に使うマナそのもの、というのは見えないから扱いが難しい。
それが出来るようになると、もっと世界が違って見えるはずさ」
「頑張ります」
その後もやや地味だが、光を出す懐中電灯もどきで訓練。
こうしてやってみると、やっぱりおじいさんと比べて光が出たり切り替わるのにテンポの違いが良くわかる。
「この道具は街でも安く売ってるからね。戻ったら買ってみるといいよ。
中の……そう、この部分に石英が入るんだけど、この辺を握ってやれば無くても光るんだよ。
貴石術が使える人限定だけど」
笑いながらおじいさんは両手で1本ずつ持ち、それぞれに違う色味の光を出すという芸当を見せてくれる。
というか、おじいさんも3色使えるんだね。
ジルちゃんたちみたいな関係がなさそうだから、実力でということだ。
「さて、こんな時間だ。彼女たちも戻ってくるだろうから、少しばかり料理の手伝いでもしてくれるかい?」
「喜んで!」
コンロ的な物まで自分で調整ということに
戸惑ったが、ジルちゃんたちが帰ってくるころにはそれも無事終わった。
「それでね、それでね。おばあちゃんすごいんだよ」
「そっか、やったね」
興奮気味に、外での訓練の様子を報告してくるジルちゃんに自然と俺のほっぺたも緩んでしまう。
ラピスは何やら納得したような顔で頷いているし、あまり考えていなさそうなニーナやフローラも笑顔で頷くぐらいだ。
「あらあら、褒めても何も出ませんよ。4人とも覚えが良いから年甲斐もなく張り切ってしまったわ」
口元に手をやって上品に笑うお婆さん。
どうやら相当に外ではいい経験が積めたようだ。
ふと、聞いておきたいことを思いだした。
「お二人に聞きたいことがあります。もうご存知かもしれませんが」
「あら、何かしら」
そう言いながらも、なんとなくこちらの言いたいことを察しているような気がする二人。
おじいさんは柔らかい瞳から真剣な物になっているしね。
「浜辺に半魚人が数多く出てきまして……何か海に起きてるんじゃないかと」
「なるほど。灯台に登った時も直接見たことはないねえ……何かあるのは間違いないだろうけどね」
さすがに正解がいきなり、ということは無かったようだ。
力になれなくて、と肩を落とす二人に俺も、みんなも首を振る。
その気持ちだけでもありがたいという物だ。
「念のために灯台に登ってみるかい?」
「ぜひ、一度見させてください」
食事を終え、案内されるままに登っていく。造りはやっぱり、地球のそれとあまり変わらない。
たどり着いた先には、大きなレンズたちと中央の灯り。
「すごい……今のジルたちじゃ作れないよ、これ」
「相当の技術ですわね」
俺から見てもかなりすごいと感じたレンズ部分はやはり良いものだったようだ。
おじいさんに誘われるまま、海側の窓に向かう。今のところ、水平線には特には……ん?
「あれって海に出てるっていう船ですかね」
「おや? まだ帰ってくるには早い時期だが……さて?」
ぽつんと、何かが見えた気がした。ついでに、一部だけかかっている黒い雲も。
懐から望遠鏡のような物を取り出したおじいさんの動きが止まる。
「これはいけないね。シーゴーストだ。すぐにギルドに報告にいかないと」
「俺達も一緒に行きます!」
鼻に届く潮の香りを感じながら、俺達は街へと駆けだした。
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