JD-060.「渚のあれこれ、不思議な出会い」
「ご主人様、今日は何をするの?」
「今日は、お勉強かな」
お勉強?と首をひねる4人を引き連れて朝の騒がしさに賑わう街を通り、ギルドへ。
昨日の今日であるし、状況の報告もしないといけない。
「あ、トールさん。話は聞きましたよ、危なかったですね」
既にあの時増援にきてくれた冒険者達から話が通っているのか、受付のお姉さんは心配そうな顔で俺達を見る。
実際、話を聞くと重傷を負ってしまい、療養中の冒険者が少なからずいるそうだ。
やはりあの数や相手は以前に比べておかしいそうで、討伐の推奨となり、人を集めているらしい。
近く、調査を始めるとのこと。何かわかるといいのだけど。
「ストームマンタも出てきましたし、何とも頭の痛い事です」
「出来るだけのことはしますよ。それで、今日はですね」
貴石術を学びたいので良い人はいないか。
そうお願いをした時のお姉さんの顔は見物だった。
何故だか、きょとんとしたまま硬直したのだ。
しばらくして再起動を果たしたお姉さんが俺、そして後ろのジルちゃんたちを見比べていく。
「ええっと、既に皆さんは貴石術を使えるのですよね?」
「勿論。ただ、我流なので……」
頭をぽりぽりとかき、事情があると思ってくれそうな言葉を口にする。
実際、ジルちゃんたちは貴石術を多く使える。でもそれは半ば本能のような物らしい。
自分の持つ力がなんであるかを知っているからこその物で、運用にはまだまだ荒い部分があると自覚できるそうだ。
だからこその、修行。
「そういうことでしたら、教室を開いてるわけじゃないですけど、灯台守の老夫婦の方が若い頃は稀代の貴石術士って話題になってたような……。10年ぐらい前までは現役でしたしね」
詳しい場所を聞き、さっそくそこを訪ねることにする。
依頼書たちを眺めていたジルちゃんたちに声をかけ、まだ賑わいの残るギルドを後にして街に出る。
まずは露店で手土産を選ばないと。
「マスター、お買い物ですか?」
「うん。尋ねるのに手土産なしじゃね」
そういうと、ラピスだけでなくみんなもあれこれお店を見始め、結局は結構な量の買い物になってしまった。
「とーる、まだいる?」
「もういいかな……うん」
さすがにこれ以上は相手も困るんじゃないだろうか。そう考えて切り上げることにした。
(問題の灯台は街のそばにあるらしいけど……あれかな)
街の通りからでも屋根の上に突き出ているそれが見えた。
歩くとそこそこありそうだけど……不便そうだな。
こうして歩いていると、それぞれの特徴が出るのが良くわかる。
一定間隔で、静かに、でもどこか子供らしく歩くジルちゃん。
まるで淑女のように俺の数歩後ろを歩くラピス。自然に全方位に動けるように姿勢を楽にしながら歩くニーナ。
興味津々と周囲を見渡しながら忙しそうに歩くフローラ。4人とも、なんというか……目立つ気がする。
みんな可愛いしね。
坂を上り、海に突き出るような小高い丘の上にその灯台はあった。
こういう物の構造は地球のそれとあまり変わらない。
レンズとかどうしてるんだろうね? 灯台の付近には小さな家と、畑。
恐らくこの家にその老夫婦は住んでいるのだろう。と、畑に人影。
「トール様、第一灯台守発見なのです!」
「だいぶ古いような気がするなあ……」
妙に元気なニーナの言葉に微笑みつつ、畑で作業をしている女性……思ったより若いな。
お婆さんと聞いていたけど、おばさんよりはおばあさん寄りだけどまだお婆さんと呼ぶには早い、そんな女性だ。
「おやおや、可愛らしいお客さん。お坊ちゃんもいらっしゃい」
「おはようございます」
まさかお坊ちゃん呼ばわりされるとは思っていなかったので、とっさにはそんな挨拶しか出てこなかった。
その間にもお婆さんは作業を止め、伸びをする。やっぱり、聞いているより若いような……。
「おいでなさい。お茶ぐらいは出しますよ」
「お邪魔するのです!」
「わーい!」
お婆さんのにこやかな笑みに断るという選択は出てこず、5人そろってお邪魔することになった。
小さい、といっても灯台と比較してであり居間に相当する場所は結構広かった。
俺達が座ってもまだ余裕のある大きなテーブル。
普段は夫婦2人で使うには少々大きすぎる気もする。
「おばあちゃん、おじいちゃんと一緒?」
「私達、こちらに貴石術士のご夫婦がいると聞いてやってきましたの」
そう2人が言うのを聞きながら温かい湯気を立てるコップのお茶を頂く。
ちょっと癖があるけど、地球で味わったどのお茶とも違う不思議な味だ。
「そう……あの人はすぐ戻ってくるから。話はそれからね」
灯台の点検でもしているのか、すぐそばにいるようだった。
失礼にならない程度に室内を見てみると、確かに一般人、というよりは過去には戦ったのだろうなとあちこちにある物品が語ってくれる。
置物になっているあれ、多分魔物から得た牙とかだろうなあ。
「戻ったよ。うん? お客さんがいっぱいだね」
しばらくして、扉を開けて入ってきたのは喫茶店が似合いそうなナイスミドル。
やっぱり、若いな。
「お帰りなさい、あなた。そうなの。私達に貴石術を教わりたいんですって」
「ほう。見たところ……必要そうには見えないけどね」
隣り合い、微笑みあう夫婦はまさに理想の1つと言えた。
俺自身、こんな風に歳を取れたらいいなと強く感じた。
「使えることは使えるんですけど、まだまだ甘くて」
正直にそういって、ジルちゃんたちも口々に問題に思っている個所を伝える。
それら1つ1つを頷きながら聞いていく夫婦。
「ふむ。力に振り回されている……とも違うね。さすがの私たちも貴石人に教えるのは初めてだから勝手がわからないねえ」
「生きている間に出会えるとは、世の中は不思議なものよね」
何気なく紡がれた言葉。その中の1つの単語に俺は髪の毛がぞわりとなるのを感じた。
この夫婦は、ジルちゃんたちを知っている?
「古いお話なのよ。世界に危機が訪れる時、貴石の化身である貴石人が世界を救う、とね」
「そうそう。誰もまともには信じちゃいないさ。私達みたいなのを除いてね」
話によれば、いわゆる勇者だとかと方向性は同じで、救世主が現れる!みたいなお話らしい。
かつてはそう呼ばれるほどの貴石術の使い手がいたそうだけど、何百年も前らしいので定かではないそうだ。
「改めて、お願いいたしますわ。マスターを、いいえ……マスターと共に世界を見て回りたいのです」
「ボクもっ」
「自分も同じくなのです」
「……ジルもだよ?」
真剣な表情で、夫婦に頭を下げる4人。
俺は4人の姿に言葉を失いつつ、慌てて同じように頭を下げる。
みんな、俺のためにそこまで……。
「頭を上げて。そのぐらいはお安い御用よ。じゃあ細かい調整やおさらいから始めましょう。
お嬢さんたちをお借りするわね」
そういって立ち上がるおばあさんは非常に元気で、心なしか若返っているような気さえする。
俺がそれに戸惑う間に、4人はおばあさんについて外へ。
部屋には俺とおじいさんだけが残った。
「あれが騒がしくて申し訳ないね」
「いえ、押しかけたのはこちらですし」
椅子に座り向かい合うおじいさんは腰が曲がった様子もなく、老夫婦、という言葉が逆に似合わないほどだ。
一体……。
「私たちが若々しいのが気になるかね?」
「! え、ええ。老夫婦、と聞いていたので……」
こうなってはごまかす方が逆に失礼だろう。
そう思って正直に口にするとおじいさんは声を出して笑う。
「ふふっ、そうだろうね。これも私たちが長い人生の末に手に入れた物の1つさ。
若返り……とは少し違うね。健康的に生きるという術なのさ」
それを聞いて俺は思った。まるでそれは女神様にもらったこの体のようだと。
「君にはそうだな……何から教えようか」
そうして不思議なおじいさんとの語り合いは始まった。
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