JD-058.「自覚」
物騒な音が耳元で通り過ぎる。
イルカライダーの繰り出した槍の一撃がぎりぎりを通ったのだ。
「こんのぉっ!」
チートな聖剣の切れ味なら、なんとかなると思っていた。
事実、当たれば斬れる。有効な場所に当たれば、ね。
イルカライダーは砂浜なのに、むしろ水上より動きが良いように見える。
「みんな、バラバラだと危ない!」
分断されかかっていることを感じた俺は、そう叫んで一番近いジルちゃんの元へ。
ニーナ、ラピス、フローラが3人一塊となっていくのを見て一安心する。
イルカライダーの数は見えているだけで6体。だけどその動きは倍のようにも感じる。
それ以外にも半魚人がいるのだから油断できない。
舞い上がる砂も視界を奪いがちで、切りかかった横からひれが伸びてきたりして驚く。
それでも当たれば相手は傷つく、それを支えに体を動かし続けた。
正直、最初に誰かを貴石解放すべきだったかとも思うけど、逆にマナ切れになった直後が怖いと思える動きだった。
「きゃっ」
「ジルちゃん!」
避けきれず、防御したジルちゃんの体が浮く。
とっさに腕を伸ばし、その手を掴んで引っ張りよせるも完全に回避とはいかない。
鋭い穂先がジルちゃんの太ももを貫き、赤が肌と服に走る。
宝石娘であるジルちゃんたちは怪我をしても血は出ない。
そう、思っていた。だけど、それは間違いだったんだ。
手ごたえを感じたのか、イルカライダーの顔が不気味にゆがむのが見えた気がした。
きっとそれは俺の感情が見せた幻覚。
それでも……俺の何かのスイッチを入れるのには十分だった。
どこかゲーム感覚で、死にはしないだろうと、何とかなるだろうという思い込み。
「これ以上はやらせるかよ!」
陳腐にもほどがあると俺の冷静などこかが突っ込むようなセリフが口から飛び出す。
左手にジルちゃんを抱え、右手に聖剣。さっきまでの状態と比べれな片手分、不利。
こちらに迫るイルカライダーもそれがわかっているかのように手にした槍が突き出される。
瞬間、足元の砂を土の貴石術で固めつつ、足元には風。
爆発でもしたかのような音を立て、俺がジルちゃんごと空に浮く。
ほぼ逆さまになる視界。女神様のくれた肉体はこんな状況でも天地や状況をしっかり俺に伝えてくれる。
(ここだ!)
浮いたままの俺の背中に再びの風。
骨が音を立ててきしみそうな衝撃を受けつつ、ジルちゃんと剣を握った手は離さない。
僅かな手ごたえの後、イルカライダーの胸元からイルカの尻尾まで、斜めに切断しつつ聖剣が砂浜に食い込む。
「ジルちゃん、大丈夫?」
「まだ、大丈夫。動ける……よ」
近くでよく見ると、先ほどの怪我以外にも細かな傷があちこちにある。
戦う上で怪我1つないというのは理想に過ぎない。
そんな言葉が頭に響くけど、俺にその覚悟がなかったことをジルちゃんの怪我が正面から攻めたててくる。
ラピスたちに向かっていないイルカライダーは2体。
1体倒されたことで色めきだっているように見える。
これまでは互いが邪魔になって同時には襲い掛かってこなかったからね。
「掴まって……行くよ」
「うん……」
左手にジルちゃんを抱いたまま、ジルちゃんも抱き付いてくる。
このままでも貴石術は使えないわけじゃない。
砂煙を上げて迫るイルカライダーの槍。俺はその槍をしっかりと避け……ラピスたちを襲っているイルカライダーに飛びかかった。
「貫け……」
耳元のつぶやきと共にいくつかの透明な短剣が飛んでいき、それに対処すべくこちらに意識を向けたイルカライダー。
だけど、それは悪手だ。
「隙ありなのですっ!」
踏み込みもしっかりしたニーナのシールドバッシュが一瞬、相手の動きを阻害する。
既に飛び込んでいた俺にとってその隙は見逃せない。
イルカの頭を踏むように目の前にたどり着くと、そのままの勢いで胸元へと聖剣を突き刺す。
硬い物、石英が砕けた感触と共にイルカライダーが砂浜に落ち、そのまま砕けるかのように溶けていく。
そう……俺は、本当の怖さを知らなかったんだ。
自分がいる場所が、死んだら終わり、そんな当たり前の世界だということに対して。
俺についてきてくれている4人の誰かが致命傷を負ってしまったらどうするつもりだったのか?
そう考えれば、土石流を止めに行った事なんか最たるものだ。
あのまま失敗して、全滅ではなくても誰かが犠牲にという状況になったとしたら。
そのことを考えていなかった自分に猛烈に腹が立ってきた。
だから……。
「ごめんね、みんな。俺……」
感情のままに言葉が口から出るけど、イルカライダーや半魚人にはそれは無意味。
ある意味空気を読んだ攻撃が俺達に迫る。
「反省はベッドの上で聞きますわ!」
「よくわかんないけど、とーる、頑張って!」
砂浜を凍らせ、足元をスリップさせるラピス。
そこへと突風を吹き付け、さらに姿勢を崩すフローラ。
イルカライダーが滑っていった先には、盾を断頭台のように構えたニーナ。
見事な連携がイルカライダーを沈黙させる。
「どんとこいなのですっ!」
常に相手の攻撃の前に立ち、それを防ぎ続けるニーナの体は小柄だ。
というかみんな小柄だけどね。それでも今回の戦いは苦戦しているようで、ジルちゃんのようにあちこち傷だらけだ。
(早く……終わらせないと)
焦りが頭をよぎった時、聞き覚えの無い声が村の方から響く。
襲撃された時の声ではない。
「ご主人様、味方みたい」
「! そうかっ!」
振り返るまでもなく、何人もの冒険者がそれぞれの武器を手に、砂浜に陣取る半魚人たちへと襲い掛かっていく。
これで数の上でもなんとかなる。その思いが足を動かし、俺達は二度目の乱戦を終えた。
増援にやってきた冒険者達との会話で、他の場所でも半魚人が多くなっていることを知る。
それでもここの数は少し異常であろうということでギルドに報告を勧められた。
俺としてもジルちゃんたちの怪我が気になるので、渡りに船といったところだった。
回収する物は回収し、街に戻る。その帰り道。
「マスター、気にしないでくださいね」
「ラピス、それは……」
背中に背負ったジルちゃんは暖かい。作り物なんかじゃない、一人の女の子だ。
横を歩くラピスが俺の気持ちが落ち込んでいることを察して声をかけてくるけど、それに甘えるのも良くないなと思う。
「俺はみんなに甘えていた。それじゃいけないと思ったんだ」
「意外とトール様はこういう時に頑固なのです」
「そうなんだー? とーる、抱え過ぎちゃダメなんだよ?」
ニーナの言うように、俺は変なところで頑固なのかもしれない。
それは男のプライドというには少し違うものかな。
どちらかというと……そう。
「ちゃんとみんなと向き合いたかったんだと思う」
「ふふっ、ジルちゃんが起きたらもう一度言ってくださいね」
これからはちゃんと胸を張って皆のご主人様です、って言われるような男に……。
(ん? それでいいのか?)
深く考えたらいけないような物を感じ、俺はジルちゃんを背負いなおして街への道を歩き続けるのだった。
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