JD-057.「ギョカイから始まる物語」
旅路なう。
早朝というには早い時間。まだ空も白くなるかというところだ。
それでも地球でも漁師にとっては朝早いのが常識だ。
半魚人とリーダーっぽい大魚人の討伐によって、漁がしやすいかもしれないと考えた村の人達は警戒しつつも船を出すことを決めていた。
不安は残るが、様子見をしていられるほど生活に余裕は無いらしい。
「やれることはやる、か。たくましいね」
この世界に来てから、寝不足という物はほとんどない。
たまに、そう……たまにラピスと色々あってあんまり寝れないときはあるけれども。
海に出ていく船たちを見送りつつ、俺は浜辺で調べものをする。
火の残っていたたき火に薪を放り込んで大きくする。
その温かさは、見事に俺の周囲から朝の冷えを追い出していく。
頬が緩むのを感じながら、手ごろな岩に腰を下ろした。
砂浜には半魚人たちの死体などはもう残っていない。
半魚人たちの石英は既に採取済みだ。残ったのは結構な数の鱗と、武器たち。
鱗は海の塩気に強く、入れ物や建物を覆うように使うことが多いらしい。
海の上では必須の物になるのだとか。毛皮みたいなもんか……。
そして、槍や剣等として持っていた武器だが、人間の作る物のような感じかと考えていたけど、どうも違う。
収納袋からそれらを取り出し、火の光に当てる。
「これ、巨大な骨か、貝殻か?」
聖剣で切り取った断面を確認すると、そこには金属的な物ではなく、骨のような、独特の白さがあった。
太い部分は骨で、薄い刃のような部分は大きな貝殻を磨いたように見える。
海の中でどうやって火を使うのか、と考えていたけどこれなら納得だ。
恐らくは貴石術で加工をしているのだろう。
「おはよっ、とーる」
いつしか白じむ空。まもなく夜明けというところでフローラが1番に起きてきたようだ。
「おはよう。早いね」
「うんっ、この時間の朝の風は気持ちが良いからねーっ」
なんとなく、わかる気がする。夜とも昼とも違い、みんなが動き出す朝とも違う。
不思議な、世界の合間のような時間だ。
「? これ、サンゴ?」
「ん、ああ、そうだね」
フローラが手にしたのは大魚人の手にしていた巨大な槍、さらにその飾り部分だ。
これだけでもいい値段が付きそうだ。ラピスに海に潜ってもらうのもありかな?なんて思うが、帰ってくるのを待つのが辛くなりそうだからやめておこう。
「わー……キラキラしてるね」
「そうなんだよな。みんな表面がこんな感じなんだよね」
眩しいほどに海面が光る。夜明けだ。
その太陽の光に照らすと、武器たちの表面が光沢を帯びる。
真珠とかその辺に近い物だから、わざわざ武器をコーティングしてるのかな。
腐食防止とかあるのかもしれないけど、ちょっと贅沢だ。
末端の半魚人にまでこんなものが出回っているということは、海の中には半魚人の王国でもあるのかもしれない。
何かに使えるかもしれないので武器たちはとっておきつつ、問題はこのサンゴである。
なんとなく、石英や貴石と同じ感じがするんだよね。
そうしているうちにジルちゃんたちも起きてきたようだった。
簡単に朝食を済ませて海を眺めるが今のところ、異常はない。
「ラピス、これってみんな使えるかな」
「ええっと……ちょっと難しいようですね。私たちは地上産なので、海の物とは相性が悪いみたいですわ」
そういうものらしい。そうなると売り払った方が良いのかなあ。
「ご主人様の聖剣なら……いける?」
「確かにトール様の聖剣ならなんでも行けそうなのです」
横合いからのぞき込んでくる2人。
そんなつもりはないとわかっていても、俺の聖剣、とか言われると変な考えが浮かびそうになるのは俺が汚れているからだろうか。
「じゃあさっそく……おお?」
「成功だねっ」
例のごとく柄の部分に押し当ててマナを通すと、面白いようにサンゴが消えていった。
結局、地球だと車が買えそうなほどの量のサンゴが聖剣に消える。
気のせいか、ちょっといつもより光り方が違う気がする。
装飾が少し豪華なような? 気のせいか?
「あ、そうだ。これも次は試さないといけないな。聖剣で直接相手の石英部分を切っても吸収できるかどうか、が気になるんだ」
俺がなんとなくそういうと、4人とも押し黙ってしまった。
あれ、変なことを言ったかな?
「結論から言うと、斬るとそのまま吸収されますわ。
ただ、マスターのお心のためには魔物相手だけにしておいたほうがよろしいかと」
「石英ごと斬ると、すぐにぼしゅって消える……よ?」
ああ、なるほど。そういうことか。
確かに、今のところ命のやり取りをするのは魔物ばかり。
でも、何かの犯罪に巻き込まれて人間を相手にする日が来るかもしれない。
そんな時、俺がどうするのか、ということにもつながる。
ジルちゃんの言うように、ぼしゅっと消えてしまう。
石英を失うというのはそう言うことだ。
貴石術を使う人間の中にも石英はあるらしく、運悪くそのあたりに矢等を食らうとどうしようもないままということになるんじゃないかな。
今のところ、人間同士で争う余裕はなさそうだけど、人間の欲望は目を濁らすからね。
そんな話をしながらの海辺。今のところは特に襲撃はない。
ちらほらと漁師さんたちの船が戻ってくるぐらいになっても半魚人は出てこなかった。
昨日のが堪えたのかなあ?
村の方を振り向きながらそんなことを考えていた時だ。
「とーる、あれ」
フローラが肩を叩くので海に顔を向けると、何か見えた。
(白波……?)
今のところ、水平線ぎりぎりのような距離。
慌てた様子で船がいくつか戻ってくるのを見ると、やはり、あいつらのようだ。
「フローラ、村の皆に何か来たと伝えてきてくれるかな」
「りょーかい! とー!」
5人の中で一番早いのは風のフローラだ。
打ち出された大砲の玉のように一気に駆け出し、村のほうへと消えていく。
村側はこれでよし、と。
「今日もいっぱいガードできるのです」
「大儲け……みんなハッピー」
近くなってくる影は見覚えのある姿。
どう見ても半魚人だけど何かに跨ってるな?
魚か……?
「いや、あれは……イルカ?」
「背びれに捕まってますわね」
波しぶきを上げながら近づいてくるそれはイルカに跨った半魚人。
イルカライダーとでもいうべきだろうか?
どこかのアニメみたいだな、なんて思っていた時。
俺の思考は止まる。思わず目をごしごしとするが目に入る光景は変わらない。
どうやら俺は異世界を舐めていたようだ。
よく考えればカニだってニッパやシオニーみたいになってるんだ。
イルカがそのままなんて誰が決めたんだ?
「トール様!」
ニーナの叫びと共に何かがぶつかる音。
目の前に迫った半魚人の攻撃を彼女が防いでくれたのだ。
「っ! ごめん!」
叫んで、ひとまず距離を取る。その間にも聖剣を鞘から抜いて構え、相手を睨んだ。
イルカに跨ったままの半魚人を。
「イルカに歩けるひれがあるなんて聞いてないぞ」
まあ、誰も言っていないのだから当然である。
イルカ本体は知ってる姿だけど、ひれの部分が稼働するようになっていた。
正確には左右に4つぐらいひれがあり、それを足のように使って砂浜を走っているのだ。
まるで足漕ぎボートの1種みたいな光景だ。しかし、威嚇するように叫ぶ姿は生き物。
「ええい、海に還れ!」
思わずそんな感じを当ててしまうほどの衝撃を感じつつ、俺はイルカライダーへの逆襲を始めるのだった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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