JD-055.「稼がないと大変です」
「今日から本格的に稼ごうと思うんだ」
「マスター、それは構いませんけど……どうしたんですの、急に」
くぴりくぴりと、可愛らしく俺の正面でカップに口を付けているラピス。
その佇まいはいいところのお嬢さんの様である。
ジルちゃんは結構お高いケーキらしきものに夢中だし、ニーナとフローラは何やらきゃぴきゃぴと女子トークだ。
主な内容がどうやって俺を守るかだとか、速く奇襲するための秘訣、みたいなのだったりして物騒だけど。
俺達がいるのは街の中に見つけた、いい感じの軽食処。
まるで地球のオープンテラスのあるカフェの様なお店だ。
客層もどこか身なりのいい感じの人が多いけど、中には女性の冒険者も結構いる。
逆に俺の居心地が良くないぐらいだね。
「いや、いわゆる地球の知識で大儲け、が出来なさそうだからね。討伐とかで稼がないといけないと思ったのさ」
そう、手元のカップだって明らかに陶器だ。
紙もあるし、他にも結構な技術が地球のそれと同じか、同じような進化を遂げている。
違いとしては科学の代わりに貴石術が発展を助けているようで、燃料の問題や環境問題といったことは発生していない。
ただ、女神様が憂いてるように、田舎の過疎具合というか、守り切れていないのは事実らしい。
この海岸沿いでも、小さな港町や村は必死なのだとか。
「なるほど……では今日はどちらへ?」
「はい! ボク、広い場所が良いな」
隣のテーブルからいつの間にかそばにきたフローラ。
元気よく語る内容は自分が動きやすいからという理由からの物だった。
それでもいいんだけどね、実際。
「それは行ってみないとわからないかな。昨日、良い話を聞いたんだよ」
もったいぶる俺に4人の視線が集まる。……少女4人にじっと見つめられるっていうのは癖になりそうだね、うん。
しかも、基本好意的な物だからなおさらだ。冷たい視線で興奮するほど変態さんではないからね……。
既に振り切ったロリコンじゃないのかというつっこみは無しで。っと、それよりもだ。
「近くの漁村にさ、半魚人が出るらしいんだ。しかも漁の邪魔をするんだって」
「邪魔な相手はどっかーん」
やや物騒だけど、ジルちゃんの言うように討伐が目的だ。
村を守るために必死らしいけど、それでも限界はあるのだから。
「きっと詳細はギルドで!ってなってるのです」
「あら、本当ですわ」
「うーん? なんでー?」
賑やかなことは良い事だけど、そろそろお店の迷惑になりそうだった。
たまに店員さんの視線が来るから間違いないと……思う。
出入り禁止にならないうちに撤退だ。
「じゃあギルドに行って話を聞こう」
「「「はーい」」」
ラピス以外の3人がハモるように返事をし、彼女1人はニコニコと3人と俺とを見て笑っている。
お正月とかに遊びにきた従妹たちを連れ歩いてるみたいな気分になってくるな。
この世界にもお正月とかあるんだろうか?
新年のお祝いとかはありそうだ……。
そのあたりも機会を見て調べておかないとな。
恐らくは普段通りの光景が広がっている街並みを見ると、ストームマンタから守れたのだという実感も沸いてくるという物だ。
やっぱり、こういうのはいいよね。行き交う人と、街並みを眺めつつ冒険者ギルドの扉をくぐる。
今日もにぎわう室内を見渡し、目的の依頼書が貼られていた場所にいくと……紙が増えていた。
「とーる、これのことー?」
「そうだよ。……今日にでも行った方がよさそうだね」
ジルちゃん同様、俺の腰ぐらいしかないフローラ。
そんな背格好だからこそ、ボーイッシュでも女の子だなというのがわかる。
いや、でも……この感じなら実は男の子でも……女の子の方が良いよね、うん。
賑わっている室内では俺達に懐疑的な視線も間違いなくあるが、見知った相手も結構いるので大きな問題にはなっていない。
中には俺たちぐらいの冒険者も出入りしてるから視線の理由は男女の比率だろうね。
ラピスが頭1つ大きいけど、それでも少女だからねえ……。
女性冒険者の中には、あんな子に戦わせて!と怒ってくる人もそのうち出てきそうだ。
そんなことを思いつつ、依頼書を剥がしてカウンターへ。
「報酬は討伐数に応じて、となります。後は滞在は最大で5日です。長いですか?」
「ええ、別の街で結界装置交換時の戦いにも参加してますし、大丈夫だと思いますよ」
「無理だと思ったら切り上げてくださいね」
基本的には自己責任のこの業界。
受付の人の確認も、ちゃんと考えてる?といったぐらいの簡単な物だ。
あれ、この人はストームマンタの報酬の話をしていた人だ。
「そういえばこの前のストームマンタの追加報酬っていつ頃わかりそうですか?」
「そうですね……これが終わるぐらいには。売却先がまだ決まっていないのがあるんですよ」
だから戻ってきてくださいね、という言葉にしっかりと頷き、待っていた4人と共にギルドの外へ。
相変わらずの賑わいに目を細めつつ、そのまま徒歩で街の外に出る。
向かう先はこのまま街道沿いの小さな村。
「半魚人……食べられない」
「その分、石英はいっぱいありそうなのです」
落ち込み気味のジルちゃんを慰めるニーナ。
若干、言葉の裏には戦える!という喜びが隠れてるようにも思える。
「とーる、半魚人って空飛ぶ?」
「どうかな、ジャンプぐらいはしても飛ぶのは無理じゃないか?」
その答えになーんだと答え、フローラは周囲の観察に戻っていく。
やっぱり目覚めてすぐだから色々と珍しいようだった。
「マスター、特に素材に出来ないようでしたらどんどんとにかく倒しましょう」
「そのつもりさ。村も守らないとね」
依頼書の増加、それはこのあたり一帯での半魚人の増加を示している。
結構な冒険者が受けているはずだけど、まだ足りていないようだ。
海の中に異変が起きているのか、あるいは……。
今回俺達が選んだのは、一番報酬の少ない村。
別に善意という訳じゃない。全くないかと言われると嘘だけどさ。
「ふふふ、守り甲斐がありそうなのです」
「あばれちゃうぞー!」
既に戦意満タンのニーナとフローラ、そしてジルちゃんとラピスもぐっと拳を握っている。
そう、報酬が少ないということは選ばれることも少ないということだ。
誰だっておいしい方にいくからね。逆に俺達にとってはやりやすい。
遠慮しないでも済むし、取り分でもめることも少ない事だろう。
見えてきたのはさびれた漁村。不漁が続いている、といったぐらいだろうか。
銛を手に門に立っている男性がいるから、まだ間に合ってると……思いたい。
「止まれ! 何の用だ!」
「依頼を受けた冒険者です。みんな貴石術を使えますから見た目より動けますよ」
俺がそういうと、門番の男性はえ?といった顔になる。
まあ、例のごとく、そうだよね。その後、目の前で貴石術を実践して見せると納得したようで中に入れてくれた。
村長さんに話を聞くと、やはり結構なピンチらしい。遅くても2日置きぐらいには半魚人が出てくるらしい。
来る時間が速いと朝晩とか、大変だね。
「早速今から海辺に出ます」
「本当か? ありがとう、ありがとう」
感謝の声にむず痒い思いをしながら、地形を把握するために砂浜に向かうと……すでにそこには何かがいた。間違いなく、半魚人だ。
「みんな、行くよ!」
他に冒険者はいない。稼ぎ時という訳である。
ちょっと大人げない討伐が幕を上げた。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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