JD-044.「湖畔の陰から」
泉というより湖であろう水場への探索の冒険。それは森の中をいつキラービーやハグベアー、あるいは他の魔物に襲われないかと気にしながらの物になった。
今さらながら、景色や空気といったものは地球では見たことがないほど、命に満ち溢れているように感じる。
足元の雑草1つとってみても、何かが違うのだ。ただ、動物自体は結構見かけるけど、魔物と言える物は先の3種類ぐらいだった。
周囲が岩山に囲まれていることを考えるとある程度周辺から隔離された場所、となるのかもしれない。
(というか、もしかしてここ……火山だったんじゃないか?)
ただの盆地と考えるには、条件がそろいすぎている。露出した岩肌にはTVで見たことがあるような溶岩の跡。
多くは既に土砂の下に埋もれているようだけど、一部だけそんな場所が途中にあったのだ。
専門家ではないので、本当に溶岩かどうかはわからない、そう思っていた時にニーナの指摘から本当の事だとわかる。
「この森や湖は比較的若いってことかな?」
「そうなるのです。その割に湖の水量が気になるところなのです」
確かに、元がそうだと考えると不思議なことは多い。そんな時、前方にこれまで以上に明るさを感じた。よく見ると、森が途切れている。
「マスター、そろそろみたいですわ」
「お花がいっぱい」
高台から見た時はわからなかったけれど、湖の周辺は花畑になっているようで、森が途切れると同時に一面の花々という光景になってきていた。
よく見ると、その花の上を見覚えのあるフォルムが飛び交っている。
「キラービーじゃなくて、ハニービーなのです!」
ここが蜜の元、ということになるのか……。にしても、あの大きさの巣でハチミツをためるとすると普通の花だけだといくらあっても足りないような気がするな。
ハニービーの巣が1つ、2つならともかく、それなりの数がこの森には生息しているはずだ。
森と花畑の境目で、しばらく観察をすることにした。そよ風と日差し、そして鼻に届く花々の香り。何よりたまに聞こえるハニービーの羽音が心地よいぐらいだ。
「ちょっとピクニックに来るには物騒ですけど、良い場所ですわね」
「ねむく……なる」
まったくもって同意である。そのまま耳を澄ますと、水の音が聞こえてきた。
ゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡すと近くに小川。どうやらこの湖から流れて行ってるようだけど……。
(水源どこだろうな……湧き水? いや、でもこの量は……)
3人に合図をしてその小川へと近づくと、その透明度に驚かされる。
浅いのもあるけど、全く濁っていないのだ。逆に透明過ぎて怖いぐらいに底が見える。
魚は……今のところいないな。と思いきや、すぐそばのよどみのところに動く影。
毒の水ということはないようで何よりだ。
そこに舞い降りてくる数匹のハニービー。こちらを見たような気がするけど、あの巣のハニービーではないのだろう。声を掛け合うこともなく、慣れた様子で川辺に降り立ち、顔を水面に近づけている。
「おみず、のんでる?」
「そのようですわね。あら?」
「トール様、あれを見るのです」
まるで小動物を観察する少女3人の様なほんわかする光景であるが、目の前で繰り広げられる光景はなかなか衝撃的な物だった。
水を飲んでいるハニービーが、青く光っているのだ。
正確には、水が通るであろう内臓を中心に、外骨格のラインであったり、関節部分などがネオンの様な輝きを放っている。
それは水を飲むことに連動しているようであり、ハニービーがこの川、湖の水を飲むことで影響を受けているのは間違いないと言える。
ふと、頭をよぎるのはハニービーの言っていた、石英を交換材料にしてハチミツをもらえるという話。
あのハチミツには花の蜜以外に石英があれば、と言っていた。と同時に、無くてもいいけど遠い、と言っていたな。
つまり、この川の水が石英の変わりということになる。この水には、何かしら石英と同じ成分が溶けだしているのではないだろうか?
地球の常識でいえば、何を言ってるんだ?という話だけどここは異世界。
石英や宝石、鉱石などの性質が多少違ったところで不思議ではない。そんなことを3人に言ってみると、基本的には肯定の返事が返ってくる。
どうやら湖の探索もした方がよさそうだ。今のところ、首長竜が出てくる、なんていうことはなさそうだけど、先ほども言ったがここは異世界。
唐突にビルぐらいのラッコが出て来てもおかしくはない。ゆっくりとハニービーの邪魔をしないように移動を続け、湖のそばにある巨岩にたどり着く。
自然にあるには不自然な大きさの岩だけど、これも火山の名残なのだろうか?
周囲には意外に岩が転がっており、花と岩、そして湖という組み合わせが一つの名画の様な風景を作り出している。
湖の透明度もかなりのもの、というかありえないレベルだ。半ばほどまで見えるとか地球でもなかなかない。
(さて……どうしたものか)
ここからでは特に透明度以外におかしい物は見えない。魚であろう物は結構見えるけど、大型の魚はおらず、大きくても40センチほどの魚影だ。
「って、なんで脱ごうとしてるの?」
「え?」
ふと振り返ると、ラピス服を半ばまでたくし上げ、今にも脱ごうというところだった。
あれ、潜るつもりなのか? とっさにラピスの手を取り、服を下げる俺がいた。
記憶に新しいのはラピス自体の貴石2つがスライムに捕まっていた光景。
まあ、あれは捕まっていたというより、この世界に落っこちた後にスライムに取り込まれたということかもしれないけど。
「何かいるかもしれないのに……危ない真似はさせられないよ」
「ありがとうございます、マスター。でも水は私の得手ですもの」
非常に心配ではあるけどそっと手を握られ、信じてくださいませ、と上目遣いで言われてはあまり強くも言えない。
「ラピス、気を付けてね」
「うう、自分は泳ぎが得意ではないのです……無念なのです」
背中に2人の声を聴きながら、ラピスを引き留めていた腕をゆっくりと手放す。
ラピスは俺の前で微笑むと、数歩下がってするりとそのまま服を脱ぎだした。
「そのまま、見ていてくださいな」
「ラピス……わかった」
陽光の元、幻想的な姿の少女が服を足元に落とし、下着姿となるという奇妙な光景に俺は言葉をなくす。
そういえば普段は半脱ぎか、部屋の中での私服が多かったな、等ととりとめのないことが頭をよぎっていく。
そして上、下とインナーまで脱いだところで俺はようやく状況に頭が追いついてきたようで真っ赤になるのがわかる。
ちらっと眼に入った姿は、まるで巨匠の彫像に命が吹き込まれたかのような物だった。
もっと向き合う時はちゃんと正面から見てあげよう、そう思った。
その間にもラピスは見惚れるような姿勢で水中へと消えていく。
しばらくはその裸体が見えていたけど、そのうちにだんだんと見えなくなり、ついには見えなくなる。
「ご主人様、座ってまと?」
「自分は後ろからの奇襲に備えておくのです!」
誰かがそばにいないということはこんなにも不安になる物なのかと、情けない気持ちになる。
だけど、そんな姿を2人に見せるのはもっと良くないと思い、微笑んでジルちゃんと同じように岩場に座る。
静かな時間が過ぎていく。それは30分か1時間か。
そわそわして来ただけで、10分もたっていないかもしれない。
「あ、みえた」
「帰って来たのです!」
もやっとした気持ちが、一気に晴れていくのを感じる。
綺麗なフォームで水中を泳いでくるラピス。岩から降りて水辺に向かうと、長い髪をぐっしょりとして体に張り付けさせた状態でラピスが笑顔で歩いてくる。
「戻りましたわ、マスター」
「お帰り。心配したよ」
俺は体がぬれるのも構わずに彼女を抱きしめ、帰還を喜ぶのだった。
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