JD-043.「そんな餌に釣られないクマー」
くまー!
「なんとぉーなのです!」
本人は気が付いているのかいないのか、どこかで聞いたようなセリフを叫びながらニーナは熊の攻撃を受け止める。
まともに食らえば人間の頭などごっそりとやられそうな巨体の一撃はニーナの構えた石の盾を砕くことはできなかったけど、その小さな体を吹き飛ばすことはできた。
いくらニーナがいわゆるタンクを得意としてると言っても、このまま前に立たせるのは危ないのではないだろうか?
威嚇するように聖剣をわざと目立つように構えて割って入る。
「ニーナ! 大丈夫かい?」
「はいなのです。ちょっと踏ん張りを間違えたのです!」
問いかけの間に後ろからジルちゃんとラピスの貴石術が飛び、熊をけん制する。
今のうちに間合いをと思った俺だけどニーナは俺の腕の中でけろりとした様子で、すぐに立ち上がって再び盾を構えなおす。
「とおぉおりゃあああ!」
再びの突撃。 相手の熊はそんなニーナの姿にもう一度再生したかのように再び手を振るう。
金属同士がぶつかったかのような大きな音。じりとニーナの足元が地面に沈むも、今度は彼女は受け止めた。
「今なのです!」
「熊の手、もらった!」
熊の顔をジルちゃんの放った短剣が襲い、足元はラピスの氷が縫い付ける。
俺は輝く聖剣で、顔をかばうようにした熊の手を、肘ぐらいのところで一気に両断する。
勢いで姿勢を崩さないように、抑え気味の切れ味は断ち切る手ごたえを俺の手に残してくれる。
痛みに吠える熊の首に、ラピスの繰り出す槍が突き刺さり、硬直。
どすんと、大きな音を立てて熊は倒れ込んだ。
「ふー、ひとまず石英と……毛皮も剥ぐのかな」
「依頼書によると、内臓以外は全身食べられるそうですわ」
お肉……とつぶやくジルちゃんの頭をぽんぽんとしつつ、さっそくとばかりにニーナに地面に穴を開けてもらい、そこに捨てていく内臓を出してしまうことにする。
ちょっと、いや……かなりぐろいが、これも生き残るため、仕方がない。
どういう仕組みかはわからないけど、皮を剥いでいたり、切り分けていくといつもなら消えそうな魔物であろう熊の体も消えない。
肉や毛皮というアイテム扱いになると消えないのかな?
手慣れた様子で熊の解体を続ける3人。血まみれの幼女3人というのは軽くホラーだ。
俺は最初の内臓出しの後は周囲の警戒をお願いされた。これは別に俺が手伝えないというわけではない。
「終わりましたわ」
「結構な大物だったのです」
「ラピス、ばしゃーんってやって、ばしゃあーんって」
でろでろとした姿になっている3人に、ラピスの生み出した水が頭から注がれ、色々と洗い流す。
「……着替えるところ、見たいですか?」
「後ろむいてるからっ」
こちらの視線に気が付いたラピスの小悪魔的笑みに慌てて後ろを向くと、背後で光が生じる。
そう、彼女たちはマナを少し消費して衣服を着替えることが出来るのだ。
服というか作るのに手間のかかりそうなものまで新品同様に、なんと下着まで再召喚される。
「いつでも、真っ白。ご主人様はパンツ嫌い?」
「好きだけど見せなくていいから!」
振り返った俺の前に立っているジルちゃんが自分の服をたくし上げて自らのパンツ、ローライズなそれを見せようとしてくる。
そりゃ、ジルちゃんたちみたいな女の子のおへそやその辺は魅力的だけど、今はそういう状況ではない。
我慢、我慢して熊の素材を収納袋に仕舞いこむ。そして残ったのは石英……だけど。
「少し茶色いですわね。ここで出るとは」
「これはカラードなのです! やったのです!」
大きさもさることながら、色が茶色というか、オレンジというか、そんな色。
透き通った石英の結晶の色付きはこの世界では初めて見た。
「カラード?」
ジルちゃんと一緒に首を傾げると、ニーナが石英を手に、興奮気味に話しだす。
「トール様の知識から言うと、マナ効率は普通のと比べて30倍ぐらい違うのです。
誰に入れてもどーんとパワーアップなのです。でも、今はジルちゃんに使ったほうが良いと思うのです。サブ貴石に仮にはめ込んで運用可能なのです!」
ニーナには悪いけど、なのですが色々と崩壊しそうである。ともあれ、これはレアなパワーアップアイテムということらしかった。
しかも、ジルちゃんになら一層の強化が可能らしい。ジルちゃんはじーっと石英を見つめている。
「じゃあ、戻ったらそれを使ってみようか。さ、奥へ行こう」
「いっぱい、がんばるよ」
全身に喜びのオーラが満ちてきたジルちゃんに微笑みつつ、実際にいた熊型の魔物を討伐すべく進む。
何度か遭遇していくうち、その生態が徐々にわかってくる。
最初はニーナに殴りかかって来た熊だけど、抱き付いてからの噛みつきと締め付けが必殺技のようだ。
熊同士の争いのトドメがそれだったからね。そうだな……ハグベアーとでも名付けよう。
時々後ろを確認しながら道を確認するけど、人がほとんど入っていないようで居場所が分かりにくくて仕方がない。方位磁石でも作ればよかったかな……。
「ご主人様、湖はこっち」
「え、ジルちゃんわかるの? って2人もか」
左に向いた俺をジルちゃんが引っ張りなおしてくれる。確信を持った声に聞いてみると、ラピスとニーナも頷いてくる。
宝石娘はレーダーも搭載してるのだろうか?
「ふふっ、マスターが少し方向音痴なだけだと思いますわ?」
「トール様、自分たちがいるから大丈夫なのです!」
(そう……なのか? まあ、いいか)
やや疑問が残るけど、わかるならそれに越したことはない。
キラービーの小さな集団を退け、続けて現れるハグベアーを仕留め、俺達は歩く。
途中、無傷で立派なハニービーの巣を見つけるもひとまずは手元の白地図に書き入れるだけにして今回はスルー。
3人が物欲しそうに見てくるけど、後でねと約束させたのだから心を鬼にして依頼を優先だ。
出会ったハグベアーの内、1回はハニービーの巣へ頭を突っ込んでいる時だったので彼らが天敵というのは間違いないだろう。
残念ながら、ハニービーは逃げた後らしく、ほとんどがハグベアーに食べられた後だった。
巣の残骸を見つめ、ジルちゃんたちが怒ったような悲しんだような顔をしているのが印象的だった。
それにしても、歩いた距離の割にハグベアーと5回も遭遇している。
この遭遇回数だと、思ったより森にはハグベアーがいるような気もするが……偶然か?
(ハニービーは実は希少種なのか?)
天敵が多めにうろついているとなると森はハニービーにとってひどく危険に思うが……。
その疑問は、すぐに解決した。 全身を何かに刺されたようにぼろぼろにしたハグベアーが倒れ込んでいたのだ。
キラービーかハニービーかはわからないけど、返り討ちにあったのだろう。
どうやら準備さえできれば問題ないというのは本当らしい。それに、養蜂の時期は暖かい時と決まっているというし、この時季ならではの光景かもしれないな。
「……瓶のハチミツをその辺に塗り込んだら近寄ってくるかな?」
1本取り出しつつ、何気なく提案したつもりだったけど3人の顔は絶望に染まった。
「ご主人様が……決めたなら……ジルは、ジルは……」
「所詮、私たちはマスターの物ですから逆らいませんのよ?」
「ううー……トール様ぁ……」
冗談だから、やらないから!と必死に弁解したのは当然のことだ。
発言には気を付けよう。そう強く感じたのであった。
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