JD-042.「モアベアー」
クマー!
「あれ、またラピスが元気、ご主人様も元気だけどお疲れ?」
「トール様、夜更かしでもしたのです?」
今回は途中で切り上げ、多少なりとも寝ることができたけど、ジルちゃんたちにはわかるぐらいには影響は残ったようだ。ラピスのご奉仕、恐るべしである。
(ジルちゃんたちに見つかったら……何してるのか教えてとか言われそうだな)
ジルちゃんたちの背格好で行うにはまず過ぎる。ラピスならいいのかというとラインはぶっちぎってると思う。
仮にジルちゃんたちが大人の体になっていたとすると、それはそれで別の問題が出るよね。っと、そういうことじゃなく。
「今日はどうしようかって考えててね。な、ラピス」
「ええ、その通りですわ」
ちろっと少し舌を出して自分の唇を舐めるラピスの顔をまともに見れないまま、俺は夜に考えていた通りにギルドへと向かうことにした。
ヴァイツとカセンドの結界の入れ替えは結構先だというから、ここは普通の討伐を多めにこなすのがいいんじゃないだろうか。
そう思いながらギルドへと向かうとハニービーの話が既に伝わっているのか、いつもと違う様子の冒険者たちが何組か見える。
「どれがいいかなーっと」
「ご主人様、おねーさんがこっち見てるよ?」
さっそくとばかりに壁の依頼書を見て回ろうとした俺だったが、裾を引っ張られながらのジルちゃんの声にそちらを向く。
そこにいる受付のお姉さんとは特に話したことはないはずだけど……。
明らかにこちらを見て手招きしてるので、無視という訳にもいかないだろう。
3人を引き連れてそちらに向かうと、お姉さんは安堵のため息をつきながらこちらに座ることを促してくる。
「なんだかごめんなさいね」
「いえ、何か連絡事項でも?」
俺は何かしらギルドからの連絡でもあるのだろうと考えていた。例えば、報酬額の変更だとか、そういった類の事だ。
「よかったら受けてもらいたいなって依頼があるのよ。場所はハニービーのいる森なんだけどね。これ、今貼り出すところだったんだけど……」
「熊さん……です?」
横からのぞき込んだニーナの言うように、差し出された依頼書には件の森にいると推定されている熊型の魔物の確認と、可能ならば討伐であった。
確かにはハチミツと言えば熊のように思えるけど、ハニービーがあの森にいるのは今回初めてわかったはずだ。なのに……。
「何故見つけていない魔物の調査依頼が出るか、伺っても?」
普段ののんびりした顔から、真面目な顔になったラピスにお姉さんが少しビビっているのが見えた。うん、俺も驚いた。
「えっとですね。特にもう見つけてるってことではないんですけど、この森以外にもああいう魔物はいまして、それらは話が通じないんです。ただ、その場所には大体、この辺の魔物が生息してるんですよ」
つまるところ、蜂型の魔物がいると熊型もいる、と。大自然の神秘という奴かな? 食物連鎖とは少し違うか。
「なるほど。ハニービーがコイツにむやみに襲われて数を減らすってことがないように、ですか」
俺の脳裏には、いつだったかTVで見た巣箱に頭を突っ込む熊の映像が浮かんでいた。
なんというか、豪快すぎて言葉も出なかったな……。
「! ご主人様、すぐ行く。ハチミツは守る」
俺の脇の下から飛び上がるようにして前に出てきたジルちゃん。
本人的にはすごく真剣な声と顔で依頼を受けるように促してくる。
ただ、その姿が妙に可愛らしく、俺とお姉さんが思わず吹き出してしまうのだった。
「はやく、はやく」
「待ってよジルちゃん」
結局、依頼は受けることにした。断る理由もないし、気になるところではあるからね。
まずはハニービー本人(本蜂?)に話を聞きに行くことにした。
冒険者が通るであろう場所から外れれば、人目も無かったので、4人そろって走る。
普通の冒険者の3倍ぐらいの速さで目的地のある森の中へ。今回はコボルトや他の魔物に出会うことはなかった。そうしてハニービーの巣へと向かうと、人の気配と笑い声。
「あら、先約の様ですわ」
「仲良し、ばんざい」
「女性3人組なのです」
(確かに、女性の冒険者だ……なんだか強そうだな)
視線の先では、ハニービーと話し込んでいる3人組が見える。
装備もしっかりしており、装備の間から見える体もしっかりと鍛えられてるように見える。
じゃないと女性だけの冒険者は大変だよね……。
「あら、同業者ね。私たちは終わったからどうぞ」
「お気をつけて」
わざと足音を立てて近づいた俺達に3人が振り返り、男1人に少女3人という光景に険しい顔をすることなく、同業者ということで挨拶をされ、すれ違うように去って行く。
(よかった。変な目で見られるかと思った)
もしかしたら、3人のためにハチミツを確保にきたと思われただけかもしれないけどね。
『あ、いらっしゃい! 今日はどうしたの? 蜜が欲しいなら少し待っててね』
「いや、今日はひとまず話をしにきたんだ」
俺がそう答えると、お話?とハニービーの1匹がその顔をくるりと動かし、じっとしていたかと思うと羽音が頭上から複数。
『『『おはなしー、おはなしするのー』』』
女王以上のアニメ声が重なって降りてくる。姿からは区別がつきにくいが、この3匹がだいぶ若そうだなと思う光景であった。
「この辺に熊の魔物がいたら討伐しようと思って来たんだよね」
『『『それはー、でかくて怖くてがおーってやつかなー?』』』
クルリクルリと3匹のハニービーが躍るように飛び回り、相手の大きさを示しているのか、何かの輪郭を描くようにする。
その大きさから行くと3メートルぐらいありそうなんだけど……おう。
「たぶん、それだ。見たことある?」
『『『あるー! あっち、あっち』』』
3匹が向くのは、山の上から見た森の中の泉というか大きな湖の様な場所の方。
「ありがとう。じゃあ帰りに寄るよ。ほら3人とも、ハチミツは帰りだよ!」
こっそりと巣に近づき、石英で交渉を開始しようとしていた3人。
俺は終わらなそうだと思ったのでまずは依頼を優先、と少し強めにいった。
3人はやや不満そうというか、それでもすごい可愛い姿なんだけど……。
「……ふぅ。確かに、憂いが無くなってこその楽しい生活ですわ。ジルちゃん、ニーナも。さくっといってさくっと帰って来ましょう!」
「うん。蜂さんのため」
「頑張るのです!」
なんだか3人共がすごいやる気だ。やる気があるのは良い事なんだけどね。
理由がハチミツというのも……まあ、女の子らしくていいか。
ハニービーたちに見送られつつ、4人で森の奥へ。動物がいるにはいるけど、狼や熊の様な襲ってくるタイプは今のところ、いない。
出会うとしたら、森を徘徊しているらしいキラービーの5匹ほどの集団ぐらいだ。
「キラービーが怖くてこっちに来ていないのかな」
「それはあるかもしれませんわ。キラービーの巣がどこにあるかがわからないので、私達も注意した方が良いと思いますの」
気が付いたら周囲を囲まれてました、は確かに遠慮したい。と、俺の目がキラービー以外の物を見つけた。大きくて太い体。
TVで見たような巨大熊が奥の方にいるのだ。
「ニーナ、無理はしちゃだめだよ」
「お任せくださいなのです。ハチミツのためならえんやこら、なのです!」
俺は相手の攻撃力が不明な状態なので気を付けるように言ったつもりだったのだけど、逆にそれはニーナをたきつける結果になってしまったようだ。
飛び出し、自分に熊の意識を向けるニーナ。こうなっては、任せないと逆に危険だ。
予定よりも変則的だけど、巨大熊との戦いが始まった。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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