JD-038.「潮干狩りならぬ……」
少女狩り!はしませんよ。
「これはちょっと予想外かな?」
「そう……ですわね」
目の前に広がる災害の跡、そしてそこを行き交う人、人、人。
奥にある廃坑にはあまり人がいないようだけど、そこに至るまでの道はここは街の中だっけ?というような状況となっていた。
ニーナの意外な姿、大食いだということが判明したさらに翌日。
冒険者ギルドに顔を出した俺達が見つけたのは、崩落した山の探索とその安全確認だった。
これは個別にではなく、誰でも参加OKのような全体への依頼であった。
その分、報酬もかなり安く、現地の成果次第、のようだ。
正しくは、好きに拾うも戦うのでもいいから、現地の情報を持ち帰ってきてね、ということだね。
なるほどー、等と思いつつ、妙にギルドの中に人がいないな?と思いながら現地に向かったらこれだ。
「みんな、拾ってる」
「コボルトもいないのです……くすん」
目をぱちくりさせ、驚いているジルちゃんに対し、どうやら戦えないイコール自分が役に立たないということで悲しんでいるニーナがいる。
短いツインテール幼女(巨乳)が落ち込んでいる姿というのもそれはそれで素晴らしいm、げふげふ……だけど、戦うだけが能じゃないのである。
ひとまずは現状把握、として見渡すと、この周辺は土石流、つまりは廃坑の中身そのものが流れ出ている。
となると何があるかというと、廃坑になったとはいえ、掘りつくされたというわけではないので、あちこちに売り物になりそうな鉱物の塊や岩盤が転がっているのである。
そして、たまにコボルトだったであろう石英も。
労せずということで人が集まっていることは丸わかりだ。
ここで拾っててもいいのだけど、それはあまり効率は良くない。
「みんな、奥の方へ行こう。ここは喧嘩もあるしね」
そう、俺の言うように視界の中ではあちこちで言い争いのようなことが起きている。
まあ、ここは俺のだ、とかそういうもんだね。
奥の残っている部分へ行けばまだコボルトが出てくるかも、と考えるとこのあたりが限界なんだと思う。
見るからに一般人です、みたいな人もいるからね。
あの人なんかザルしか持ってないぞ……。
潮干狩りに来たおじさんのように見えて仕方がない。
「ギルドの依頼でも廃坑跡の具合の確認は必要ですものね。
さあ、ニーナちゃん。落ち込んでる場合じゃないですわ。きっと出ますわよ、敵が」
「ほんとなのです!? やるのです!」
ラピスのからかう様な声に、がばっと顔を上げて鼻息を荒くするニーナ。
その切り替えに思わず笑ってしまうけど、それを引き出したラピスに視線を向ける。
ウィンク1つ、受け流された。本人は年上だとは言うけれど、見た目少女に軽くあしらわれるというのは少々恥ずかしい。
まあ、今さらなのでは、という学説が俺学会の中では定説になりつつある……。
いくつかの視線、同業者の視線や一般人のあれ?といったものを背中に受けながら、俺達は安全に気を付けながら鉱山、廃坑部分へ。
あちこち泥だらけだけど、大体の形は残っているといえる。
ただ、中を濁流が通ったのか、あちこちが崩落しているのが問題だ。
一度潜った場所を覗き込んでみるけど、そこは大小の岩でほとんど塞がれていた。
「これは探索は難しいか?」
「あたりを見回ってからにした方がよさそうですわね」
掘られていない場所そのものは大丈夫そうだ……となると登るのもありか。
「……来た」
「上からなのです!」
2人の警戒の声に俺も聖剣を構え、見ていたのとは別の山肌へと視線を向ける。
そこから駆け下りてくるずぶ濡れのコボルト3匹。こいつらには引っ越すという考えはないのだろうか?
『コボー!?』
何の策もなしに突進されては、軽く撃退せざるを得ない。
生き残りなのか、あるいは昨日今日で増えたのか……。
「なんだか少し小さい?」
「ジルちゃんの言う通りですわね。成長前……後から増えたほうの様ですわ」
溶けて消える前のコボルトを確認していた2人からの報告。
確かに、一回り小さかったような気がする。
「穴の方はもう無理みたいなのです。崩れてないほうから登ってみるのです?」
「足元が崩れても危ないからゆっくりね。ニーナ、頼りにしてるよ」
そう、ニーナは崩れそうかどうかがわかるという能力を持っている。
この前は、雨が降ってこないと崩れてこないと言うことで探知外だったそうだ。
やる気を出しすぎて空回りされても困るので、適当に肩を叩きつつ4人で山を迂回して歩いていく。
こちら側は木々が多いためか、崩落の影響をあまり受けていないようだった。
元々は山道だったのかなと思える道を4人で歩き続ける。2、3時間は歩いただろうか。
馬か、あるいは俺達も視線を気にせず走ればそれなりの時間でたどり着けそうな場所だ。
既に周囲には土砂は無く、崩落した個所はかなり後方だ。
やはり、かつて大規模に掘られた側が大きく崩落しているようだ。
恐らく原因は、大雨、そして地下水、最後にコボルトだ。
元々、廃坑となったところに雨は降り、さらには鉱山につきものらしい地下水があちこちに影響を及ぼしていた。
これまでは無事だったのだろう。そんな中にコボルトだ。
彼らに計画という言葉などないに違いない。好き勝手に掘り進み、あちこちに穴を開け、水の流れにくい場所を作ってしまったりした結果、あちこち穴だらけなのに水をため込む大きな入れ物が出来上がった。
それが大雨により限界を迎えて崩落してしまったのだ。
特に計算とかはできないけど、状況的にはこれは間違いないと思う。
「見た感じはそうなのです。現に、コボルトのあまりいないこちらは無事なのです」
もっとも、全部ニーナの受け売りなのだけど……。
あれ、頭脳労働までヒモ……いやいや、そんなはずはない。
「ご主人様、向こう側が見えるよ」
「あらまぁ……良い景色……と言えば素敵ですけども……」
悶々としていた俺の耳にジルちゃんとラピスの声が届く。
2人とも、やや驚いたといった感じだ。 2人に追いつき、向こう側を覗き込むと、そこには一瞬何のことかわからない光景が広がっていた。
緑がうっそうと茂る森。
人の手がほとんど入っていないであろうと思われる森の奥には、ここからでもわかるほどの大きな湖があった。
探索には時間のかかりそうな、そして何かありそうな景色。
「ひとまず戻って報告かな」
せっかく探索するなら、ギルドからの依頼も合わせて受けたほうが色々と都合がよさそうだなと思う。
先に他の冒険者が行ってしまうかもしれないけど、どんな危険があるかもわからないしな……。
「うう、お役に立ちたかったのです」
結局、あまり戦いが無かったことに落ち込み気味のニーナをジルちゃんが明日があるよ、と冷静に慰めている。
そんな姿が妙に微笑ましくて、俺も先頭を歩きながらついこう言ってしまう。
「ニーナが元気がないと心配だなー。心配しすぎて冒険お休みしちゃうかもなー」
「! わ、私は元気なのです! ほんとですよ!? お胸の感触もばっちりなのです!」
元気になればいいと思っていたけれど、予想以上に反応したニーナが飛びついてくるなり自分の胸に俺の顔を押し付けてくる。
「ちょ!? そういうことじゃないよ!?」
ぽよんぽよんと服越しに跳ねる俺の手に収まりそうなほどの膨らみ。確かに嬉しいけれど、ちょっと違う。
いや、嬉しいけどね?
ラピスとジルちゃんの視線が刺さった気がしたけど、きっと気のせい、気のせい。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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