JD-037.「女の子は強い。でもそれは気持ちがあるから」
「はわわ、ごめんなさいなのです。トール様」
「ニーナはすごい頑張ったからね、ゆっくり休んで」
翌日、ニーナは起き上がれなかった。
体調不良というよりは、マナ補充をし過ぎて腰が抜けているらしい。
元気自体はあるのに、起き上がって歩けないという本人的には少々悲しい状態だ。
「いいなー、ジルもそのぐらいご主人様にされてみたい」
「うふふ、そうですわね。ちょっとうらやましいですわ」
寝転がっている姿を見られる恥ずかしさからか、起き上がれないことを恥じているのか、ニーナの顔は赤く、俺は横に座ってその頭を撫でる。
背中に届く2人の声は陽気だ。だから、ニーナの体にも問題があるというわけではないのだなと感じる。
「ありがとうなのです。しばらくは貴石解放はしないほうがいいかもなのです。
出来なくはないですけど……一度に一杯マナを使うのを覚えてしまったので、慣れるためにもゆっくりの方がよさそうなのです」
「そっか。何回も頑張ったもんね。ニーナのおかげだよ。それに2人も頑張ってくれたから街は助かったんだ」
役に立てそうにない、と落ち込むニーナに微笑み、やや自虐的かな?と思いながら言葉を口に出す。
実際、俺がやったのはマナ補充だけで、ニーナのように壁を作ったり2人みたいに勢いを殺せるような貴石術は使えない。
普通に戦う分には十分な貴石術は使えるだろうけどね。というか、言葉だけ聞くと誤解されそうだな。
(今さら……か?)
頭をよぎる考えを振り払うように首を振って立ち上がる。
このまま4人で宿にいてもあまり意味はないのだ。
勿論、ニーナのお見舞いというかそばにいてあげるというのも大事だけどね。
余りつきっきりでも気を使っちゃうだろうから、一度外に出てまた戻る予定だ。
「じゃあニーナ、買い物をしたら戻ってくるね」
「はい、いってらっしゃいなのです」
後ろ髪がひかれないわけじゃないけど、なんとなく、どっちもどっちかなと思った。
それに、駄目だったらラピスあたりが叱ってくれそうだ。それもどうかとは思うけど、ね。
2人を連れて、宿を出る。雨上がりの湿った中でも爽やかな風が通りを吹き抜ける。
足元はぬかるみ、油断するとずるっとこけてしまいそうだ。
降り注ぐ陽光も、暖かさは感じても今はまだ、暑さまではいかない。
やはり一日では復旧は出来ておらず、あちこちに積まれた泥が昨日の土石流のすごさを物語っている。
それでも行き交う人々の顔には元気がある。
土石流による被害は多少はあったが、多くは防げた。
どうやら俺達を目撃した人は多いようだけど、3人の貴石解放は見られていないらしい。
謎の貴石術師があの壁を作った、と噂されている。
「マスター、有名ですわね?」
「みんな元気、うれしい」
「頑張った甲斐はあったみたいだね」
2人に頷きながら、街を歩く。いくつかのお店は閉まったままだけど、開店しているお店も多くある。
どこから買い物をしようか悩みつつ、考えが頭をよぎる。
今回の事件では痛感したことがある。俺は、そう強くない。
チート的な体と、チートそのものの聖剣はあるけど、それを使いこなし、状況に対応できているかというと疑問が残る。
ただの大学生が何を、という話もあるだろうけど、今はそんなことを言っていられないのだ。
3人にばかり苦労させるというのも、我慢できないよな。
「けが人がいなくてよかったなあ……」
泥に押し流されたのだろう。
建物の間に乱雑に積まれた泥だらけの木箱を眺めつつ、誤魔化すようなつぶやき。
それは本心でもあるけれど、本当に言いたかったことではなかった。
自分でもあまり良くない思考の流れだなという自覚はある。もっと前向きにいかないといけない。
さ、何から買おうか。
そんなことを言おうとした俺だったが、突然ラピスに引っ張られ、物陰に押し込まれる。
俺の背中はさらにジルちゃんが押してきた。
「ちょっと、二人とも!?」
大声を出すのも変な気がしたので、2人だけに聞こえそうな大きさで叫ぶけど2人は聞いてくれない。
理由を問いただそうとした俺だったけど、顔を向けたラピスの顔は……ちょっと泣き顔だった。
「マスターが何を考えているか、私、わかりますわ。どうせ、自分はマナ補充ぐらいしかできなかった、というところではありませんの?」
ストレートでど真ん中である。バットを振ることも出来ず見送り状態。
もしかして、みんなとは心がつながっててダダ漏れとか?
「ご主人様は、わかりやすい……よ?」
その考えは横合いからのジルちゃんの言葉で否定された。
そうか、そんなわかりやすい顔をしてたのか。
「ラピスの言う通りかな。暴れたかったってわけじゃないんだけどね」
建物の壁に背中を預けて、こちらを見上げてくるラピスの目元を指で拭う。
「マスター1人でなんでもやれたら、私たちがやることが無くなってしまいますわ。
もっとも、頑張ってる男性も魅力的ですけどね?」
「ご主人様と一緒にいるからたのしい」
2人の励ましに、自分がどれだけへたれていたかがよくわかる。
このままでいいはずがない、そうだろう、俺。ふんすっと気合を入れて、2人に笑顔を向ける。
「ありがとう。これからもよろしく」
泣いたカラスが、ではないけど笑顔が戻った2人を連れて改めて街中へ。
ニーナはどんなのが好物なんだろうか。鉄鉱石の良い奴かな?って鉱物違いだ。
雨で足止めを食らっていた分を取り戻そうとしているのか、屋台の掛け声も元気に飛び交う市場でいくつかの食べ物を買い込み、宿に戻る。
「はぐはぐはぐ」
「ニーナは大食いキャラだったんだな……」
んん?とこちらに顔を向けるニーナに笑い、もっと食べていいよと促す。
その姿を1人分を確保済みのジルちゃんとラピスが見守る。若干あきれ気味なのは気のせいだろうか。
宿でも食事が出るというのに、ニーナは買ってきた食べ物を残らずと言っていい勢いで食べていく。
元気なのはいいことだね、うん。 ジルちゃんはいつの間にかパンを手にしたままうつらうつらと舟をこいでいる。ちゃんと寝かしてあげないとな。
「はふー……落ち着いたのです。でもやっぱり、食べ物より……トール様の方が美味しいのです」
赤い顔で言われると、別の意味に聞こえるから世の中不思議である。
焦りを誤魔化すように身を乗り出しつつ口を開く。
「動けるようになったら、現場を見に行こうと思うんだ。コボルトがまだいるかも確認したいしね」
「賛成なのです。上手く行けば流されたコボルトの石英が転がってるのです」
「ゆっくり慎重に、ですわね」
ラピスがごく自然にジルちゃんを抱え、着替えさせるべくベッドの1つへと運ぶ。
意外と3人とも力があるよね。互いを抱えられるんだもん……女の子って、強い。
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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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