JD-035.「101匹コボルト」
コボルトが住み着いたという廃坑。
俺達は、中にいるコボルトを討伐するべくそこへやってきた。
1歩踏み出した俺の足裏で砂利が大きな音を立てる。
(足跡がいっぱいあるな……)
思ったよりも大きな音にびっくりし、しゃがみこんでよく見ると湿り気があるのがわかる。
だからこそか、コボルトと思われる足跡も無数に残っている。
そのまま視線を前にやれば、手前の壁は乾いているけど奥の方には所々、湿った様子が見える。
どこかがふさがって湿気が籠るようになっているのか、あるいは雨がどこからかしみこんでいるのか。
どちらもありえそうだ。
薄暗い坑内をそのまま進むのは危ないので、一番背の高い俺が松明を持って火をつける。
ライターやマッチに慣れた現代人の俺だけど、火つけの道具さえあれば意外となんとかなる物だ。
というか、この道具も石英を燃料にした便利な道具だもんな。
「思ったより広いな」
「飛んだり跳ねたり、できそう」
俺がジャンプしてようやく上に手が届きそう、といった高さの坑道。
横幅は俺が両手を広げたより広い。つまり、それだけしっかりと掘っていた場所だともいえる。
ゆっくりと、出来るだけ騒がないように進む俺達だったが、それを無にするようにあちこちから足音らしきものが聞こえる。
「コボルト……ですわよね?」
「きっとそうなのです」
隠すつもりがないのか、そもそもそれを思いつかないような頭なのか。
コボルトという物の頭の良し悪しが図りにくい話だ。
『コボボッ!』
そして遭遇したコボルトは5匹。うち3匹ぐらいはこん棒だけど、残りは違う。
金属の輝きだ。土にまみれ、ひどく不衛生に見える刃物に当たるわけにはいかない。
「させないのですっ!」
「そのまま……お坐り」
先頭で走ってくるコボルトの攻撃はニーナがなんなく受け止め、横を通ろうとするコボルトはそのままジルちゃんの短剣の前に沈黙する。
俺はそのまま突撃……せずに後ろを振り返って別のコボルトの集団に突撃した。
耳に届く足音が横道から回り込んでくる彼らを教えてくれるのだ。
恐らくは驚きに顔をゆがめているコボルトたちは、聖剣の前に武器ごと両断され、崩れ落ちる。
相変わらずの謎の切れ味を誇る聖剣である。
「錆び錆びだけど熔かせば使えそうなのです」
「いっぱい、持って帰る」
倒れ伏したコボルトの胸元を切り開き、石英を回収し、持っていた武器も集める。
醜悪な状態のコボルトの死体に思うところがないわけではないのだけど、不思議なことに忌避感はあまりなかった。
動物の解体に慣れているということも無いはずなのだけど、今はありがたくその何かの恩恵にあずかろうと思う。
じゃないと、今後も魔物を倒せなくなるからね……。
「本当にどこにこれだけいるんですの!」
途中、ラピスが叫ぶほどにコボルトは数が出てきた。いつかのゴブリン間引きの様ですらある。
そのままならかなりグロい空間となるところだけど、石英が無い魔物は溶けていくという仕組みが助けとなる。
匂い自体はそこそこ残るけれど、視界的には今倒した分ぐらいしか残らないのだ。
なんとなく、周囲にマナが満ちているような錯覚さえ覚えるほど、あちこちで襲撃を受け、それを迎撃していく。
「もうそろそろいいかなあ……どう思う?」
「賛成。素材もいっぱいになってた」
恐らく100は倒したかどうかというところで、外の光の見える横穴を発見したのでそこから外に出ることにした。
コボルトの襲撃自体は一度に大量というわけではなかったので危なげない物だったけど、疲れてきたのだ。
素材はたっぷりと、石英も同様。
一度コボルトのような魔物が住み着くと、そこがどうにかならない限りは湧き続けるというので今後はヴァイツの街はこの場所のコボルト素材で町おこしでも図ることになるのだろうか。
それを狩る冒険者がいれば、となるだろうけれども。
「ふうー……さすがにこもりっぱなしだと息苦しいな」
「ご主人様、川があるよ」
外に出て伸びをしていると、服を引っ張られる感覚と共にジルちゃんに呼ばれる。
穴から少し歩いた場所からのぞき込むと、眼下には川があった。
廃坑の山を突き抜けるようにして流れており、地下から出ているのか、山の中を通っているのかはわからない。
水量の割に岩肌というか、幅は広いな。段々と削られていったというのが正しいだろうか。
「トール様。こっちにはいかないほうがいいかもです。ちょっと危ない感じなのですっ」
「しみ出してる水も多いようですし、崩落があるかもしれませんわ」
「じゃあ……戻るか。十分だろうし」
近くに開いている別の坑道を覗き込んでいた2人の意見に従い、俺はコボルト狩りを切り上げることにした。
「……ん?」
「どうしたの。ご主人様」
狭い坑道より、外を選んで山を下りて行こうとした俺は何かに気が付いて立ち止まる。
ジルちゃんが声をかけてくるけど、シーっと口元とで示して耳を澄ませる。
「……気のせい、か。何かきしむような音が聞こえた気がしたんだが」
「コボルトの立ててる音かもしれませんわね」
ラピスの言うように、コボルトの立てた音かもしれない。
音が続かないので正体もわからず、そのまま街を目指す。
その時の俺は予想できなかった。いや、良く知らないのだから当然か。
地球でも、廃坑に忍び込んでの事故というのは時折、起きている。
それらの多くは穴に足を取られたり、壁が崩れたといった崩落なのだが……。
その中には、雨や地下水の溜まった状態での崩落からの鉄砲水があるということに。
「雨か……」
コボルト退治を切り上げた夜から、降り出した雨。
バケツに雨水をためるのも簡単に思える豪雨と言える雨だ。
今は昼なので多少は雲が白い部分があるが、街は夜ほどではないけども暗い。
「参ったな……これはまだまだ荒れるぜ」
「そうなんですか?」
同じ宿に泊まっている冒険者らしい青年のつぶやきに俺も乗っかる。
今日の出発はあきらめているのか、相手は随分と楽な格好だ。
「ああ。毎年この時期はな……。くくっ、コボルト共も水没して終わりだな」
どうやら季節特有の物らしい。水没とまで言うぐらいだから相当降るのだろう。
「こんな雨なのにコボルトは生き残ったんですか?」
俺は去年のこの時期の同様の雨でもコボルトは生き残ったのかと聞いてみることにした。
どこかに逃げるとか、あるいは無事な空間があったということだと思ったのだ。
だけど……。
「ん? いや、去年は奴らはいなかったぜ。増えたのは今年からだよ」
「そうなんですか……へー」
その後も少し話をして、ジルちゃんたちがいるであろう部屋に戻る。
3人は出歩いて濡れるのも嫌なので、と部屋にいるのだ。
買い物にも連れていけないので俺としては申し訳ないけれど、ずっと土の中にいた時期を思えば刺激ばかりの日々だ、とのこと。
そう言う物なの……かな?
部屋に戻ってからも外を見るが、雨が続いており、不気味なほどの闇が広がっているだけだった。
犬系でいっぱい出るとこれしかタイトルが浮かばないのは反省すべきだと思いました。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると執筆意欲に倍プッシュ、です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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